幼なじみとの再会

 

 最後の盗賊を私が無力化したことで、騎士団が腰に携えていた鞘に手にしていた武器を収めています。


 周囲を確認しながらも騎士の1人が私のところに来て、地面に押さえ付けている盗賊を引き取っていきました。


 そして、騎士たちを率いていた上官と思われる人がワシ型の伝書鳥をどこかに飛ばしましたね。他に待機している騎士団の方が居るのでしょうか。

 ああ、いえ。盗賊を捕まえる予定でここへきているのなら、捕まえた後に運ぶ必要があるので、輸送のために待機している騎士の方が居るのかもしれません。


 それと、縛られていた御者が騎士によって解放されています。それと、他の馬車に乗っていた人も助かったことに安堵しているようです。


 これで盗賊に関しては終わりなのですけれど、この後、どうしましょうか。


 御者が解放されて馬車自体は無事なのですが、肝心の馬車を引く馬が亡くなってしまっているので、このままでは乗合馬車で先に進むことは出来ませんし。


 ああ、そうです。その前に1人で馬車に乗っていた女性と、盗賊に攻撃されていた男性の様子を見に行きましょう。

 まずは、近くに居た女性の方から行きましょうか。


「大丈夫ですか?」

「え? あ、うん。大丈夫よ。ちょっと安心して力が抜けちゃっているだけだから」

「そうですか。先ほど馬車の中で倒れてしまっていましてけれど、そちらでの怪我などは」

「ああ、確かに左足を挫いちゃっているけど、盗賊に触られることに比べれば気にすることではないわよ」


 痛みと不快感は比較するものではないと思いますが、盗賊に襲われたことや助かったことで少し混乱しているのかもしれません。それと、見たところ腰と左肩も怪我をしているようです。


「そうですか。ちょっと見せて貰いますね」

「え? 何で? あの……」


 女性の返事を聞くよりも先に左足首、腰、左肩に触れていきます。やはり、目に見えて怪我をしていた左足首が一番ひどいですね。腰と肩は軽い打ち身と言ったところでしょう。まあ、もう怪我はないのですけれど。


「これでいいでしょう」

「いや、何をって、え? 痛くない……? あなた、何をしたの?」

「回復魔法を掛けただけですよ」

「回復魔法? 使える人、少ないって聞くけど、それに使えるのって貴族くらいじゃ……」


 回復魔法は使用できる人が少ない珍しい魔法です。伝書鳥のように魔法が使えれば誰でも使える魔法とは異なり、素質のある人しか使えない、所謂属性魔法と呼ばれるものです。


 それと、この女性が言っていた回復魔法は貴族にしか使えない、というのは間違いです。平民でも回復魔法が使える方はいます。ですが、珍しい魔法な上、回復魔法が使えると貴族に気付かれた場合、貴族に引き取られることが多いのです。なので、貴族にしか使えない、という間違った認識が広まっているのでしょう。


「その辺りは気にしないでくださいね」

「え? あ、えっと、そう。いや、ありがとう。おかげで痛みが無くなったわ」

「それは良かったです。では、私はあちらに行きますね」


 盗賊に攻撃されていた男性の方を示してから私は女性の元を離れました。


 魔法は基本的に平民であろうと貴族であろうと誰でも使えるものです。


 ただ、使えると言っても所有する魔力量によって使える程度が異なるので、魔力量が少ないとされる平民には魔法を主に使う職業に就く者は少ないです。逆に魔力量の多い貴族は魔法を使う職業に就くことが多いですね。絶対ではありませんけれど。

 まあ、これは今考えることではありませんね。


 そして、私は男性の元へ行き回復魔法を掛けました。


 男性とその家族から感謝されましたが、あの場で助けに行かなかったことに対する罪悪感が湧きます。行ったところで複数人の相手は出来ないので仕方ない事ではあったのですけれど、後になって回復魔法を掛けたことで感謝されるのは複雑な気持ちです。


 とりあえず、怪我をしていた2人に回復魔法を掛け終えたので次に移りましょうか。


 御者の方は……騎士団の方と話していますね。近くに盗賊が連れていた馬が一頭いますので、亡くなってしまった馬の代わりにでもするのでしょう。


 それと御者の方は怪我はしていないようですね。抵抗しなかったのか、驚きで身を固めている内に拘束されてしまったのでしょうか。グルの可能性もありますけど、そうであれば馬を殺すようなことはしないでしょうから、おそらく違うでしょう。


 さて、御者と騎士の方の話し合いは終わったようですね。御者が馬を馬車に固定していますから、もう少しすれば乗合馬車は再出発できそうです。


「あの、少々お話を伺ってもよろしいですか?」


 馬車の様子を眺めていると、後ろから先ほど御者と話していた騎士の方が話しかけてきました。


「ええ、いいですよ」


 何故、私に話しかけて来たのかはわかりませんが、拒否することは無いでしょう。もしかしたら、家から捜索願が既に出ていてそれに気付かれた可能性はありますけど、拒めば変な誤解をされる可能性がありますからね。


「ではって、ああ……やっぱな」

「?」


 声を掛けて来た騎士の方へ振り向けば、その騎士の方が呆れたようにため息を吐きました。どうしてそんな反応をされるのか、と少し疑問を持ちましたが、騎士の方の顔を見てすぐ、その理由に気付きました。


「まさか、アレス……アレクシスですか? あ、いえ、久しぶり……ですね?」


 驚きのあまり言葉がとぎれとぎれの上、変な返し方をしてしまいました。


 いえ、何処かで聞き覚えのある声だとは、ほんの少しだけ思っていましたけれど、まさか国境を越えた先、アレンシア王国で合流予定だった幼なじみであるアレスだとは驚きましたね。


「ああ、手紙でのやり取りはしていたが、直接会うのは久しぶりだな。レミリア。というか、国境警備隊から最近盗賊被害が出ていると聞いて来てみれば、まさかお前が襲われているとはなぁ。まあ、間に合ってよかったよ」

「ええ、助かりました。ありがとうございます。あのままだったら、連れていかれていました」

「いや、レミリアだったらあの盗賊ぐらいどうにか出来ただろ?」


 確かに1人で逃げるくらいは出来たでしょうね。相手が馬を持っていたので逃げ切るまで結構時間が掛かったとは思いますけれど。


「そうですね。被害に遭っていたのが私だけならすぐに逃げ出すくらいはしましたけど、他の方も居ましたからね。私が逃げ出していたら、残った方がどうなるかはわかりませんし。なので、来てくれたのは非常に助かりました」

「そうか。ならよかったよ」

「はい」

「まあ、とりあえず、約束とは違う形にはなってしまったが、合流できたし、さっさと国境を越えよう。盗賊を輸送するための荷馬車も来たようだしな」


 アレスがそう言って示す先には二頭引きの大き目の荷馬車がこちらに向かって来ているのが見えました。


「では、私は乗合馬車に乗って向かいますね。先に国境警備隊の所で待っていてください」

「いや、それだと手間だろ? 確かレミリアって馬の相乗り出来ただろ? 俺の馬に乗っていけよ。その方が早いし楽だ。それに国境を通る時の手続きも簡単だしな」

「……そうですか」


 私はもう16ですから、こう言ったことは避けるべきだとは思うのです。ただ、国境を通る際の事を考えれば、確かにアレスの言う通りなのですよね。


「わかりました。アレスの指示に従いましょう。御者に声を掛けてきますね」

「ああ、俺も馬をこっちに連れて来る」


 そうして私はアレスが操る馬に相乗りして、国境を越えました。

 

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