第五話 ー激突、暁対雅ー

 オーダードームの地下。そこは巨大な駐車場が広がっていた。交差された太い鉄骨が車と車を区切り、それを白い光が照らしていた。時間は深夜三時。人通りは殆どなかった。

 当然の静寂の中、車道に複数人の男達が立っていた。黒いスーツに黒メガネ。メン・イン・ブラックと形容できる出で立ちだった。

 その男たちの方向へゆうゆうと歩く一人の男。大きめのフードを被り、その表情を目視することはできなかった。右手に木製の箱をぶら下げている。その雰囲気は浮世離れしたものだったが、黒服たちはさして気にする様子はなかった。恐らく何度か目にしているのだろう。

 「お望みの品は、ちゃんと持ってきましたよ」

男はその木製の箱を黒服達に渡した。黒服の一人がそれを受け取り

「協力、感謝する」

と事務的に述べた。男は低い笑い声を上げた。

「全てはこの世界の平和の為。しっかりと働いてくださいよ」

笑いの後、男はそう言い放った。その言葉に黒服は計画は順調に進んでいる、と答えた。フードから若干見える唇が満足そうに吊り上がった。




 公園のベンチに座り人の往来を眺めるのも悪くない。青空を仰ぎ、鈴鹿将暉はそんなことを心の内に思い描いた。時計台は午前十時を指し示していた。風見鶏は風を受けても動じていなかった。

 まもなく約束の人物がやってきた。

「よう将暉。元気そうだな」

男は手を振りながら将暉に近づいた。将暉も笑みを浮かべ男に応じた。

「左介も久しぶりじゃねぇの」

 河原左介かわはらさすけ。将暉のサポートを行う霊道士で、将暉同じく。霊道士は霊術を使うことで霊装武士の武装制作や援護などを行う、霊装武士にとって欠かせない存在だ。

 「んで、話ってなんだよ?」

左介から差し出された缶コーヒーを受け取り話しだした。あぁ、と応じた左介は

「君以外にも西園寺の研究に関わっている奴がいるみたいなんだ。それも君や僕のような潜入捜査でやってるわけじゃない」

と答えた。その発言に将暉は眉を潜めた。

「本物の協力者、という訳……?」

将暉の問いかけに左介は首を縦に振った。

「僕も奴の動向を探る。だが、万が一の場合は……」

「俺が、仕留める」

左介を遮り将暉が呟いた。そして、ピストルを模した右手を左介に向けた。あはは、と笑い声を上げた左介は

「物わかりが良くて何よりだ。流石は霊装武士一のナイスガイ」

と爽やかに応じた。まぁな、とドヤ顔の将暉はそのままコーヒーを口に運んだ。

 笑顔を浮かべていた左介だが、急にあらたまり話しだした。

「暁の事だが………あまり無理はしないでおくれよ」

慎重に話し口調の左介に対し、さほど深刻な顔を将暉は見せなかった。

「大丈夫だ。同族殺しは気が引けるかもしれないが、あくまで仇討だ。こいつも赦してくれる」

そう口から出し、左人差し指の霊装輪を擦った。

 鎧に宿った霊獣は、時に霊装武士が道を外さぬように働くという。霊獣の罰を少しばかり恐れていた将暉は、仇討と偽ることで同族殺しの罪から逃れようとしていた。将暉自身、客観的に自分の行動を理解できたが、改めるつもりはなかった。人間とはそういうものだと悟っていたからだ。

 「まぁ、なんか償えみたいなことになったら素直に応じる。だからなんとかなるさ」

未だ不安そうな顔の左介に向かい将暉はボソリと呟いた。左介は笑みを浮かべ

「あぁ。それがいいよ」

と答えた。






 テーブルを拭きつつ詩織は空を眺める。青いキャンパスに小ぶりの綿を散らした、そんな空だった。

 視線を店内に落とす。そこにはコーヒーを片手に据えた刃の姿があった。かすかな風にややロン毛とも言える彼の髪がなびいていた。

 「なんだか常連さんですね」

詩織は笑みを浮かべ刃に話しかけた。くつろぐ姿があたかも常連客のように見えたのだ。刃は朴念仁な顔のままだった。

「まだ二回目だぞ、バイト」

刃の的確なコメントに詩織は

「そう見えただけですぅ」

と少し口を尖らせ応じた。

 刃の無愛想ぶりは何処か常人離れしているが、美味いものを素直に美味いと言ったり、時々照れたりと、時々垣間見る刃の素直な言動を詩織は何だか不思議に感じていた。

 ツンデレ属性持ちなのかななどと考察していた時だった。客用のドアが開く音が聴こえた。その後、

「へぇ、いい店じゃあないのよ。穴場ってやつ?」

というのんきな男の声が鼓膜に届いた。その男の姿の顔は詩織も刃も見覚えがあるものだった。

「あなたは………!」

「お前は………!」

詩織と刃のほぼ同時の驚愕に男は満足そうに口角を上げた。

「お、奇遇じゃん。こりゃ無下に出来ない縁かもしれないな」

そして、硬直した二人をよそに軽快な動作で名刺を差し出した。目を丸くしたまま詩織がそれを受け取った。

「鈴鹿……将暉……」

名前を読み上げる詩織を頷きながら将暉は刃に目をやった。

「ひょっとして常連さんなの?シティライフ謳歌してるねぇ」

神経を逆なでするような言い回しに刃は表情をきつくした。

「黙れ。俺は常連じゃない」

静かな怒声に将暉はごめんごめん、と比較的軽い調子で謝罪した。

 そしてやはり、刃の時と同じように、高岩がぬっとキッチンから顔を出した。

「ほえー。この時間帯はお客さんあんま来ないんだけどねぇ。珍しいねあんた」

その言葉に将暉は笑顔で応じた。

「あらそうなんですか。いい店だからつい寄っちゃって」

さらりと人の喜ぶようなことを言えるあたり、この将暉という青年は人に取り入るのが得意なのだろうな、と詩織は思索した。実際、さっきのセリフは社交辞令というか、そう言うことを言い慣れている声音だった。

「あらあんた。お店見る目あるじゃないの。折角だからオムライス、食べてく?」

満面の笑みを湛える高岩。あいつ単純だな、と人格が小声で呟いた。詩織は苦笑いすることしかできなかった。

 「オムライスですかぁ。実は僕、そういう料理得意なんですよね」

その言葉と共に、将暉は親指でレジ近くの掲示板を指差した。コルク板に画鋲で固定された紙には『料理できる人、求ム!』と書かれていた。

 そう。喫茶たかいわで厨房に立てる人間は唯一人、この高岩豊しかいないのだ。一人で複数の客の料理を、客の飽きさせないうちに作り提供するという神業。これがいつまでも続けられるかは時間の問題だとやや不安な面持ちで張り紙を張る高岩の姿を、詩織は思い出した。

「……お前、いくら何でも厚かましいぞ」

耐えきれないのか、刃が不満を溢す。彼の牙を笑顔で受け流した将暉は

「いいじゃないの。お近づきの印に俺も何かしたいんだよ」

と言い放った。そしてまた高岩の方に振り返る。

「と言う訳で、お客さん来ないうちに仕上げるんで、僕の腕、見てもらえませんかね?」

高岩は少し黙り込んでいたが、唇を鋭くし、

「……カモン」

とキッチンを指さした。詩織と刃がまたしても叫声を上げたのは言うまでもない。

 程なくして、三人分のオムライスが運ばれてきた。高岩は終始感嘆の表情を見せていた。

「それでは、召し上がってみてくださいな」

将暉が自身に溢れた声で催促した。三人はいただきます、と口々にオムライスを運んだ。そして、

「あ、おいしい」

「………うまい」

詩織、刃の順に目を丸めた。その後、ガバっと椅子から高岩は立ち上がり

「素晴らしい!君のこの才能!うちで生かそうじゃないか青年!」

と将暉の手を固く握った。

「本当ですか?いやぁ、ありがとうございます!お褒めの言葉、身に余ります」

そう謙遜する将暉。

「ほんと、おいしいですよこれ!ぜひうちに来てください!」

詩織も耐えかねて将暉にそう伝えた。将暉磔の後頭部に手をやり

「いやぁありがとうね。かわい子ちゃんから褒められると弱っちゃうなぁ」

と答えた。

 とんでもない天才の光臨に歓喜する店内。だが一人だけ様子が違かった。

「お前なぁ、すぐ調子に乗るな」

刃がそう口走ったのだ。だがすぐにスプーンをオムライスに差し込んだ。

「褒めるのかけなすのかどちらかにしてくださいよ………」

詩織は少し呆れそう刃に言い放った。

「でも見てよこの食べっぷり!君、彼の胃袋掴んだねぇ!」

高岩は相変わらずハイテンションに刃を指し示した。確かにスプーンを動かす手は止まっていない。

「当然です」

ドヤ顔で将暉は応じた。刃の将暉を睨む目は鋭かったが、オムライスは綺麗サッパリ完食されていた。





 放課後。オカルト同好会部室の如何にも旧式と形容するのが相応しいパソコンをいじる匠海は、これだ、と声を上げた。自然と他の部員が彼の椅子の周りに集まった。

「こないだの怪物のこと、わかったのか?」

岡本が眼鏡をすりあげながら聞いた。パソコンにはおどろおどろしいフォントの赤文字で『恐怖体験の館』と書かれたページが開かれていた。名が示す通り、自分が体験した怖い話を書き残すというサイトだった。

「大分話の状況が俺たちのときと似てるんだよ」

そう言い返し匠海は『謎の人食い怪物』と書かれた見出しをクリックした。

 その体験談は、終電に乗れなかった投稿主が、深夜、男の死体を食い散らかす謎の女を目撃。その女と目があった瞬間、この世のものとは思えない恐ろしい姿に変身し投稿主を追いかけていたのだという。何とか逃げ切れたもののその日以来、深夜になるとあの女の視線を何処からか感じる、という趣旨の話が書かれていた。

 「これに似た話がいくつか見つかったんだよね」

匠海がキーボードを叩きながら体験談を見つめる二人に呟いた。

「……じゃあ、あの僕らを助けてくれた鎧の人の話はあったんですか?」

伊藤がこちらを向き口を開いた。だが、匠海は首を横に振った。

「いや、なかった」

「ほんと、何かのヒーローみたいだったよなぁ。そういやお前、そういうの詳しかったよな?」

背もたれに深く座り、岡本が匠海に問いかけた。妖怪じみた怪人と闘うヒーローの姿が匠海の脳内に瞬時に広がった。

 それと同じく彼の中で一つ、戦士の正体に迫る考えが浮かんだ。

「まさか………あれか!何かのすごい力でテレビのヒーローが現実世界に現れた的な!?」

ものすごい気迫から現れた一言。しかし、理解できる人間は一人もいなかった。

「………は?」

「いや、そんなアホな……」

二人共目を丸めてこちらを覗き込んでいた。

「………いや、前にそういう作品があったんだよ………ロマンあるだろ………」

 説明する傍ら、匠海はあの戦士の変身者と思わしき人物に話を聞いておけばよかったかもしれないと思った。例の怪物を説明しているときに。引っ込み思案が起因していたな、と匠海は回想した。陰キャの壁は高かった。





 


 筆を進めたいと念じるときに限り、原稿用紙はその白さを保つものだった。側頭部をペンで軽く叩きながら、詩織はそれを痛感していた。

「昨日は調子良かったんだけどなぁ………」

公の場たる大型デパートの休憩スペースにいるため、あまり大きく話せはしなかったが、彼女は確かにそう嘆いた。

 進まぬ筆から離れたい一心で、昨日までに書き上げた原稿を取ろうとした刹那、不意に横から伸びた手がそう手間をかけずに、重なった原稿を取り上げた。

「うぇ?!」

反射的に顔を上げる。そこに映っていたのは、原稿のマスを埋める、丸みを帯びた字を見つめる鈴鹿将暉であった。

「あぁ、悪いね」

彼女の視線に気づいた将暉は、これといって悪びれることもなく、原稿をテーブルの上に置いた。

「喫茶店の看板娘は小説家、ね。なかなかいいステータスじゃないの」

軽い笑みを浮かべる将暉の口から、そんな文句が溢れた。

「いやぁ………私、看板娘じゃないし、小説家でもないんですけどねぇ……へへへ…」

褒め言葉として、彼の一言を受け入れた詩織は照れつつも、やや困惑しつつも答えた。将暉は原稿を見つめている。

 「小説家になるの、夢なの?」

やはり、また不意に将暉が投げかける。

「まぁ、そうですね。まだまだ未熟ですけど………」

突然の質問だったので、少し間は空いたが詩織はそう応じた。未熟、という語句は今の自分に対する自虐の意味合いも込められていた。きっぱりはい、そうです、と答えられなかったのも、そのためである。

「いいじゃないの。未熟だからこそ、それが夢になるんだからさ」

知り合ってそう間もない人物からの言葉だったが、少しだけ落ち込んでした気分が楽になったような、そんな気がしていた。

 「俺の周りにさ、昔、そうやって夢に向かって頑張ってた奴がいてさ。結局、そいつの夢は叶わずじまいだったんだけど……」

不思議な心地よさに浸っている詩織を横に、将暉は独り語り始めた。その響きにはどこか悲しさが尾を引いていたが、それに対する心配を消すためか、将暉は再び笑顔を向けた。

「だからかわかんないけど、夢を持ってる奴のことを応援できるようになったわけよ。だから、詩織ちゃんも頑張ってね」

その言葉に、悪い響きはなかった。そう感じられるからこそ、詩織も自然と笑顔を見せることができた。

「ありがとうございます!私、頑張ります!」

その言葉に、おう、と快く応じたのを最後に、将暉はその場を去っていった。

 悪い人ではなさそうで良かったと安心するのと同時に、何だか温かくなった彼女の心は、だんだんと意欲が湧いてくる感覚を覚えていた。

「頑張らなくちゃな………」

そう呟いた詩織は、真っ白な原稿に向き直った。














 ネクロの気配を察知したということで刃が駆けつけたのはもう利用されていないトンネルの中だった。勿論、灯りの類は機能しておらず、出入り口から差し込む夜光を頼りに捜索する他なかった。

 「おい、本当にいるのか?」

刃がノウンに問いかける。

「まだ気配を感じるぞ」

それがノウンの返答だった。しかし、ネクロと思わしき化け物の影は見えなかった。

 捜索を続ける中、刃は札のようなものを見つけた。全体が赤黒く染まっていた。

「これは………?」

刃が札を広い疑問を呈した。少しの沈黙の後、ノウンが目を点滅させた。

「この札にはネクロの血が染み込んでいるんだ。だから気配を感じたのか」

 ネクロの気配。それは魔念のことを表す。ネクロは常に魔念を発しており、ノウンはそれを感じることができるという特色を備えていた。また、ネクロの血からも魔念を感じることができるのだ。

「誰の悪戯だ………?」

 刃がそう不満を漏らした刹那、火花とともに札が吹き飛び、刃の後方に落下した。そして新たに感じた気配の方向へ直様視線を向けた。

 そこには硝煙をたなびかせる銃口と男の姿が見えた。その男は見覚えがあった。

「そ、俺の悪戯」

飄々と近づく男、鈴鹿将暉は銃を持ち手を軸に回転させていた。

「お前………何が目的だ!?」

刃は将暉に怒号を飛ばした。しかし、彼の笑みによって受け流された。

 「平田詩織。あの子可愛そうに。ネクロの血持ってるんだろ?」

将暉の一言は刃の脳天を撃ち抜くような、衝撃を感じられた。

「お前………?」

「そうなんだろ、ノウンちゃん?」

刃を横目に将暉はノウンを名指しした。

「………嫌な勘が当たったようだな。刃、奴の言う事は真実かも知れない。奴がどういう経路で知ったかは理解しかねるがな」

刃は再び衝撃を走らせた。何故ここまで自分が動揺しているのか。その先の悲劇を、彼は既に知っていた。

「もし………ネクロの血が覚醒して……人を襲ったりしたら………。俺は彼女を撃っちゃうかもしれない」

「喫茶店に近づいたのは……あいつを殺す為……?」

やや動転している刃に対し、将暉は極めて余裕の姿勢を見せていた。

「ピンポーン。正解正解。だってネクロが居てもらっちゃ困るじゃーん」

「あいつは人間だ!」

「何を証拠にそんなこと?……まぁいいけどさ」

牙を向けんばかりに叫ぶ刃。しかし将暉は動揺する素振りを見せなかった。

 「なぁ、いま俺にキレてるよなぁ。そんな顔してんぜ?

挑発を崩さず、将暉は話し続けた。

「どうする?ここで喧嘩ふっかけても、俺、本山には黙っといてやるけど……?」

 霊装武士同士の戦闘は本山の許可がない限りは厳禁とされていた。鎧の剥奪は勿論、最悪、粛清の意を兼ね、処刑される場合もある。いずれにせよ、霊装武士の生命線を断ち切られる可能性を秘めた代物だった。

「刃。奴の言葉に耳を傾けるな」

ノウンが冷静に忠告する。それで何とか刃は思い留まることができた。

 その様子を将暉は溜息を漏らしながら見つめていた。やがて、苦笑を浮かべた将暉は

「ルールに縛られちゃって可愛そう。……俺が冒険させてやるよ」

再び困惑を感中に刃は将暉を視界に入れる。刃の視覚は、将暉が霊装輪を掲げる姿を認識していた。

「霊装」

トンネル内が青い光で一瞬、照らされた。そして、刃の目の前に雅が現れた。

「俺が先にちょっかいを出して、お前が正当防衛する。それなら問題ないだろ?」

一言吐き捨て、雅は銃を発砲した。側転で回避した刃は

「野郎、正気か?!」

と困惑の根を上げた。

「俺は快楽の為なら、頭のネジ外しちゃうタイプなのよね」

跳躍。そこから繰り出すパンチ。右頬を打たれた刃はトンネルの壁を背に受け、膝立ちの状態にまで追いやられる。

「くっ………」

「どしたぁ?死んじゃうぜ?、お前」

殺気を放ち近づく雅。だが、刃はゆったりとその場に立ち上がった。

「霊装!」

刃の姿が暁の姿に変わった。雅は満足そうに鼻を鳴らした。

「いいね。そうこなくっちゃ」

 走り出す暁。発砲する雅。銃弾は、暁の膝に直撃。盛大に火花が上がる。

「こいつ、関節を狙ったのか!」

ノウンが叫ぶ。意に介さず飛び上がる雅。空中からの銃撃で動きが止まる。だが、

「ぬぅぉぉぉぉッ!」

暁の右腕に炎が蓄積される。そして、地面に着地する寸前の雅にアッパーカットを放つ。吹き飛ばされるが何とか着地した雅。隙は与えない。先程の雅同様ジャンプする暁。そのまま右足を突き出しジャンプキック。しかし、雅のガードによって再び空中に投げ出される。だが、空中で回転し体制を立て直す。再びのジャンプキック。回転ダブルキックだ。

二発目は胸板にクリーンヒットし、ゴロゴロと後ろに転がり込む雅。

「へぇ。やればできんじゃん」

 相手には戦いを楽しむ余裕があるようだ。雅の銃口から、青白い稲光が生え出る。それは鞭のようにしなり、暁に襲いかかる。何度も火花を上げる暁の鎧。だが、このまま虐げられる訳にはいかない。暁はバックルから霊刀を取り出し、稲光を切り裂いた。

「こいつでとどめだ……!」

刀身が炎を帯びる。

「ふうん。そう来たか」

そう呟いた雅は銃口を左腕のアームドカッターに押し付ける。カッターが青く発光し刀身が一回り大きくなる。

炎を据えた暁と雷を据えた雅が睨み合う。

「ハアッ!」

「ツウェァッ!」

両者走り出した。すれ違いざまに交わる刀とカッター。金属音の止んだ後、辺りは静寂に支配された。


 腹部に突然の痛みが駆け抜けた。暁はその場にうずくまり、霊装が解除された。それは雅も同じだった。呼吸を乱しながら将暉が立ち上がった。

「へへへ………中々こういうのもいいだろ」

減らず口を、と吐き捨てようとしたが、痛みとの格闘でそれどころではなかった。

「……詩織ちゃんのこと、助けたかったら俺に挑みに来な。そのほうが俺も楽しいからさ」

その言葉を最後に将暉はその場を去った。無論、追いかけられるほどの気力は刃に残ってはいなかった。

 ネクロの血。あの日が蘇ってくる。その鮮明さに、刃は一人、静かに絶望した。

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