第36話 昇進
クラッブへの判決が下ったあと、アトラスはギルマス・エドワードに呼び出された。
「先ほど、王女様から連絡があった。SSランクダンジョンを攻略した報酬を正式に払ってくれるそうだ。当然、アトラス君とアニス君で折半になる」
「そ、それは……結構な額になるのでは?」
元々は≪ブラック・バインド≫のSランクパーティが請け負っていた仕事だ。当然ギルドに大きな儲けが残るような巨額の金額が用意されているはずだ。
「ああ。しばらくは遊んで暮らせるだろうな」
エドワードが報酬の金額が書かれた紙をアトラスに渡すと、そこには信じられないような金額が記載されていた。
「それから王女様から、次のSSランクダンジョン攻略の仕事も受注できた。しかも今度はいわゆる≪オーバー・サイズ≫だ」
同じランクでも、ダンジョンのサイズはそれぞれ異なる。そして稀にだが通常の数十倍にもなる大きさのダンジョンがあり、それは一般的には≪オーバー・サイズ≫と呼ばれている。
「第一王子が率いる宮廷騎士団との共同攻略になる」
≪オーバー・サイズ≫ダンジョンの場合は、大抵複数のパーティが共同で攻略に当たることになる。その共同相手が今回は≪宮廷騎士団≫だった。
つまり、官民合同の事業と言う形になる。
「聞くところによると、第一王子は一緒に仕事をした冒険者からの評判があまり良くないらしい……あくまで噂だがな。しかし、王室との共同攻略を成功させたとなればギルドの名声はさらに高まる。ここは一つ、頑張って欲しい」
「もちろんです。頑張ります」
と、その会話の後、エドワードは別の話題に移る。
「それで、今までの話を踏まえて、だ。一つ報告がある」
「はい、なんでしょう」
「私はアトラス君の処遇を間違っていたと感じている。たった二人でSSランクダンジョンを攻略できる人間を≪ただの隊長≫にしておけるはずがない」
アトラスは最初なんの話なのか全く理解できなかった。
長年のブラックギルド勤務経験もあって、一瞬悪い話なのではないかと思ったほどだ。
しかし、エドワードが持ち出したのは、端的に言えば――――出世の話だった。
「君を役員(パートナー)として迎え入れたい」
「役員ですか!?」
いきなりの提案にアトラスは驚いて腰を抜かしそうになった。このあいだまで最底辺のFランクだったのだ。それが今は隊長というだけでも驚きなのに、まさか役員とは、もはやアトラスの想像を絶していた。
「それだけの力があるのだ。それを今回証明してくれた。王女様の信頼も厚い。君のような優秀な人材を低い地位にしておいては立つ瀬がない。一つ、この辞令を受けてほしい」
「……も、もちろん、謹んでお受けします」
「これからも期待してるぞ」
「は、はい!」
アトラスは突然の出世に驚いていたが、それと同時に一つずっと気がかりだったことがあった。
「あの、いきなりで恐縮なのですが……役員は、多少は人事に意見を言えたりしますか?」
アトラスが突然そんなことを言い出したので、エドワードは少し驚く。
「もちろん、なんでも意見が通るというわけではないが、それなりの権限が与えられる」
「……であれば、一人採用したい人がいるんです。検討をお願いできませんか?」
「ほう。それは君が認める優秀な人間か?」
「はい――一緒に≪奈落の底≫を攻略したアニスと、ぜひ≪ホワイト・ナイツ≫で一緒に働きたいんです」
それはアトラスが≪ブラック・バインド≫を辞めてからずっと気にかけていたことだった。
アニスの実力の高さをアトラスは高く評価していた。だがまだまだ転職市場で正当に評価されているとはいいがたい状況だった。成果を出していけばいずれは認められるだろうが、なるべく早く彼女の希望が叶うといいなと思っていたのだ。
「なるほど。SSランクダンジョン攻略で活躍し、君の推薦もあるのだ。我々としてはぜひとも獲得したい人材だな。何も異論はない。もちろん、相手が承諾してくれるかは別問題だが」
「あ、ありがとうございます!」
アトラスはそれを聞いて、自分の出世よりも嬉しく感じるのだった。
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