第34話 逮捕


 ≪奈落の底≫に何も手がかりがないことを確かめたエドワードたちはギルド本部へと引き返してきた。そして優秀な隊員を集めて、捜索のための作戦会議を始める。

 ――だが、そんなところに、思わぬ客が訪れた。

「あの、突然すみません」

 突然に現れたのは、他ならぬ王女、ルイーズ・ローレンスその人だった。

「お、王女様!? なぜこちらに」

 エドワードは王室の依頼を何度もこなしてきたので、王女とも知り合いであった。

 しかしギルドの本部を直接訪ねて来たのは初めてで、しかもいきなりのことだったので驚く。

「実はですね、≪ホワイト・ナイツ≫にアトラスさんという人がいるはずなのですが、その方にお仕事を頼みたくて」

 王女がギルドに来たのはアトラスにSSランクダンジョン攻略の仕事を依頼するためだった。

 普通なら使者を送るか、宮廷に来てもらうのが常だったが、どうしてもまたアトラスに会いたかった王女は自ら足を運んだのである。

 しかし、肝心のアトラスは不在にしている。

「王女様……恐れながら、実は今アトラスは不在にしておりまして……」

 エドワードは正直にそう告げる。SSランクダンジョン攻略の依頼というのはものすごく魅力的な提案だったが、今はそれどころではないと考えていた。

「不在? どこか出張に?」

 エドワードは状況を正直に説明することにした。どうせ憲兵に話すのだから、隠すこと必要はない。

「それが、アトラスの元同僚の女性がさらわれて、アトラスは彼女を助けに行って行方不明になってしまったのです」

「な、なんですって!?」

 王女は口を押えて息を飲む。

「なんでも何者かに≪奈落の底≫に呼び出されたとのことで、今から捜索部隊を出そうかと考えていました……」

「な、奈落の底って、あの? 誰も帰ってこないという!? な、何としてもアトラスさんを救わなければ! いますぐ近衛騎士を動員して……」

 王女はエドワードにまくし立てる。近衛騎士が力を貸してくれるというのはエドワードからすればありがたい話だった。しかしエドワードは王女様がアトラスに入れ込んでいる事実を知らなかったのでその動揺っぷりに驚く。

 ――と、その時だ。

「あ、あの……」

 その控えめな声が、エドワードたちの耳に届く。

 ――――部屋に現れたのは、申し訳なさそうな表情を浮かべたアトラスだった。

「……!!!」

 エドワードたちはひょっこり現れたアトラスの顔を見て声をあげた。探していた人物が突然現れたことで、ギルドの本部は騒然となる。

「アトラスさん! よかった! 生きてたんですね!」

 真っ先に言葉をかけたのはルイーズ王女だった。

「すみません、王女様。ご心配をおかけいたしました……」

 自分を巡るやり取りは部屋の外からも漏れ聞こえていたので、エドワードやルイーズが心配をしてくれていたことはアトラスも理解していた。

「いえ……本当に、無事でよかったです」

 王女はそう安堵の声を漏らす。続いてギルマスのエドワードも「とにかくよかった」と声をかける。

「すみません、ギルマス。私のために時間を割いていただいて」

「ギルドの隊員がトラブルに巻き込まれたのだから当然だ。しかしアトラス、一体何があったのだ?」

「それがですね……」

 アトラスはそれまでの経緯を説明し始めた。


 †


 一方、≪ブラック・バインド≫のギルドマスター執務室。

「ふひひ。無能がいない世界というのはこんなにも気分がいいものなのか」

 タバコをふかしながら、クラッブはほくそ笑む。アトラスのせいで大きな仕事を失い、王女様の前で恥までかかされたクラッブであったが、「諸悪の根源」であるアトラスを跡形もなく始末できたことで、逆にカタルシスさえ感じでいた。

「私に逆らった者はこうなるのだ」

 穴に落ちていくアトラスの姿を思い出して恍惚とした表情を浮かべるクラッブ。

 ――だが。そんな彼の気分を妨げるものが現れた。

「ぎぎ、ギルマスぅ!!!!」

 許可も取らず突然部屋に入ってきたのはコナンだった。

「なんだ、ノックもせず勝手に部屋に入ってくるなんて、失礼すぎるぞ!!」

 だが、そう一喝されてもコナンは言葉を続ける。

「大変なんです! そ、そ、外に近衛兵が! ギルマスを連行しに来たとのことです!」

「れ、連行!?」

 クラッブはいきなりのことに動揺を隠せなかった。

(ま、まさかアトラスを殺したことがバレたのか? い、いや。しかし証拠はないはず……だがそれならいきなり近衛兵が来るはずがない……)

 と、次の瞬間部屋に近衛兵が入ってきた。

「クラッブ。貴様を逮捕する」

 クラッブは爽快な気分から一転、恐怖のどん底へと突き落とされた。


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