第3話 転職ギルドのお姉さん、アトラスの規格外のHPに驚く。


 クビを宣告された翌日。アトラスは勇気を出して転職ギルドへと向かった。

「いらっしゃいませ。当転職ギルドのご利用は初めてですか?」

 転職ギルドの受付のお姉さんはアトラスに眩しい笑みを浮かべてアトラスに話しかけてきた。

「は、はい」

「それでは、まずステータス検査を受けていただくことになります」

(す、ステータス検査なんて久しぶりだな……)

 仕事があまりに忙しすぎて、ステータス検査を受ける機会などまったくなかった。

「こちらです」

 アトラスはお姉さんに、検査用の個室に案内される。そしてお姉さんは引き出しから短い杖を取り出す。

(確かに、あんなマジックアイテムでステータスを計ったなぁ)

 アトラスは新卒で就職活動をしていたころのことを思い出した。

「それでは、失礼しますね……」

 お姉さんはそう言って、杖をアトラスの胸に当てた。

「結果はすぐ出ますからね」

 少しすると杖の先端が光り、お姉さんの手を離れて空中で文字を書き始めた。

 アトラスのステータスが空中に書き出されていく。


 HP Sランク

 MP Fランク

 攻撃力 Fランク

 防御力 Fランク

 素早さ Fランク


「えぇえっ!? HPがSランク!?」

 個室にお姉さんの悲鳴が響き渡る。その結果に、アトラスは自分でも驚いた。

「いつのまにめちゃくちゃランクが上がってたんですね……」

 HPというのは、冒険者の身を守る≪結界≫の強さを示していた。HPがあるかぎり生身の体はダメージを受けない。逆にこれが尽きてしまえば、生身の体がモンスターの圧倒的な攻撃力にさらされてしまうことになる。

 そしてアトラスはステータスの中でHPにだけは自信があった。

 なにせ、持っているスキルは“倍返し”。敵から受けた攻撃を倍にして返すというスキルの性質上、相手の攻撃を食らわなければ始まらない。そのため、攻撃を受ける頻度が多く自然とHPが鍛えられてきたのだ。

 だが、他のスキルは全て最低評価のFランク。その辺の町人と変わらない。だからこそ、アトラスの冒険者ランクは5年間ずっとFのままだったのだ。

一芸はあるが、平均すると農民程度のポンコツ冒険者。それがアトラスの自分への評価だった。

だが、長年転職者たちを見てきたお姉さんは全く違う評価だった。一項目だけとはいえ、Sランクのステータスを持つ人間はそうそういない。一流ギルドでに所属している者でも、大多数はAランクが最高だ。

「これなら、どんなギルドへも推薦を出せますよ!」

 お姉さんは興奮気味に言った。

「え、ほんとですか?」

 アトラスは驚いて聞き返す。

「もちろんですよ!」

 まさかアトラスは自分がそんなに評価してもらえるとは思ってもみなかったのだ。

「……どんなギルドでもって、例えば≪ホワイト・ナイツ≫とかも?」

 アトラスは半分冗談のつもりでそう聞いた。だが、お姉さんは即答する。

「もちろんです! ぜひご紹介させてください!! 早速。実地試験のセッティングをします!!」

「ま、まじですか……」

 急展開に嬉しいというより、困惑するアトラスだった。


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