第6話 初めてのソロキャン

 雨なら寒いと言い、晴れたら暑いと言う。



 朝、ホテルで目を覚ますと空が晴れていた。すごく快晴だ。ようやく、しっかりした晴れの日にツーリングができそうだ。しかし暑い。昨日までいた青森では日中でも20℃を下回っていたが、今日の盛岡は30℃である。体感的には少し南下しただけなのだが、ここまで気温が違うとは驚きだ。


 今日はまず、ウニを食べようと思う。目指すは宮古。二年前に食べたウニが忘れられないのだ。もともと私はウニが苦手だった。しかし二年前、出張で訪れた宮古で食したウニで価値観が一変した。

 そもそも関東で提供されるウニはほとんどがミョウバン入りのウニである。このミョウバンは、ウニの形を保つために用いられ、独特の苦みを生じる。この苦みが私は苦手だった。しかし、地元で食べるウニは違う。ミョウバンを使用しない生ウニである。よくテレビのリポーターなどがウニを甘いと言うが、その意味がようやく理解できた。生ウニは甘い。ウニ丼を食せば、とろけるようなクリーミーさと甘みが混然一体となって味覚を直撃するだろう。ウニ丼にワサビは無粋である。そのレベルで生ウニは美味い。

 さて、盛岡を9時に出発し、順調に都へ到着した。時刻は11時。魚市場の横にある食堂へ入る。開店時間にもかかわらず店は行列ができていた。20分ほど待ちいざ、食券機へ行くと、ウニがない。どうやら時期が終わってしまったらしい(調べてみるとウニの時期は8月上旬までであった)。代わりに宮古丼を注文する。宮古港でとれた新鮮な魚介がふんだんに乗ったどんぶりだ。サーモン、ホタテ、いくら。全部うまい。ウニが食べられないのは残念だったが、十分に満足できた。


 その後はキャンプ場へ向かう。鬼首温泉にある吹上高原キャンプ場。今日こそはキャンプしたい。無料の三陸高速道路を使えば4時間弱で到着する予定だ。特にトラブルもなく、道に迷うこともなく、鬼首温泉にたどり着く。吹上高原キャンプ場へ向かう途中、荒雄湖畔公園という施設を見つける。そこにはテントを張っている人が一人だけ居り、木もいくつか立っている。つい、受付へ行けば、一張530円だそうだ。もちろん、バイクの乗り入れも可能で、ハンモック泊も問題ないらしい。予定していた吹上高原キャンプ場は一張1100円である。即決、荒雄湖畔公園に決めた。ここを今日のキャンプ地とする。

 ハンモックの設営には苦戦した。ちょうどいい幅の木がないのだ。ここの木はほぼ等間隔に6~8m離れている。私のハンモックは紐の部分を拡張していないため、5m程度しか伸ばせないのだ。それでもどうにか距離の近い木を見つけ、ハンモックを張る。設営時間は約10分。次は一昨日に用意したタープを張ろうと広げるが、思っていた形と異なる。長方形のタープの短辺中央に紐を括れると思っていたのだが、長辺部分に穴がある。これでは、ハンモックを覆う形でタープが張れないではないか。仕方ないので、長方形のタープを斜めに張る。完全にハンモックを覆うことはできないが、ないよりはましだろう。多分、雨も降らないはずだ。

 一通りの設営を終え、温泉へ行く。鬼首温泉スパ。吹上高原キャンプ場の横にある。営業時間ギリギリだったが、無事入浴できる。風呂を出てさっぱりした気持ちで外に出る。ふとキャンプ場を見ると大量のテントが張ってある。パット見ただけで10張はあるようだ。近くにいた常連さんに聞いたところ、これでも空いている方だそうだ。シーズンの休日にはオープン2時間前から行列ができるらしい。どうやら、私の選んだ荒雄湖畔公園は穴場だったらしい。何しろ私を含めて2名しかいない。ラッキーだ。


 ふもとのコンビニで夕飯と酒を買い、キャンプ場へ戻る(このキャンプ場は17時以降、入り口が封鎖されるため、自分で柵を外して入らなければならない)。ハンモック内に寝袋、食事、暇つぶし道具を入れると、私も中に入る。とても揺れる。揺れが収まらない。我慢ができないので、付属の紐と杭でハンモックの横を固定すると安定した。とても居心地が良い。食事を食べてタバコを吸う。チルな気分だ。蚊帳がついているので、虫も入ってこない(タバコの火で蚊帳に穴をあけてしまったが、小さい穴なので問題ないはずだ)。快適すぎて外に出たくなくなる。勝っておいたポケットウィスキーを飲む。虫の声に囲まれて、最高の気分だ。


 夜中にゴソゴソとした音に目を覚ます。暗闇に目を凝らすと、何やら小さな黒い影が見える。犬くらいの大きさだ。どうやら、ゴミを入れて置いたコンビニ袋を漁っているようだ。慌てて追い払う。動物の届く位置にゴミを置いておくのはまずいらしい。タープの紐に括りつけておく。この高さなら届かないだろう。

 再びハンモックに戻る。しかし、眠れない。さっきの動物は多分キツネだった。しかし、クマとかサルが来る可能性だってある。私に次の朝は来ないかもしれない、思うと途端に暗闇が怖くなる。周りにはキャンパーが一人きり。助けを呼ぶこともできないだろう。クマに襲われたらどうしよう、などと考えているうちに眠りについた。



 今日は充実した一日だったが、最後の最後に不安になった。

 明日は磐梯吾妻スカイラインへ行く。今日の調子で晴れると嬉しい。どうか五体満足で起床できますように。

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