二つの命がリンクする

水理さん

エピローグ 犬猿の仲

「それじゃあ、父さんと由美ゆみさんで出かけてくるから留守番頼むよ。政人まさと

「いつもごめんねマサくん。咲奈さくなをよろしくね」

「はい、もちろんです。任せてください」

 日曜のなんでもない朝。僕は訳あって幼馴染の咲奈の家まで来ていた。

 僕の父の賢人も咲奈の母の由美さんもどちらも片親で家も隣同士ということもあり昔から家族ぐるみの付き合いをしている。

 二人は恋仲というわけではないが、休日になるとよく一緒に出掛けている。

 その間、咲奈の家は咲奈一人になるのでもう高校生にもなっているのだが昔からの習慣というかそういうので僕も咲奈の家に行き、留守番をしているわけだ。

 断ればいいいのでは?と思うかもしれないが、僕自身、父さんに男手一つで今まで育ててもらっていたわけだし、由美さんにも昔からよくお世話になっていたので、断るにも断れない状況なのだ。

 別に、同じ家に二人きりになったからといって、世の男子高校生が期待するようなイベントなんぞ起こるはずもなく、それぞれ違う部屋で自由に過ごしている。

 そういうわけだ。僕はリビングでテレビでも見るかな。

「ふゎ~あ」

 大きな欠伸を一つし、リビングへと通じるドアを開けると、目の前にはソファにだらしなく寝そべって携帯をいじる咲奈の姿があった。

 うざったく伸ばした黒髪が床に垂れている様はまさにヒキニートという表現がお似合いだ。

「どうしてあんたなんかに任されなきゃいけないのよ。大体、いつもいつも家に来る必要なんてないでしょ」

「お生憎様。こっちだって行きたくて行ってるんじゃないっての。しょうがなく行ってやってんだよ。お前のためにな」

「引き籠って萌え萌え叫んでる姿がお似合いの陰キャに何ができるっていうのよ」

「うるさいな。僕はテレビを見るんだ。いいから早くそこを――」

『臨時のニュースです』

 僕が咲奈にソファをどけるよう言おうとした瞬間、テレビから臨時のニュースを告げる気持ちの悪いアラームと冷静なアナウンサーの声が聞こえた。

 その内容は、最近多発している行方不明事件が再び起こった、というものだった。

 この行方不明事件は色々不可思議な点が多く、例えば、朝食が用意されていたのにも関わらず、何の前触れもなくいなくなったかのように一口も口が付けられていない状態のまま残っていたり、車が歩道に突っ込む事故が起きた際、ドライバーが乗っておらず、その運転手が行方不明になっていたり、とにかく不気味な事件だ。

「あ~あ、政人とかいう男も突然失踪しないかな~」

 なんと不謹慎な。相変わらず肥溜めみたいな性格をしている。

「もし、いま失踪するならお前も一緒だろうな。僕の隣に生まれたことを精々後悔するんだな」

「ちっ」

 おうおう、いい様だ。

 当初のテレビを見るという目的をさっきの仕返しに成功したことに満足したことですっかり忘れてしまっていた僕は何か飲み物を飲もうと冷蔵庫に向かった。

 すると、何の前触れもなく突然、地面が縦に、横にと大きく揺れだした。

「地震か!」

 咲奈の方を振り返ると突然のことに驚いたような、そして状況が理解できず、怯えたような表情でこちらを振り向いていた。

「とりあえず体を丸めて頭を隠せ!」

「言われなくても分かってるわよ!」

 ニュース速報は、とテレビに目をやるが、何事もないようにいつも通りのニュースを放送し続けている。速報の一つや二つ流れているべき状況に違和感を覚えていると、これまた突然、咲奈の足元のカーペットから目が焼けるほどの光と共に、謎の紋章のようなものが浮かび上がった。

「な、なんなのよこれ!」

「いや、し、知るか!」

 半ば悲鳴のような会話を終えると同時に先ほどよりも一段と強い光が再び、僕たちを包み込んだ。

 これら全ては父さんたちが出かけてから10分の間に起ったことだった。

 

 ——その日、二人の高校生が突然、失踪した――

 


 


 

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