第50話:メイド姉妹の装備
翌日ノエルは以前リーナ達と服を購入した服屋シュトローネに来ていた。
姉妹の服は現在ノエルの服を着せているが所々大きかったり小さかったりと出来ればちゃんとサイズの合う服を着せなければならなかった。
シュトローネは中位区画の人間も使うようなある程度高級な服も取り扱う店であり、服の相場に詳しくなくそこまでファッションを気にしていなかったノエルは取り合えず「服と言えばあそこか」くらいの感覚で来ていた。
実際シュトローネは多種多様な服を取り扱っており、仕立て直しは勿論1からの仕立服も取り扱っている。選択は間違いではないのだがそこに金額と言う問題をノエルは気にしていない。
ノエルの金銭感覚は最近は特に高額な物を買いすぎたという事もあり麻痺していた。姉妹からすればたかが服に支払う金額では無い高額な値段が提示されていた。これはノエルが無駄に高額な物を買っている訳でも店員がノエルを騙している訳でもなく価値相応の値段が提示されている。
異界・旧世界の衣類は強靭であったりある程度自動修復したり軽度の汚れであれば分解したりする衣類である。例えそれが下着などの布面積が小さい物だとしてもそれ相応の技術・希少性がある為高額となっている。例え下着1セット10万単位であっても。
因みにノエルは安いのを買ってボロボロにするくらいなら高くても丈夫で長持ちする物を選んでいるだけだ。ノエルは金銭的には現在+-0程度には財布も温まっている。基準がシーカーを始めとした強化服での戦闘前提の考え方ではあるが長い目で見ればこの丈夫な物を長期に使う方がお得だったりする。
「必要最低限な分は購入したから気になる服が有れば持って来ても良いわよ?」
「い、いえ…」
「結構です…」
「そう?じゃあ後は仕事着ね。店主おススメは?」
既に支払予定金額が200万を超えておりその数字を見た姉妹はとても何かを欲する気は起きなかった。遠慮しているのは分かったが本人達が別に服が欲しいというわけでは無さそうだったので一先ず棚上げしたノエルは店主にある程度仕事内容を説明しそれに合う作業着のおススメを聞いた。
「そうですね、ではメイド服はどうですか?エプロン部分は幾つか余分に購入すれば使いまわしがきくかと思いますが」
「そうね…じゃあそれを買いましょうか。必要経費でしょう」
「では、2セット用意しておきます。配送はサービスしておきますね」
「あ、あの子達1セットずつ今着替えさせて頂戴。その脱いだ服は一緒に配送しておいて」
「かしこまりました」
早速手続きや支払いを済ませたノエルは姉妹が着替え終わり出てきたところで店を出た。
「さて、昼食を取ったら次に行きましょうか」
「次ですか?」
「そうよヴェルト。正直少々顔を合わせにくい相手なのだけど」
ノエル達は適当な店で昼食を済ませ、レンタルした車でエイリスの家に来た。
レンタル業者で借りた車は一般的な乗用車でシーカー向けの荒野仕様車両ではないがそれなりに良い性能をしており自動走行機能も高性能な物が搭載されていた。
車に乗ったまま玄関のインターホンにアクセスしエイリスに呼びかけた。直ぐにエイリスは応答したが出たのがノエルとは思わずかなり驚いていた。
『え、お姉様!?』
『そうよ、こっちも何だかんだあったけど一件落着したし買い物したいから開けて欲しいのだけど』
『あっはい…どうぞ』
何時もバイクを停車しているガレージに車を止めた所でエイリスが出てきた。
「お久しぶり…と言うほどでも無いですかね?」
「そうね、この二人の事もあるし中で話しましょう」
そう言ってノエルは既にメイド服を着ている二人を前に出す
「シュテルンです!」
「ヴェルトと申します…」
「エイリスと言います。よろしくね」
エイリスに案内されノエル達はリビングに通された。見慣れており、勝手知ったるノエルは兎も角シュテルンとヴェルトはちょっとした豪邸と言って差し支えないリーナの家に落ち着かない様子だった。
リビングのソファーに座り、お茶もそこそこにノエルは数日の近況報告とファミリーとの和解、その過程でこの二人を買ったと言う事も話した。
「成程…お姉様は結構…何というか…」
「言いたい事は分かってるわ。一先ずそれはリーナに怒られそうだし置いておいて…で、この子達に薄手の強化服が欲しいの」
「強化服だけですか?防護服並みの性能のメイド服も用意しようと思えば出来ますが…」
それを聞いてノエルは少し考えた。この二人は別に戦闘を強要する気はない。薄手の強化服は単純にあった方が便利だと思ったから購入するつもりだった。だが防護服並みの性能を持つ服と薄手の強化服の組み合わせと言うのは別段珍しくはなく彼女たちが勝手に死なない程度シーカーとしてに異跡に挑んで金を稼いでくるのは構わないかと思った。
『どう思う?私はどっちでも良いと思うのよね。彼女たちが個人的に異跡に挑むならあった方が良いと思うし借金の返済的にも良いかもしれない』
『その際に発生する回復薬や弾薬費はどうするのですか?』
『基本的には借金の増額ね。上手く稼げれば+になるかもしれないしそれくらいは許容しましょうか。一種の投資みたいなものね、彼女達はメインの仕事の傍ら異跡に潜って異物回収するなり周辺の警備依頼受けるなりして稼げば良いでしょう』
フェンリルは正直この奴隷たちの事はどうでも良かった。ノエル本人も実質タダでもらったも同然の人間二人だ。幾ばくかの金を既に使っているがノエルからすればペットの世話に近いように感じていた。
「貴方たちはどうしたい?私は別にどうでもいいわ。貴方たちがシーカーとして働いて異物回収したり警戒依頼して金を稼いでくるならそれでもいいし」
一先ず本人たちに任せるという事で本人の意思を聞いてみた。
「「是非!お願いします!!」」
「そう…」
「決まった様ですね。お姉様予算はどうされます?メイド服の方は伝手が有るのでほぼタダ同然ですしサービスで良いですよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えて…一人6000万で行きましょうか」
予算内で収まる製品の中からエイリスが商品を選び奥から二着のタイツのような強化服を持って来た。
アンダースーツに近い薄型で一般的な強化服と比べてもかなり薄い物だった。
「これなら直ぐに渡せますがどうでしょう?製品としても予算ピッタリ6000万ですが如何でしょう?GDD薄型身体強化服販売名称はヘララース。薄型でありながら3000万程度の価格帯の強化服と同程度の身体能力強化性能を持っています。流石に
「だって、どうする?私じゃなくて貴方たちが着るのだし好きに悩みなさい」
ノエルは要望をエイリスに伝えその要望を極力叶えた装備をエイリスは提供している。言うなれば商品購入に際してエイリスを信用しているから大幅に金額を超えない限りノエルはエイリスの選択に任せている。これが始めてきた店と言うならノエルは自分で調べるかフェンリルと相談しながら決めた商品を注文する。しかし今回の装備の使用者はノエルではなくこの姉妹たちである。姉妹からしてみれば初めて会った人間の提示した装備を来て命がけの仕事をする事になるのだ。
「ご主人様ならエイリス様のおススメした商品なら信用して異跡に向かうんですか?」
シュテルンのその言葉を受けてノエルは一瞬考えたが直ぐに答えを出した。
「そうね、私はエイリスを信用しているし専門家であるエイリスが駄目だったのならそれは私でも変わらないし、それは運が悪かったとして割り切るしかないと思っているわ。だれだって信用できない物を使いたいとは思わない、信用してるし信頼している人物から買った装備なら例えデザインが悪かろうと少々予算オーバーでも買うと思うわ。勿論多少の嫌味くらいは言うかもしれないけれど」
そこまでの説明を受けた姉妹はエイリスが持って来た薄型強化服に決めた。彼女達は自分の主人が信用している商品を信用する事にしたのだ。
「じゃあエイリス。今日はこれで帰るわねメイド服は私の家に配達しておいてね」
「はい、お姉様も無理は禁物ですよ?」
「言われずとも分かってるわよ。好きで無茶してるんじゃないわ」
そんな軽口のような会話を交わして彼女達はそれぞれの時間へと戻っていった。
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