第29話:第三都市防衛戦と都市防衛砲

 バイクの上でフェンリルに操縦を任せてTSSR対物ライフルによる射撃を行う。かなり近距離まで接近してきた為TSSR対物ライフルの専用弾でバクダンゴムシとフェンリルが呼んだ個体を撃ち抜いていく。

 バクダンゴムシは転がり、自爆特攻する機械昆虫で、その驚異的な装甲を盾にシーカーに突っ込みその体を自爆し辺り一帯を吹っ飛ばすのだ。最初はノエルによる徹甲榴弾による援護で横転させていた。


 防衛拠点に到着したノエルはバイクを降りた。すぐさま戦闘に参加しようとした所でフェンリルから止められる。


『此処からはタボールとハイベクターを使いましょう。バクダンゴムシが残り少ないですが別の個体が接近しています。恐らく第二群です』


『了解よ』


 直ぐに装備を入れ替え、苦戦しているシーカーグループの横から戦線に参加する。

 ノエルは近距離戦闘において上位のシーカーとは違う物がある。それは武器の変化だ。上位のシーカー達はその常軌を逸した身体能力から対モンスター戦闘や対シーカー戦闘でも銃を使う頻度が少なくなる。対人なら実体剣を使うものが多く、粒子を飛ばす事が可能な粒子剣が好まれる傾向にある。熟練者にとって弾丸の速度が遅く感じることも珍しくなく。シーカーランクが二桁後半や三桁の者は比喩表現を抜きに弾丸より早く移動する事も珍しくは無い。そもそもシーカーランクが二桁後半になればASを運用する事が普通になる。

 絶望的な身体能力の差を強力な外付けの装備で圧倒的な戦力差を上回る。それを実現するだけの強力な装備をシーカーは装備する。それにはシーカー各々の趣味趣向も関わる


『やはり剣を使う者が多いですね』


『私が真似したら余裕で死ぬわよ』


『確かに今回の自爆特攻するモンスター相手には不向きと言うだけです。今後は粒子剣の購入も考えていきましょうか』


『それは…いいかもしれないわね』




 バクダンゴムシが殆ど倒されたあたりから別のモンスターがノエル達に襲い掛かり始めた。その人型の機械系モンスターは一部に装甲があり何より素早い。銃などといった武装が装備されておらず、とにかく素早かった。ノエルはある程度の距離を保って面射撃によって食い止めていた。だがその敵はそれをかいくぐりノエルに急速接近した。ノエルがそれに反応しきれず隙をさらす。その急接近した敵は腕部からバーナーブレードを振る。何とか対応したフェンリルが強化服を強制操作しタボールとハイベクターを盾にすることで何とか無傷で凌いだ。直ぐにノエルも対応し持っていた銃の残骸を振りぬいたその敵に叩きつけ倒す。


『正直死んだと思ったわ』


『あれは私の基地にいた機体です。正確にはそこから自己進化した機体ですね。C2自動人形が武装を吸収したのでしょう。さしずめC3自動人形ですね』


『冗談じゃないわ。短距離をこんなに高速で接近してくるなんて』


『恐らく貴女がバカスカ撃ち抜いたSS2R多脚戦車に搭載されていたスラスターを吸収したのだと思います。それをどこかにある生産工場で自己複製したのかと』


 ノエルは次のC3自動人形のバーナーブレードを体感時間圧縮で何とか見切り。今度は回避を試みるもそれを読まれその回避先にもう一方の腕でバーナーブレードを振るってきた、それを何とかBBA突撃銃を身代わりにして防ぐ。


『冗談じゃないわ!これあと何体居るの!?』


『現在の残り総数は32です。ノエル貰った光子剣を使いましょう』


 ノエルは貰った刀身の無い剣を取り出すとファンリルがそのリミッターを破壊した。


『一撃だけの高出力化です。使用後は壊れますのでご注意を』


 ノエルはすぐさま前方に友軍シーカーが居ない事を確認するとその光子剣を振りぬいた。フェンリルによる精密な調整によってそのC3自動人形を含むモンスターを纏めて両断した。その光子で切り裂かれたモンスターは中枢基盤や脚部部接続部等の重要部分を切断され崩れ落ちた。使用した光子剣は壊れ、熱を持っていた。再使用は不可能であったため、ノエルは光子剣をそこら辺に捨てた。

 光子剣は人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドと高出力光子加速射出装置の複合で出来ている。切断された対象は質量を付与された光子によって切断され、切り口は融解されている部分もある。

 異物のロストテクノロジーの産物を容赦なく使用した一撃は戦況をある程度改善する事に成功した。ノエルが攻撃した範囲のモンスターは機能を停止ないしは行動不能にまで陥った。


 直ぐに残りのハイベクターを持って戦闘を再開しようとした時だった。轟音と爆風がノエルを襲った。訳も分からず右隣りで戦線を維持していたシーカーチームが壊滅する。肉塊もしくはスクラップとなって生き残ったものでも即時戦線復帰は不可能なまでの深刻なダメージを受けた。直ぐ近くで戦闘を行っていたノエルは直撃こそしなかったものの。余波の影響でダメージを受けた、吹き飛んだノエルは持っていた回復薬を大量に飲み損傷を修復させる。直ぐにノエルは状況を確認するため、フェンリルを呼んだ。現在の自分の状態ではどういう状態か判断が不可能なためだ。


『フェンリル!?』


『ステルス機です!SS2R多脚戦車を始めとした機械系モンスターがステルス性能を獲得しています。それだけじゃないですね、かなり大型のニ脚が混ざっています』


『出来るだけ狩るわ。サポートよろしく!』


 ノエルは周りのシーカーにステルス戦車と大型ニ脚が居る事を言いながらTSSR対物ライフルの専用弾をフェンリルによって辛うじて居場所が分かる多脚戦車を攻撃する。幸い他の機械系モンスターは殲滅済みで多脚と大型ニ脚だけが残っている。防衛拠点から数台のASが出撃し大型ニ脚との戦闘を開始する。

 防衛隊のASは中型機でマルチロールタイプの最新型機だが、ステルス迷彩性能を備えた超高性能戦闘ニ脚勝てるかどうかは分からなかった。ノエルもASの戦闘能力は未知数であるしカタログスペックだけが戦闘のすべてでは無い事は重々承知している。


『ニ脚は今の所心配ありませんね、多脚を狩りましょう。ただこの距離ではろくなダメージを与えられません。バイクに乗りましょう』


『賛成よ。ただ走っていけば殺されるわ』


 ノエルは自分よりも優秀であるフェンリルがそう判断した事で自分もその意見に賛同した。少なくとも自分が下す判断よりも情報を収集して演算しているフェンリルの判断なら信頼できたからだ。

 フェンリルの自動操縦でやって来たバイクにノエルが飛び乗ってコートの迷彩機能を起動する。一緒にバイクに置いてあった弾薬やエネルギーパック等を補充する。


『以前貴女が倒した機体とは別と考えてください。装甲も砲撃もです』


『了解よ。流石にそこそこの距離で機関部に撃って殆ど無傷は来るものがあるわ』


『恐らく最近のモンスター消失は今回のためでしょう。私より上位の管理人格が基地のモンスターを持っていき、強化して都市を襲ったのかも知れません』


『たかが盗人の巣窟に恐ろしいわね…』


『武装した盗人ですよ。管理人格からすれば潰せるうちに潰すに越したことは無いでしょう。ですがかなり規約で縛られているはずですが…』


『家に警備ロボ破壊しながら急に入ってきていろんなものを片端から盗んでいくわけね』


『そのような感じです』


 フェンリルは元管理人格だ。かなり緩い状態で放置されていたとは言え規約の強制力は理解している。それを突破ないしは自己解釈してここまでの事をするとはかなり強力な存在だとフェンリルは判断した。だがだからこそ本人は此処にはこれないとも判断した。管理人格には特殊な事例を除き自身の担当領域の外には出る事が出来ない。特に強力な権限と演算能力をもつ者はそうだ。


『恐らく以前共闘したスカーレットローズが基地にまだ居座っているので別の場所で戦力を集中させて今日一気に攻勢に出たのだと思います』


『へぇ。やっぱりあのASは別格よね』




 迷彩機能を索敵特化の機体に探知された瞬間接近していた多脚戦車がノエルを狙った。至近距離まで接近したので索敵に特化したVV3大型多脚戦車によってノエルの居場所がバレたせいだ。ノエルの迷彩コートはテンリ旧陸軍基地で手に入れた物であり。元とは言え同じテンリ旧陸軍基地に居たVV3大型多脚戦車が至近距離にいるノエルを見つけることは容易であった。それでもノエルの迷彩コートは至近距離に入られるまで索敵特化の多脚戦車から隠れきるだけの性能を発揮した。

 至近距離でVV3大型多脚戦車に補足される事を想定していたフェンリルによって着弾予想地点から想定されるダメージの計算を行いバイクを運転する。ノエルはすぐさま重要度の高い機体から順に至近距離でTSSR対物ライフルの専用弾を撃ち込む。


『硬い!』


『予想以上です、エクシウムを使いましょう。あれなら何とか通用するはずです』


 ノエルが放ったTSSR対物ライフルの専用弾は貫通力に特化している。並みの機械系モンスターであれば大穴を開けて機能を停止する様な弾丸だ。それを至近距離で受けて、ただの機体性能だけでほぼ無傷で防ぎ切ったその装甲はノエルを驚愕させるには十分だった。

 すぐさまノエルはTSSR対物ライフルをマウントしエクシウムを抜く。バイクが被弾でボロボロになりつつあるがそれでも最低限のダメージに抑えている。

 エクシウムのブレードは光子剣とほぼ同じだ。あの特殊な装甲と言えど光子剣であれば切断が可能かもしれないとフェンリルは判断した。すれ違いざまに多脚戦車の下を通りエクシウムで切り裂く。何とか通用したようで中枢部分を破壊された多脚戦車は機能を停止し。その自重によって切断部位からM字のような形で停止した。


『通用するわね』


『エクシウムはバッテリー式です。有機転換炉を搭載していますがそう長時間は使えません』


 二機目を何とか中枢部分を破壊したところで通信が入った。


『戦闘中の作戦参加者へ。都市防衛砲が使用されます、すぐさま防衛拠点に帰還してください。繰り返します…』


 その通信を聞いたフェンリルはバイクをUターンさせ防衛拠点に向かって走り始めた。


『フェンリル?そんなに急がなくても多少の爆風くらいなら…』


『無理です!使用される弾頭は高重力発生弾頭です。指定範囲を完全に消し去る気です!』


 戦闘していたAS達も我先にと撤退を始めているのを見たノエルは流石に状況を把握した。直ぐに迷彩機能を起動し極力多脚戦車からの攻撃の対象から逃れるようにする。


『不味いですね』


『これ以上何が不味いの?行ってみてよ』


『バイクのダメージが思ったより深刻です。正直今すぐ壊れても可笑しくない無い程度には』


 フェンリルからそう言われノエルは言葉を失った。


『幸いまだギリギリもっていますが。トップギアに入ったままうんともすんとも言いません』


『冗談だと言って…』


 そしてノエルは、バイクをトップスピードのまま防衛拠点に突っ込む寸前に飛び降りてバイクをグレネードで爆破した。


『結構思い入れあったんだけどね…』


『確かにあれかなり良いものだったと思いますが…いくらだったんですか?』


『貰ったのよ…だからタダね』


 飛び降りたノエルは慣性の法則をそのままに運動エネルギーを強化服で殺さず防衛拠点まで走り切った。足の感覚が無くなり足の骨が折れたかもしれないと感じながら回復薬を飲んで騙し騙し走った。ノエルが防衛拠点に着いた瞬間ノエルの後ろで衝突音が響いた。


 振り向いたノエルが見た物は漆黒の球体。人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドの技術を流用した、斥力では無く引力として使用し兵器運用した。その弾頭が引き起こすその重力圏では何人も脱出する事は不可能だろう。指定範囲だけをブラックホールで光すら飲み込むそれは物質の一切が消失した所で何もなかったかのように消え去った。

 そして更に遠方にはその超重力発生弾頭よりも広範囲を更地にするような爆発。


『特殊壊滅弾頭ですね。反物質を用いた破壊範囲だけなら最強の弾頭です』


『よく知ってるわね…』


『ノエルが寝ている間に色々調べていますから』


『バレない程度にね…』


『因みに一発の値段が超重力発生弾頭は25億ルクルムで特殊壊滅弾頭が50億ルクルムですね』


『たっかいわね』


 反物質を内包したその弾頭は特に高価でそして高威力だ。防ぐ事は一部の者以外は不可能とされているその砲弾を今回の作戦の最後に撃ち放ったのだ。今回の最後の砲弾だけで200億は下らないと言う金食い虫だが性能は素晴らしい物だ。


『因みにそれを受けても鼻歌歌っているようなレベルも居ます』


『なにそれ冗談でしょう?』


『黒にヘキサゴンの模様の外套を着た人間が居たらそうです』


『嘘だと言ってよ…』


 その後作戦の終了が通信にて通達された。報酬に関しては後日支払いという事になった。


『あれ、強化服の反応が遅いのだけど』


『恐らく今回の戦闘で壊れたのでしょう。修理に出さなければいけませんね』


『エイリスどんな顔して装備注文しろって言うのよ…』


 明日の事で既に気が重いが疲労が襲ってきているノエルはとりあえず問題を棚上げした。そして今日は一先ず家でゆっくり休むことにした。何せこの数日で死線を何度もくぐる羽目になったからだ。

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