第26話:私服購入

「「え、服がない?」」


 強化服を喪失したため衣類がない事をエイリスとリーナに言うとかなり驚かれた。


「えぇ、下着くらいは持ってるけど。強化服しか着てなかったし」


「ノエルもうちょっとおしゃれとか興味持とうよ…」


 そうリーナに言われても今一ピンときていないノエルは軽く体の動きを確かめていた。

 切断面は一応塞がっているものの過度な運動は控えるように言われた。その点でもリーナが居てくれる事は助かった。今日退院とはいえ都市でも治安が悪いところを通ることになっても武装しているシーカーに喧嘩を売る者は少ないからだ。


「お姉様仮面外さないのですか?折角美しいお顔なのに」


「昨日の途中からその呼び方する様になったけど。気に入ったの?」


「はい!それで外さないんですか?」


「そんなに綺麗だったの?」


「それはもう!」


 二人で盛り上がり始めたのを無視してまた売店で適当な服を買いに行こうとした所で捕まった。


「ちょっとノエル!私にも見せてよ!」


「えぇ…」


『仮面取ってあげたらどうです?それに変形機能を使えば機能そのままに通常の視界も使えるので例の勘と言うのも使えるようになるかも知れません』


『フェンリルも勘とか信じるのね。以外だったわ』


『数字に出ますしある程度はその勘の理由も分かりますからね』


『…このままずっと言われ続けるよりは良いか。じゃあその変形機能で顔を出すわ』


 変形機能をフェンリルの指示のもと目線操作で操作するとガチャガチャと音を立てて白いカチューシャのような形になった。


「おー!!可愛いじゃない!人形みたい!」


「何で顔を隠すんですか?こんなに可愛いのに」


「最初にここの看護師に言われたのよ。顔を隠した方がいいってね。実際仮面を手に入れる前に一度銃を突きつけられて襲われたことがあるから」


 そう言うと二人はある程度納得したようで成程と頷く。


「今後はそのままで行けばいいんじゃないですか?少なくとも今は身体強化系ナノマシーン投与を受けてるんでしょう?」


「そうだけど、余計な面倒事起きない?」


「少なくとも治安が悪いところでも無いなら都市内でそうポンポン銃を撃つ事は無いでしょ」


『賛成します。少なくともこの仮面形態であれば視野範囲も拡大しますし、映像ではない実際の景色を自分の目で見て肌で感じる情報量は重要です』


 そこまで言われればノエルは反対する意思は消え去った。「じゃあそうするわ」と了承し、改めて病室を出る。




 既に報酬の金は口座に振り込まれ、ノエルの財布は潤っている。また装備等に消えるが今日はそれ以外の物を買うことになっている。

 ノエルは別に美的センスが悪いわけではない。ただ単純にそう言った物を見慣れておらず、そう言った物に興味が無かっただけだ。


 フェンリルの案内の元それなりに良い服屋に来たノエル達はそれぞれ自分の服を購入し始めた。ただ、これは私服用と強化服の下に着るもので別の物を購入する。

 強化服と服の摩擦という物は中々にバカにできず、運動効率に関わる上に無駄に装飾があったり強度不足であれば一度の戦闘でボロボロになる事もよくある話だ。その為シーカー向けの下着は見た目なんて二の次で完全に性能と強化服や防御服で発生する摩擦の軽減に寄っている。だが必要最低限の場所を守れれば良いと言う訳でも無い。そう言った事も含めてシーカー向けの戦闘に耐えうる下着と言うのは普通の下着よりも高額だ。


 シーカー向けの下着を選び終えると、ちゃんとした年頃の女子の服選びの時間となった。リーナはこれでも熟練のシーカーだ、仕事用の服選びの際は美的センスなんてかなぐり捨てて性能を優先させたが、それが無ければちゃんとした年頃の少女となる。


「なんだノエルちゃんとしたの選べるじゃない」


「そう?ここにあるので直感に任せて好みで選んでいるのだけど」


「そんな感じで良いのよ」


 そんな話をしていると先に洋服を選んでいたエイリスがノエルに幾つかの服を勧めてきた。


「お姉様!この服はどうですか!」


 渡された服はしっかりノエルに似合うデザインと色調の服でノエルの可愛さを強調していた。私服としてラフなその服はノエルとしても良いものだと思えた。


「良いと思うわ」


「良かった!」


「ただこのまま着せ替え人形になるのはちょっと嫌ね。取りあえず幾つか候補を立てたらそれを纏めて買おうかな」


「予算は?流石に50万超えないで」


「そんなに量持ってくるわけじゃないのに高い私服ね…」


「取りあえず見繕ってきますね!」


 そう言って三人はノエルに合いそうな服を片端から見繕っては買い始めた。

 この店は宅配サービスも行っているためそれなりの量になる事は諦めていたノエルはその配送を頼むことにしたのだ。


 小一時間ほど服を選別し購入した所で店員の女性がやってきてノエルに一点の品を進めてきた。


「お客様もしよろしければ是非ともお勧めしたいお洋服があるのですが如何でしょう?」


「まぁ、見るだけなら」


「ありがとうございます!ではこちらにどうぞ」



 そう言って店員に案内された場所に飾られていたのはワンピースドレスだった。黒をベースにしたその服は白い装飾が特徴的な物でそれが黒を強調し、胸元の紅い宝石がワンポイントのアクセントとして素晴らしい調和をしている。


「如何でしょう。まさにお客様の為だけに有るかのような一品だと思いますが」


 まさにその通りだった、店員がノエルに見せたタブレット端末にはノエルが着た事を想定した仮想映像が映し出されている。


「こちらの衣装は異界のドレスを仕立て直したもので軽度の修復機能と形状記憶性能が御座います。ちょっとした損傷にも対応することが可能でございます」


「因みに、値段は?」


「こちら150万ルクルムとなってります」


「そう…」


 服の料金としては高額なその値段に悩むノエル。此処にはノエルと此処に案内した店員しかおらず相談できるものはフェンリルくらいだ。


『どうしよう、ちょっと判断に迷うわね』


『私はノエルの判断に任せます。私の目から見ても似合う衣装だと思いますよ?』


 ノエルは一分ほど考えた所で携帯端末を取り出した。


「買うわ、着ていくから更衣室を貸して。それとこれの会計は此処でしたいんだけど」


「お買い上げ誠にありがとうございます!こちらの端末にかざして頂ければお支払い出来ますので」



 代金を支払い、近くのの更衣室で先ほど購入した服に着替える、その際迷彩コートを迷彩機能を黒で固定してただの黒の外套としてこのワンピースドレスの元からあった外套の様にする。今まで着ていた服を持って更衣室を出る。其処には紙袋を持った先ほどの店員が居た、店員からすれば150万の服が売れたのだ紙袋など些細な事だサービスの範囲と言える。


「今回のご利用ありがとうございます。今回の配送料金の方を無料とさせていただきます。今後も是非とも弊社をよろしくお願いいたします」


「えぇ、ありがとう」



 その後二人の所に戻ると服の変わったノエルにかなり驚いていた。


「ちょっとノエルこの服どうしたの!?」


「買った」


「こんな良いの高かったんじゃないんですか?」


「まぁ、高かったわね。でも良いでしょ?気に入ったの」


 ノエルがその場でくるっとターンしてみせると二人は「おぉ…」っと思わず唸った。


「良ければ皆様も如何ですか?」


 そう店員が言うと二人は悩んだ、リーナもエイリスも少々払えるとしても財布事情的にきつかったのだ。


「次の機会にするわ」


「わ、私も…今はちょっと財布が」


「左様ですか、またの機会をお待ちしております」


 その後それぞれお会計を済ませ、配達場所の位置情報を設定し終えると店を出た。

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