第7話ー運命は誰の手に。

 ★☆★☆





「オレは呪文カード! 亡霊のソナタを発動! 貴様の雑魚モンスター共のパワーを−1000し、奪ったパワーの合計をオレのモンスターのパワーに加える! 吸血眷獣きゅうけつけんじゅうガリウスよパワーアップしろ!」



 吸血魔族ヴァンパイアの烙印の施された巨大な猛獣を従える大魔王候補、ヴァロン・ヴァンデルセンは自分のモンスターをパワーアップさせる呪文を放ち、更に猛獣は巨大化した。




吸血眷獣きゅうけつけんじゅうガリウス】

【属性】♣︎。

【パワー】:4000。

【スキル】:主となるモンスターが存在する場合、そのモンスターの下に重ねて一つのモンスターとして扱う。

【テキスト】:吸血魔族の高血を与えられ、眷属となった魔獣。強大な力を得た代償として、自由を失った。





【亡霊のソナタ(呪文)】

【発動条件】:自分と相手の場にモンスターがいること。

【スキル】:相手モンスターのパワーを−1000する(パワーが0になったモンスターは墓地に置かれる)。その後変動した合計分のパワーを自分のモンスター一体に加える。



 吸血眷獣ガリウス。

 パワー4000→8000。





 既に対戦相手の戦意は喪失していた。

 壁となるモンスターは全て力尽き、敗北を待つのみである。



「そんな……オレのモンスターが全滅!?」



「貴様など魔王ロディアを使うにも値しない……失せろ! 吸血眷獣ガリウスでとどめだ!」



「ぐっ……ソウルライトが0に!」



『そこまで! 勝者! 吸血魔族ヴァンパイア! ヴァロン・ヴァンデルセン!』



「オレが負けるなんてそんな……これが上級魔族の力なのか?」



小鬼魔族ゴブリンザザンコ……列車ライナーバトルデスマッチに負けたあなたには大魔界学園を潤すマナになってもらいまショウ! ヒーッヒッヒッヒ!』



 ヤミーから赤い光が敗北した魔族に照射される。



「な、なんだこれは!? オレの体が消えていく!」



『ヒーッヒッヒッヒ! あなたの体は少しずつマナへと変わっていくのです! 緩慢に! 緩慢に!! 緩慢に!!!!!』




「いやだ……こんな所で死にたくない!」



「所詮貴様は魔界を統治する大魔王の器ではなかったということだ。大人しく運命を受け入れるがいい。貴様のデッキは戦利品として貰っていくぞ」



「か、返せ! 子供の時からずっと一緒だったモンスター達なんだよ! 返してくれよォォォォ!」



「チッ、低マナの雑魚カードばかり……血統が知れるな。言われなくても返してやる。ただし……抜け殻でよかったらな」



『イタダキマーーーース!』



 ヴァロンは禍々しいマナを放つ魔王のカードをかざすとカードから赤い鞭のような触手が現れ、マジカルデッキごとザザンコを体を貫いた。



「アァァァァァァァ!」



「貴様と貴様のデッキには魔王ロディアの養分になって貰う。どの道死ぬ運命に変わりは無いんだ。弱者は弱者らしく強者の糧となるがいい」



「アッ……ァァ……ッ」



 カードから伸びた触手はゴキュン……ゴキュンと音を立てマナとなったザザンコの身体とマジカルカードを吸い尽くした。



『そう来ましたかァ……これは期待の新人ですねェ♡ さすが吸血魔族ヴァンパイアのヴァロン・ヴァンデルセン! そしてその禍々しいマナを放っているのが魔王のカードの一角! いつきの魔王ロディア!』



 やがて吸い尽くされたザザンコは跡形もなく消えてなくなり、辺りには白紙となったマジカルカードだけが無残に散りばった。



『マダタリナァーーイ! ゴチソウタベルーー!』



 ロディアと名乗る魔王のカードはヤミーを喰らわんと触手を伸ばした。



『おっと……』



 しかしヤミーは目玉から再び赤い光をバリアのように放出し触手の攻撃を受け止める。



『随分と躾のなっていないモンスターですねェ』



「コイツの悪食ぶりにはオレも困っている。だが気に入らんのは事実だ、貴様もマクラとかいう理事長も」



『ほゥ?』



「なぜ今回の大魔王選に人魔族ピエロを参加させた。もし奴がこの戦いを勝ち抜き大魔王になってしまったらどうなるか……知らないとは言わせんぞ」



『期待の新人……いやァ問題児ですかねェこれはァ♡ これだから歴史の長い上級魔族はやりずらい♡ ヒーッヒッヒッヒッヒ♡』



王族選挙管理委員会きさまらが何を企んでいようがオレの道は変わらない。大魔王になるのはこのヴァロン・ヴァンデルセンだ」



『楽しみにしていますよ……ヒーッヒッヒッヒッヒ♡』




 ★☆★☆



【大魔界学園 理事長室】




「例の人魔族ピエロの子、列車バトルデスマッチを勝ち残ったようだね。それにその他の優勝候補の魔族も順当に勝ち上がったようだ」



「フン……忌々しい……人魔族ピエロなどあのまま倒されて大魔界の養分となれば良かったのに……



「アハハハハ! 君の反人魔族派アンチピエロっぷりも相当だねぇ!」



「マクラ理事長……一体あの人魔族は何者なんですか? 人魔族ピエロはかつて魔界に破滅をもたらした呪われた一族。迫害と虐殺の末にその血は途絶えたはずです」



「ねぇコオリ、君は魔界は幾つ存在しているか知ってる?」



「52個でしょう? 魔界が折り重なって出来た大魔界を入れても53個です。それ以上はありません」



「事実に忠実な模範解答だ。でもそれはあくまでも事実であって真実ではない。真実もカードゲームと一緒さ。決して一枚で完結しさない。カードの組み合わせ一つで無数の解釈コンボが生まれる」



「話が掴めません。ではあなたは何処で彼を見つけたのですか?」



「54番目の名も無き魔界さ」



「なっ!?」



「その魔界には意志があってね。気に入ったものしか自分の中に引き入れないのさ。おまけに転々と出現と消滅を繰り返す神出鬼没っぷり。探し当てるのに苦労したよ」



「にわかに信じられません! 魔界そのものが意志を持つなど!」



「しかしそのおかげでこうして1000年ぶりに全ての魔族と魔王のカードが勢揃いした。運命の歯車は今やっと動き始めたようだ」



「これも全てあなたの掌の上ですか、マクラ理事長?」



「まさか……運命の方から掌の上に来てくれるなら追い求める意味はないよ」



 マクラは魔導書に手を置いてマナデッキを具現化しデッキの上からカードを引くと、それを秘書に見せるように突き出した。




「運命は誰の手の中にも収まることはない。カードの裏から表が見えないように表から裏を見据えようとしても決して見ることは出来ないのだ。でもボクはそんな運命コイツのことが好きでねぇ……愛おしくてたまらない。だから振り向かせるためには」



 力強く真っ二つに折り曲げられたカード。

 現れた絵柄はジョーカー。

 何物にも成り代わり、運命を嘲笑う最強のマナカードだ。



「手段は選ばない」




「まだまだ潰し合ってもらうよ。最後の一体となるまで」

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