第4話ー列車バトルデスマッチ【PARTⅠ】


【作者コメント】

 マジカルカードの詳しい遊び方はマジカルモンスターズ遊び方ガイドにまとめました。


 本編の補完にお使い下さい。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★










『クソが……っ! 2人1組のペアを組ませて乗車させたのは最初からペア同士で戦わせることが目的だったってことかよ!』



『ククク……なにやら車内のあちこちで文句が聞こえるようだね。好きな魔族同士で組めとは言ったが仲良くしろとは言っていない。そもそも君達は大魔王学園に何しにやって来たんだい? まさか本気で友達100人でも作るつもりだったのかな?』



「……っ!」



『大魔王となり魔族の頂点に立てるのは1人だけ! そのためには誰であろうと蹴落とし! 欺き! 糧とする! そんな陰謀と謀略が荒れ渦巻く大魔王選を勝ち抜いた一握りの魔族だけが、古来から大魔王として魔界の歴史を築いてきたのだ!』



「そんな……嫌だよ! ルビィと戦うなんて!」



「……」



『もし戦うのが嫌だというのなら何もしなければいい。あらゆる魔族の頂点に立ち、意のままに魔界を作り上げる力をふいにしてもいいというのならね』



「……っ」



「ル、ルビィ……?」



『戦う意思があるのなら各自座席にある認証パネルにマジカルデッキを置け。転移魔法でモンスターが実体化しても問題の無い特設の異空間ステージへ送ってやる。楽しみにしているよ、未来ある若き魔族達よ』



 プツンと音がして、アナウンスが終わった。



「……」



「……」


 楽しく会話をしていた先程から雰囲気は一変した。


 怒り、あるいは憂鬱といった退廃的な感情が辺り一面に漂っては消える。その繰り返しだった。


 空気ですら重さを持った何かに感じ始めた頃ルビィが沈黙を解いた。



「わたしは……戦うのです」



「ルビィ! 本気なの!?」



「大魔王になれるのは300名中たった1名。遅かれ早かれこうなる運命だったのです」



「ボクは嫌だよ……だってルビィはやっと出来た魔族の友達なのに! 負けたら死ぬような戦いをしなきゃならないなんて……こんなの絶対おかしいよ!」



「わたしには夢がある。そしてそれは大魔王にならなければ決して叶わない。エル、もし本当にわたしのことを友達と思ってくれるなら……」




「全力でわたしと戦って欲しいのです」



「……っ!」



 魔導書を手に携え、マジカルデッキを認証パネルを置くと転移魔法が起動した。



「先に待ってるから」



「……っ」



 光の粒となって消えるルビィをよそにボクは血が滲むほど強く唇を噛みしめた。


 負けた魔族は大魔界学園を退学する。それは即ち大魔王選から脱落することを意味するのだ。


 やっと人魔族ピエロのボクとも隔てなく接してくれる友達に出会えたのに。


 どうして……どうして戦わなきゃならないんだよ。



「うっ……うぅ……っ!」



 あらゆる感情が言葉になるより先に大粒の涙となって溢れ落ちた。


 

『泣いてる場合か! お前も戦うんだよ!』



「分かってる……頭では分かってるんだ。ってこと。でもせめて戦う相手くらいボクが選びたかったんだ。もはや叶うことの無いボクのわがままだけどね……あははは」



『エル、お前は転移する前のルビィの眼を見たか?』



「……っ!」



『その様子じゃ見てなかったようだな。覚悟に満ちた戦士の眼に変わっていた。ルビィはもう大魔王選に勝ち残るために死に物狂いで戦う覚悟を決めたんだよ。お前はそんな友達の気持ちを蔑ろにしてでも目の前の現実に怖気づいて逃げるつもりかよ?』



 ルビィとカリスの言う通りだ。


 ルビィの友達でいるためにボクが今しなければならないことは。


 

『逃げるな! 戦え! それがお前とルビィが友達でいられるためのたった一つの条件だ!』



「……っ!」



 正々堂々ルビィと戦うこと!



「ありがとうカリス、ボク自分のことしか見えてなかったよ」



『へへへ! いい面構えになったじゃねえか!』



 マジカルデッキを認証パネルの上に置くと転移魔法が起動する音がした。



「行くよ」








 ☆★☆★



【異次元魔界 よる






「なんなんだここ……一面真っ暗だぞ」



 転移した先には真っ暗な空間がどこまでも広がっていた。



『あぁ……だが魔族の気配はするぜ。真っ直ぐだ』



「うん」



 歩いた歩数が十歩目に入る頃でカリスが声を上げた。



『あっ、待て! なんか来るぜ!』



「なっ、なんだあの光は!?」



 真っ暗な空間に漂うように揺らめく一筋の光。



「おやァ?」



 やがてその光源らしきものがボクに向かって急接近してくる。 



「ひ、光る……目玉!?」



「お待ちしておりましたよー! エル様! ヒィーッヒッヒッヒ!」



 ボクの手元まで飛んできた光源の正体は目玉に翼の生えた魔族だった。



「君は誰?」



わたくしはヤミー! 大魔界学園の理事長、マクラ様の使い魔をやっております! ヒィーッヒッヒッヒ!」



 この妙にアッパーの効いた声、初めて聞いた感じがしない。


 そうだ、確か電車に乗る前に……。



「この声……まさか0番ホームで指示を出していたのも君なのかい?」



『アハァ……♡ やっぱり気ィづいちゃいましたァ? ヒィーッヒッヒッヒ♡』



 ヤミーと名乗る魔族はボクの問いかけに満足そうに目を細めると嬌声を挙げながら翼をはためかせる。



「ルビィはどこ?」



『んもう……せっかちなんだからァん♡ ふぬゥ!』



「わわっ! 目の前に扉が!」



 ヤミーは眼に灯った光を強めるとボクの目の前に扉が現れた。



「ぷーっ! わわっ! ですって! かァーわいィ♡ ヤミーちゃんもっといじわるしたくなっちゃーう! ねーねー! 好きな魔族のタイプ教えなさいよー?」

  


「ちょっと顔の前でパタパタ飛ばないで! 前が見えないよ!」



『テメェ! あんまりおちょくってるとぶっ飛ばすぞ! エルをおちょくっていいのは俺様の特権だオラァ!』



「あんまりフォローになってないんだけど……とりあえずルビィはこの扉の中にいるんだね?」



『チェッ、はいはァーい……お探しの方ならこの奥ですよォーだ』



 不貞腐れたヤミーをよそにドアノブに手をかけるとライトアップされた部屋の中にルビィはいた。



「お待たせ、ルビィ」



「やっぱり来てくれたのですね」



「本当はね、ここに来るのが死ぬ程怖かったんだ。でも逃げたくなかった。友達ルビィを裏切ることの方がもっと怖かったから」



「エルは本当に優しい魔族なのですね」



「さっきも言っただろ? ボクは怖い物が多いだけ。だから負けるのも怖いんだ」




 一度深呼吸し、一字一句はっきりと伝えた。


 ボクの覚悟を。



「この勝負勝たせてもらうよ、バトルフィールド展開!」



 携えていた魔導書の上にマジカルデッキを置くと表紙に描かれた五芒星の魔法陣が光り出し、マジカルデッキが吸い込まれるようにして魔法陣の中に消えていく。



『あとでな……相棒』



「うん」



 無論マジカルカードであるカリスも魔法陣の中へ消えていった。


 そして本の魔法陣がボクの足元へ移動した。


 この魔法陣はマジカルゲートと呼ばれ、魔導書の所有者の精神世界と繋がっている。


 モンスターはこのマジカルゲートから召喚され、所有者の力となるのだ。


 

「マナデッキ構築! マジカルモンスターズスタンバイ!」



 吸い込まれたマジカルカードと入れ替わるようにして白い裏表紙のトランプが現れた。

 このトランプは通称マナデッキと呼ばれ、魔導書に込められた特殊な力によりボクの魔力をカード化したものだ。


 マジカルモンスターズはこのマナデッキから造られる魔力を用いて勝敗を決する魔界創世期から伝わる由緒正しきカードゲームである。



「にょろろー! マナデッキ構築! マジカルモンスターズスタンバイ!」



 ルビィも準備が整ったようだ。



先攻ファーストチェック! お互いにマナデッキから1枚ドローし数字の大きいプレーヤーが選択権を得る! ボクは♣︎クラブの4!」



「わたしは♠︎スペードの6! 私は先攻ファーストを選択する!」



【ゲーム開始まで】

 ①互いにマナデッキから1枚めくり、数字が強い側が勝利となり勝利したプレーヤーが先攻ファースト後攻セカンドを選択。

 ②数字の強さの序列は通常のトランプ通り2345678910JQKAの順番となる(ただしお互いに数字が同じだったり、ジョーカーを引いた場合は引き分けとなりもう一度やり直す)。なお使用したカードは墓地に置かれる。



「なら後攻セカンドはボクだね。いつでもいいよ」



「わたしのターン! ダイヤの6と8を捨ててマナ構築!」



【マナブースト】


 ①


 ②or。この場合コンボが発生し、バトルを有利に進められる。


 ③ジョーカーは単体では使用できないが、他のカードと一緒に使用することで使



「♢の6と8……合計値は14だから構築されるマナは2つか!」



「にょろろー! その通り! 私は発生した2マナでマジカルデッキの上から2枚をめくる! 開け! マジカルゲート!」



【マナ計算早見表】


 0〜9→マジカルデッキから1枚だけめくり場に出すことが出来る。


 10〜19→ マジカルデッキから2枚だけめくり場に出すことが出来る。


 20〜29→ マジカルデッキから3枚だけめくり場に出すことが出来る。


 30〜39→ マジカルデッキから4枚だけめくり場に出すことが出来る。


 40〜49→マジカルデッキから5枚だけめくり場に出すことが出来る。


 50以上→マジカルデッキから6枚だけめくり場に出すことが出来る。


 ※Jは11、Qは12、Kは13、Aは14として計算。




「モンスター召喚! 現れるのです! 森の番人! 森の狼!」




【森の番人】

パワー:2000。

属性:ハート

スキル:無し。

テキスト:森の平和を守る心優しき番人。大きな石斧を振り回して攻撃する。


【森の狼】

パワー:1500。

属性:♣︎クラブ

スキル:墓地の♣︎クラブ属性のモンスター1枚につきパワーが+500される。

テキスト:森の周辺を縄張りにしている狼。とても仲間意識が強い。



「先攻1ターン目は攻撃出来ない! わたしはこれでターン終了なのです! 次はエルのターンですよ!」



「ボクのターン! ドロー! コンボ発動! ダブルカード! ♣︎クラブと5とダイヤの5でマナを構築!」



【コンボ】ダブルカード。

【発動条件】数字の同じカードが2枚。

【コンボボーナス】コンボ成立後、マナデッキから1枚カードをドローする。



「コンボボーナスにより、マナデッキからカードを1枚ドローする! その後発生させた2マナを使いマジカルデッキから2枚カードをめくる! マジカルゲート開放!」




【鏡の騎士・ミラーナイト】

パワー:2500。

属性:♠︎スペード

スキル:無し。

テキスト:あらゆる攻撃を跳ね返す鏡の鎧を纏う騎士。強くなるために鍛錬を惜しまぬのは主君への高き忠誠心の表れ。



【女神の祝福(呪文)】

スキル:マナデッキからジョーカーカード以外の好きなカードを1枚加え、手札から1枚を墓地に置く。



「鏡の騎士・ミラーナイト召喚! 更に呪文カード、女神の祝福を発動! デッキから♠︎スペードQクイーンを手札に加えた後、ハートの2を墓地へ!」



「手札交換……次のターンへの布石ですね?」



「そうだよ! そして後攻プレーヤーは1ターン目から攻撃が出来る! 鏡の騎士・ミラーナイトで森の番人を攻撃!」



 ミラーナイトの研ぎ澄まされた剣捌きで森の番人を石斧ごと両断した。



「森の番人が……やられた!」



「ボクはこれでターン終了だ! 次はルビィのターンだよ!」



「にょろろろーーっ! 負けませんよーーっ!」

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