13.本当の婚約者と
今、私はシシリー様と共に、シルバー家に向かっています。シルバー家が見えて来ましたが、なぜか家の前に誰か立っているように見えます。執事さんでしょうか。そうですよね。そうと言ってください、ジーク様。
どうしてあなたが、もう家の前にいるのでしょうか?
「お兄様、お迎えありがとうございます」
「いや、別にいい、それよりも聞きたいことがあるのだが?」
「はい、何でしょうか?」
「アリシアに俺以外の婚約者がいたという事は本当か?」
ギクっ、馬車から降りる時に、ジーク様が手を差し出してくれていたのですが、驚きのあまり、取り損ねてしまいます。どうして、もう知っておられるのでしょうか。
「それは向こうの勘違いでした。それどころか私のせいで、シアお姉様にご迷惑をおかけしてしまったようで…」
申し訳ないですと言っている、シシリー様に対し、あの時助けてくれなかったくせに、と、思ってしまいます。もちろん、言いませんが…。いえ、言えませんが。
「アリシアは…どうなのだ」
ジーク様が真剣な顔でこちらを見てきます。どうなのだとは、私の気持ちが、ということなのでしょう。自分との婚約に不満を持っていないのか、と。だから、私も真剣に彼に向き合います。
「例え、お義父様がなんとおっしゃろうと、王妃様の命令であろうと、ジーク様が私を相応しくないとおっしゃらない限りは、離れたいとは思いません」
これは嘘偽りのない私の気持ちです。私はジーク様に救われました。彼がいなければ、もうすでにこの世にはいないでしょうし、あの憎き叔父一家が我が物顔でいると思うと腹が立ちます。ですから、婚約者の話が出た時はとても嬉しかったのです。
けれども、それをジーク様が望まないのであれば、この感情に蓋をすることも私は覚悟しています。
「そうか」
ジーク様は口数がそれほど多いお方ではありませんが、ふと私に向ける笑顔を見ると、私の心臓はドキドキしっぱなしで、苦しくなってしまいます。
「は、はい、ですから、その時はいつでもおっしゃってくださいね」
私は真っ赤な顔をしているのを見られたくないので、家の中に逃げ込もうとしたところ、手を掴まれてしまいます。
驚いて振り返ると、ジーク様の顔が近くなり、口を塞がれてしまいます。
「んっ」
今、私はキスをされたのでしょうか?誰に?ジーク様に?どうして?現実を受け入れなくなり、混乱してしまいます。だって、こんな経験、前世でもたぶんしたことないんですよ!
自分の唇をそっと指で撫でる。ほんの数秒だったはずなのですが、もっと長い時間していた感じがします。顔がさっき以上に熱いです。とりあえず何か言おうとジーク様を見上げます。
「逃がさないからな」
私が逃げられると思っていらっしゃるのでしょうか。そう言おうと思っても、無意識に口から出た言葉は全然違うものでした。
「私をもう一人にしないでくれますか?」
「ああ、約束する。一人にしない」
私は日本人としての前世があったおかげで、普通の8歳児とは異なった思考をしていたとは思います。けれども、やはり、一人になったことの恐怖は忘れることができません。だから、こんなことを言ってしまったのでしょう。けれども、ジーク様は約束してくださいました。この言葉を聞いただけで、胸がとても熱くまります。
お父様、お母様、私には素敵な婚約者様がいます。これからもいろんなことが起きるかもしれませんが、ジーク様と二人なら、これからも楽しく過ごしていけそうな気がします。
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