コネクト・ミー

まにゅあ

第1話 留年

 俺はノートパソコンを開いて、《コネクト・ミー》を立ち上げた。このアプリを使えば、過去の自分、そして未来の自分と会話できる。

 

 現在の俺:K大受かった、イエーイ

 過去の俺:マジ! 俺ってそんないいとこ受かるのか~

 未来の俺:当時振り返っても奇跡。てか、調子乗らずに大学でも勉強しろよ。

 現在の俺:え、やばい感じ?

 未来の俺:単位落としまくって留年するぞ

 現在の俺:うぉい! 勉強するわ

 未来の俺:まあ、留年生活おもろかったけど(笑)

 現在の俺:はい、留年確定っすね

 過去の俺:ちゃんと勉強してください


 夕飯の時間。

「母さん、俺留年するんだって」

「へー、そうなん。まあ母さんは大学行っとらんから、父さんに訊いてみ。父さんがオーケーしたら、留年したらいいんちゃう」と母さんは炊飯器の中を覗き込みながら言う。

 留学か何かと間違えているのではと思わなくもなかったが、スルーすることにした。

「はいよ、ご飯」

 お茶碗から零れ落ちそうで零れない、絶妙な量が入っている。一口食べると、うん、相変わらずふっくらと炊けていて美味しかった。母さんほど米を上手く炊ける人はいないだろうな――なんて以前母さんに言ったら、「炊飯器がいいんだよ」と十年間頑張っている我が家の炊飯器の頭を撫でていた。

 唐揚げの一口目を味わっているときに、父さんが帰ってきた。

「父さん、俺留年するってさ」

 席についた父さんに開口一番そう告げた。

 父さんはネクタイを外し、「ふぅー」と一息つく。

「で、留年がどうした」 

「いや、だから俺、大学で留年するんだって」

「いや、だからそれがどうした」

 俺は味噌汁を飲んだ。

 父さんは唐揚げを齧った。

「つまり、父さんは俺が留年してもオーケーなわけ?」

 父さんは唐揚げをしっかりと三十回咀嚼して飲み込んだ。

「よくはないだろ。留学ならともかくな」

 父さんはご飯をお代わりした――てか、いつも食べるの早いな。

 母さんはテレビドラマに夢中で聞いちゃいない。

「けどな、父さんも留年した」

 きゅうりの酢の物が口の中でカリ、コリと鳴る。

「母さんと遊び過ぎてな」

 まじか。理由がイケイケだろ。

 父さんは顔を伏せた。頬が少し赤く染まっていた。

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