第15話 転売屋との戦い(2)

そろそろ種明かしをしよう。

まず、レポートによると分析班はかなり具体的に転売屋の正体を掴んでいた。


◇◇◇


■概況

丸底鍋の購入者は合計290人。そのうち16人、14人、13人がそれぞれ同じ配送先住所を指定していた。彼らを多い順にグループA、B、Cと呼称する。

これら合計43人の購入数は合計699個。一人平均16個強だが、最頻値は25個買っている人で12人だった。また26個以上買っている人がいないことから、各個人の予算上限は398ゴルド×25個より10,000ゴルドだったと推察される。


■配送先住所

グループAはスチールフロント東部の外れ、現在はリンゲン商会保有の倉庫を指定した。リンゲン商会は25日前にこの倉庫を買い取っている。

グループBは北西部のザールブ商会、グループCも北西部のルンベル商事の倉庫を指定していた。


■購入者集団の特性

冒険者等級の構成は1等級初心者25人、2等級ひよっこ16人、3等級駆け出し1人、4等級半人前1人だった。

経歴を見ると、直近の冒険でパーティメンバーから死者を出したチームが8チーム29人、死者は出ていないものの依頼未達だったチームが2チーム11人、残り3人は一度も冒険に出ていなかった。


■転売状況

高額転売が確認される出品者は14人。うち11人は1個だけ購入しており、配送先倉庫もリンゲン商会とは無関係であることから、騒動に後乗りした個人と考えられる。

残りの3人のアカウントは43人の転売屋とは一致しなかった。それぞれ個別の商会を名乗っているが、スチールフロント内に同名の商会は存在しない。また、その全てが丸底鍋以前の販売実績を持たない。


■補足事項(追記:アニエス)

ABC各グループのメンバーが購入ボタンを押した地域IDを実住所と対照したところ、43人中37人は上述のリンゲン商会倉庫でほぼ同時期に購入ボタンを押している。残り6人は冒険者ギルド北東支部にて購入。

また、匿名で批判的なコメントを書き込んだ地域IDの数件もこれらに合致している。


■考察

上記内容より、転売屋集団は資金提供を受けて雇われた冒険者崩れの集まりと考えられる。資金提供元は各倉庫の所有者である可能性が高いが、この点については資金の流れより追跡調査を行う。

3つの商会が資金提供者であると仮定すると、3社とも王都に本社を持つという点で共通している。更に敷衍ふえんすると、中堅以上の規模を持つ各社に指示を出すことのできる存在が黒幕として想起される。


◇◇◇


これを受け、実は今回43人の転売屋とそれ以外の視聴者で、アクセスできる商品購入ページを分けている。それぞれに5000個の在庫を持つページを表示し、一般視聴者には安心して買っていただき、悪意のある集団には別の環境下で思う存分買い占めてもらう。その上で資金が尽きるまで在庫を追加し、彼らの心を折りに行くのが作戦の第一段階だ。


『なななんと!あっさり在庫が尽きてしまったでシカ!』

『いやあ、消耗品だし、ひとり2本分は用意しておきたいわよね!でもご安心ください!こんなこともあろうかと、来週制作分の3000本についても在庫を追加確保しています!』

『なんだ、それを最初から言えシカ!みんな、安心して買ってほしいシカ!ちょっと待ってもらうことになるけど、確実に買ってもらえるよう頑張るでシカ!』


画面の中でシャイルとセナが小芝居を繰り広げている。このシーンも、ダンジョンの中で撤収前に撮影しておいたものだ。


「転売屋は追加配信を見てる?」


追加で流すダミー配信は、転売屋向けの商品ページにのみ、公式コメントという形で告知させていた。一般の人には配信ページのアドレスが伝わらないため、この放送を見られるのは転売屋のみとなるはずだ。


「ええ、倉庫にいる37人のうち、2人が気付いたわね。他のメンバーにも伝わっているみたい。今8人に増えたわ」

「よしよし、釣れてるな。あ、ギルドにいる6人はアクセスできないようリンク切っておいてくれ」

「もちろん、対応済みよ」


実は一般人向けにも追加在庫の開放は行うつもりだが、ギルドホールにいる転売屋の6人が先にアクセスしてしまうのはまずい。今更ながらにそれを気付いた俺よりも先回りしてアニエスは手を打っていた。


「分析班B、追加在庫の減り具合はどうだ?」

「さすがに鈍ってますね。現在残り1500……1400くらいです」

「了解。奴らの現場も混乱している感じかな」


転売屋の資金規模を見積もるのは難しいが、ほぼ1,2等級の冒険者集団だ。彼ら自身が大金を持っている可能性はまずないし、彼らに資金提供する存在にとっても、大金を預けて持ち逃げされるリスクは怖いだろう。前回の転売益が彼らの手元にあるとしても、43人合計で1,000,000ゴルド(一億円相当)より多いことはないと予想していた。


「そうね。でも立ち直る時間を与えるのは得策ではないわ」

「だな。そろそろ出るとしよう。シャイル!セナ!出番だ!」


俺は予め足元にまとめておいた荷物を取り出し、奥で控えていた二人に声を掛ける。


「アニエス、ゲートの準備を頼む。この後の流れも、手筈通りに」

「わかったわ。リンゲン商会倉庫裏にゲートをつなぐくわね。後のことも任せておいて」


アニエスは立ち上がると、研究室の隅に移動し呪文詠唱を始めた。この魔法は座標指定・空間確保・転送と3つの魔法陣を縦に積み上げることにより発動するため、術者はくるくると回りながら空中に魔力の文字を描いていくことになる。アニエスは踊るように魔法を完成させ、軽く微笑んだ。


「ゲート、オープン。いってらっしゃい」

「ありがとう。そう時間はかからないと思う」


そう言い残し、俺はシャイル・セナと一緒に門の向こうへ飛び出していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る