「外国人犯罪」という幻影:エスニシティ犯罪

「外国人犯罪」とは何か?


あらためて、このような問いを立てると、説明するのが非常に難しいことに気づきます。


この点、警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官名義で作成された「来日外国人犯罪の検挙状況(平成27年)」では、


「来日外国人犯罪については、国際犯罪組織が日本へ浸透するおそれがあるほか、犯行を繰り返し敢行することを容易にする地下銀行、偽装結婚等の犯罪インフラ事犯は手口が巧妙化しつつあり、最近では新たな手口もみられるところである。」(はじめに)


とし(来日)外国人犯罪に言及しています。


ここでは、外国人犯罪については、犯罪インフラ事犯(犯罪を助長し又は容易にする基盤)に基づく説明をしていますが、(来日)外国人犯罪 という外国人特有の犯罪が存在することが前提となっています。


したがって、外国人という特定のエスニシティに誘発された犯罪=エスニシティ犯罪を警察庁が認めているということになるでしょう。


この点、エスニシティとは、「一つの共通な文化を意識的にわかち合い、何よりもまずその出自によって定義される社会集団」と定義されることがあります(綾部恒雄,1993,『現代世界とエスニシティ』弘文堂,2頁)。


このエスニシティの定義は、あくまで学説の一つなので唯一無二のものではありませんが、私は、この定義が最も説明しやすいと考えることから援用しています。


さて、このエスニシティ犯罪は、中国人犯罪、韓国人犯罪、そして、ベトナム人犯罪と国籍別に類型化されていきます。


ニュースサイトや週刊誌等でも、これらの言葉をよく見ると思います。


なぜなら、○○人犯罪という言葉は、非常に扇動的だからです。


でも、本当にエスニシティ犯罪という類型は存在するのでしょうか。

この点について、少し考えてみたいと思います。


令和2年6月現在、在留ベトナム人は、420,415人となっており、これは中国(786,830人)、韓国(435,359人)に次いで三番目に多い在留外国人となっています(法務省在留外国人統計)。


その内訳として、ベトナム人永住者は、17,791人であるのに対し、技能実習生が過半数(219,501人)を超えており、これは全技能実習生402,422人の過半数でもあります(技能実習生=ベトナム人という実態)。


また、2015年6月時点の在留ベトナム人は124,820人程度であったことから、この5年で急増したことがわかります。 


技能実習生の中には事実上「出稼ぎ労働者」と言われる者が少なくありません。さらに留学生のうち、「出稼ぎ留学生」(主目的が就労の留学生)と称されるベトナム人留学生が65,818人もおり、在留ベトナム人の多くが「出稼ぎ」目的に来日してきたこともうかがえます(近藤秀将,2021,『外国人雇用の実務〈第3版〉中央経済社・日越MOC)。


技能実習生にしろ留学生にしろ、彼らは本来“学び”に来ているはずです。

しかしながら、来日前に、その無知がゆえにブローカーに大金を支払い“貧困状態”で来日してしまっています。


さらに追い打ちをかけるようにコロナ禍において失業・減給にあうベトナム人が増えたことで、結果として犯罪に走るベトナム人が急増しています(警察庁 『令和2年版警察白書』)。


また、その犯罪の内容に日本人には聞き慣れない畜場法違反等であったことからニュース等で扇動的に取り上げられ、当該犯罪行為者を超えたベトナム人のエスニシティに根ざした犯罪(エスニシティ犯罪)という印象が広がっています。


SNS等をはじめとするネットの論調をみると、明らかにベトナム人に対する風当たりが強くなっています。これは、コロナ禍以前には見られなかったことです。


私は、外国人が犯罪行為に手を染める原因は、日本における法的及び経済的地位の不安定性にあると考えます

そして、それは「貧困状態の移民」という言葉で説明できます。

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