Day2



カーカー


 空が茜色に染まるころ、田中家の守護者である茶々丸は家の床でゴロゴロしています。そしてその横で何とか気まぐれな猫を触ろうと機会を伺っているのが田中家長男の太郎くん。16歳の高校2年生です。ちなみに坊主頭です。



「ミャ!?」



 何かに驚いたように飛び上がる茶々丸。


「どうしたんだ? 茶々丸」



 仲良くなろうと話しかけますが、無視です。


 ガラガラ


 そのまま網戸を開けて外に出ました。一体どこに行くのでしょうか?


「ミャッミャッ」


 塀ではなく歩道を走っています。少し焦っているように見えますが、小さな勇者はどんな危険を感じ取ったのでしょうか。



「ミ゛ャ〜〜〜」



 どこか気の抜けた声を発しながら路地裏に入ります。そこから走ること2、3分、マンホールの前で立ち止まります。


「ゴロゴロゴロ」


 喉を鳴らしてマンホールの上に乗ります。すると、まるで掃除機に吸い込まれたかのようにスポンッと入ってしまいました。何が起きたのでしょうか。




 剥き出しの地面、明かり一つ無い暗闇。しかし茶々丸猫です。そんな環境デバフなんて全く関係ありません。



「ミャッ?」



 ここはどこにゃと言わんばかりの首の傾き具合です。直感だけでこんな奇妙な場所まで来たのでしょうか。



「GYA!!」


 緑の醜い小人が棍棒を持って現れました。いわゆるゴブリンなんでしょう。ファンタジーな世界に迷い込んでしまったのでしょうか?


「ミャ」


 青く爪を輝かせ、ひっかきました。勇者の力はまだ使えたようです。ゴブリンは黒いもやとなって消えました。魔王をも倒した茶々丸がゴブリンに苦戦するはずもありませんね。


「ミャーー」


 何かを感じ取ったのか、再び駆け出します。


 景色は変わりません。おや、下に降りる階段を見つけたようです。無警戒のままくたっていきます。



「ニャ〜」



 階段をの先には草原が広がっています。そして茶々丸の他にどこか俗世離れした白髪の少年がたたずんでいます。


「猫がどうしてここにいる?」


「ミャミャッ!」


「なんだと!? この俺に勝てるとでも?」


「ミャ〜」


「舐めるなよ、獣風情が!」



 ……また私を置いてけぼりで会話してる。ずるい。


「ミャッ」

「『絶対障壁』!」


 茶々丸が伸ばした爪で攻撃しますが、半透明のバリアーを張って防がれます。


「『ミャー』!」

「効かんわ 、『絶対障壁』」


 青かった爪が透明になり、攻撃します。


「グアッ……今のはスキル? まさかここにたどり着く前に習得していたのか……」


 そう言い、白い光の粒子となって消えます。ゴブリンを倒した時になにか防御をすり抜けるスキルを手に入れてたようですね。


 ゴゴゴゴッ


 薄々気づいていましたが、ここはダンジョンで、先程の少年は所謂ダンジョンマスターなんでしょう。そのダンジョンマスターが倒され、崩壊し始めたということなんでしょう。早く逃げて、茶々丸!


「ミャッ」


 落ちている羽根を口で拾います。すると茶々丸が光の粒子となって消えてしまいました。




 そして路地裏のマンホールの上に現れます。


「ニャオ」


 どうやら脱出アイテムのような物を使ったようです。よかった。


 どこか満足した様子で来た道を帰ります。明日はどんな冒険が待ち受けているのでしょうか……










 もし茶々丸がダンジョンマスターを倒していなかったら? そうですね、きっと別の誰かの冒険譚が始まっていたのかもしれませんね。

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