3.ZECOM、してますか。

 サンタは何も悪くない。

 しかし、ダンタリオンからそれを告げられると途端に仕事したくなくなるのは何故だろう。

 しかもその数日後、げんなりしているオレと司さんの元にとんでもない情報が入って来た。


「サンタがそりから落ちて怪我をしました」


 急転直下な事態だった。


「元々、両親がこどもにプレゼント配るのだってさ、サンタの手伝いだと思うとつじつまは合うわけだよ。一晩で世界中の子供たちにプレゼント配るとか、どれだけ労働基準違反なの? 過労死しちゃうよ、サンタさん」

「忍、お前は優しいな。それともそれ、新手の現実逃避?」

「過労死するよ。子どもの部屋に不法侵入したあげくに一人ずつプレゼント違うとか」


 現実逃避だな。元々あった理念だとは思うが、サンタ服を無理やり着せられた忍の目は遠い。


「赤とか警戒色で目立つのに。夜は黒で静かに動く方が目立たないと思うのに」

「忍んでいたい気持ちはわかる」

「いつも通りの格好の司くんに何が分かると言うのか。白服も目立つ」


 何も言い返せない。赤と白、どっちが目立つかと言ったら……サンタ服が赤白な時点で最強であろう。ちなみにオレも着替えさせられている。


「百歩譲って外交は仕方ないよ? でもなんでサンタが怪我したからってオレたちが代打になるわけ?」

「千歩譲っても情報部は関係ないんだよ、秋葉。なんで私が代打なわけ?」

「ごめんな。いつものオレのお付き扱いだよ」


 結局、当初対応するはずだった三名に代打の役が回ってきたのはオレの采配ではないと理解してもらいたい。

 素直に謝罪の言葉を述べるとそれを受け取る忍はさほど追及はしてこない。すぐに謝罪の意を汲んでくれるのは幸いだ。ため息交じりではあるが。


「大体が……」


 不条理具合は治まっていないらしい。


「姿を見られないことが前提なのに、着替える理由がないと思うんだ」


 真理をついてきた。かつてオレは、そこまで追求された言い分を見聞きしたことがない。目から鱗だ。


「確かにな。でも街にはいたるところに監視カメラがあるから、後々何かあった時の目印のようなものでは?」

「じゃあ司くんも着てよ」

「白服のサンタもいなかったか」


 忍の矛先が向きそうなところを司さんが絶妙に流している。


「要は好々爺でひげが長くてそりに乗っててプレゼント配れる人ならいいんでしょう?」

「いないよ。そんな人」


 といいながらも、オレは脳裏に一人の神魔を思い浮かべてしまった。ひげのおじいさんで、人が良さそうで、ガ〇ラっぽい亀かワニに乗っている……それな、アガレスさんだ。

 しかしここでアガレスさんが来ようものなら現場が混乱することは目に見えているので、黙っておく。観光神魔として知り合ったアガレスさんはものすごく好々爺だけど、同時にほら吹きでもある。


「お前ら適当に組んでリスト通り回れよ」

「ダンタリオン……お前……」

「公爵、殊の外サンタ服が似合ってて怖いんですが」


 突然の登場に、二の句も継げないオレの感想を忍があっさり述べた。目の前にはサンタ服を着こんだ魔界の公爵がいる。

 着込んだっていうか着こなしている。怖い。


「オレは大抵のものが似合うんだ」

「黒髪ってまぁそうですよね」


 日本人あるある。黒はどんな色にも意外と相反しない万能色であると思う。


「リスト……分厚い」

「何も聞かされてないんだけど。どうするんだ?」

「夜明けまでの時間制限があるから、リストを読み込んでナビをする奴とプレゼントを放り込む役で組め」

「鍵かかってるんじゃないですか」

「ピッキングしろ」

「できねーよ。しかも不法侵入だろそれ」


 現代サンタの前に立ちふさがる壁。

 それは、セキュリティと法律である。


「ZECOMしてますかな家は除外しよう」

「どっちにしても不法侵入だと、見つかった時まずくないか」

「国家事業とはいえ、警察呼ばれたら終わりですよね」


 ……。

 その警察の人がここにいるわけだが。


「私、司くんと組みたい」

「忍、今見つかった時に司さんいれば何とかなると思っただろ」

「白制服が警察だってみんな知ってるし。司くん、身分証明持ってる?」

「持ってる」

「よし」


 よし、じゃねーよ。消去法でオレはこいつとなのか。悪魔と一緒に不法侵入したら通報一択だろうが。


「もっと事前の計画を!」

「法律越えないやり方を考えようか」


 まだ時間……どころか、今は事前打ち合わせで日もあるためシンキングタイムがスタートしてしまう。


「他人の敷地に入った時点ですでに違法だ」

「悲鳴とか上げられたら?」

「わかった。抽選方式にすればいいんだ」


 なんという即解決。全員がぼんやりとでもそれを理解した。

 早押しクイズか。


「そうか。子どもにプレゼントを配ってほしい親に応募させればいいんだな」

「抽選結果は当選者のみお知らせします。できれば当日のお楽しみとか」

「それだと親が子供にプレゼント用意しないで外れた人、哀しくない?」

「親の責務を放棄して楽したい人のためになぜ当日の抜け口を封鎖しなければならないのか」


 そうだな、当日のお楽しみなら回る予定の場所に回れなくても誰からも責められないわけだな。自分のためによく考えてものを言おう。


「抽選方式は悪くないな。時間になったら鍵を開けるように親に役を持たせればいい」

「それだと共同作業っぽくていいですね」

「じゃあベランダとか庭に置いて親に子供の枕元に置いてもらうっていうのは?」

「「秋葉、天才だ」」


 思い付きが褒められた。でもそれだと



 サンタ服を着ている意味が本当になくなる件について。


「当日お楽しみ案は廃案にしても行ける。その方がいい」

「ていうかオレたちサンタ服着せられて、どうやって移動とかするわけ」

「サンタのトナカイとソリを借りる」

「なにそれ、空飛べってこと? 怖いんですけど」


 この手のアトラクションにはテンション上げそうな忍も今回ばかりはノーリアクションだ。そもそも自分がサンタ服を着ている時点でテンションは下がるらしく、それで空飛ぶソリはシュールすぎる。ファンタジーというよりメルヘンの世界である。


「トナカイは気になるけど……」

「それあとでもふらせてもらえばいいだろ。大体ソリからどうやって降りんだよ」

「浮遊(レビテーション)の魔法を施した靴とか用意してもいいけどな」

「中二の世界に近づくからやめて。オレ、ナビやるから」


 魔界関係になるとなんでもありになって来たな。中身が入れ替わるアンプルとか、幼児化するとか、記憶喪失になるとか身近で勃発している事件もなんでもありになってきている気がするが……気づかなかったことにしよう。

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