余談ーその後のダンタリオン
解散をする駅前にて。
「人がいない。司くん、高い高いを」
「お前まだそれ諦めてなかったの?」
「森ちゃんがお返しって言ってやってもらったのなら、私も同等の権利はあると思うんだ」
そういわれると司さんとしては痛い。
うっ、と何か突かれた反応を返している。
「忍はいつもやってるだろう」
「そうなの?」
とこれは森さん。
「何かあると宅配便ごっこはやっている」
「司さん、あれはごっこなんですか? 手荷物状態なのは知ってるけど」
それは、軽微な緊急避難時等。司さんは小荷物のように忍を脇に抱えることが多い。
というかごっこ扱いで逃げ切れるだろうか。
沈黙が帰ってきている。
「宅配便とプチ絶叫マシンは違うんだよ」
「いや、絶叫マシンは言い過ぎ」
「じゃあアトラクション」
「お前、俺のことなんだと思ってるんだ?」
しかし森さんの方は希望通りやってあげてしまっていることから、言い逃れができない司さん。埒が明かないと判断したのか、何の前触れもなく、忍を軽々と持ち上げた。
「おー風景が違う」
「うん、まぁな……今の目線、高さ2mくらい?」
「もういいか?」
「馬鹿は高いところが好きなんだ。もうちょっと」
自分で言うのか。お前は。
「ていうかお前。馬鹿じゃないよな。どっちかっていうと回転いい方だよな」
「そうかな、時々私馬鹿なの?って思うことある」
「それな、みんな時々はあるから。正常だ」
持ち上げられたまま普通に会話に入ってしまった。下ろすタイミングがつかめない司さん。
「司くん、もっと」
「いや、なんでもっとなんだ? 森はこの辺で満足したのにダメなのか?」
「今しゃべったことで感覚が冷静に戻ってしまった」
「……」
オレのせいか。オレのせいなのか。
持ち上げられたまま普通に会話している忍。
エシェルとアスタロトさんは黙って事の成り行きを見守っている。というか眺めている。もうそこら辺に境界線が見えそうだよ。
聞いた司さんは無言・ほぼ無表情に忍を振る。絶対森さん相手にはしない若干乱暴ともいえる扱い。
しかし
忍は子供のように喜んでいる
「司さん、余計喜ばせてますよ。これ、癖になられたら困るんじゃ?」
「……おもしろかった。またやって」
「ダメ。今日は特別だからやっただけだから」
「来年のホワイトデーまでお預けかぁ」
森さん、来年もやってもらうんですか。
司さんいま、断れないフラグが立ちましたよ。
「僕はあまり仕事モードの忍を見ていないけど、いつもと全然違う感じだな」
「あいつ、警戒心強いからな。それがなくなるとああいう感じになるんじゃ?」
「面白いね。本性があれだから守る人格も必要だってことなんだろうけど」
……さりげにものっすごく深いことを言われている。
が、どんなに深層が深かろうが、今目の前で繰り広げられているのは「年相応」の域すら超えた遊びでしかなく。
「桜、いつ咲くかな」
「もう梅も咲いてるもんね。あたたかければ下旬くらい?」
あちこちで芽吹き始めて久しい緑の気配を眺めながら、オレたちはまた明日の日常に向けて、解散となる。
そんな一方。
「お前ら……す ご く充実した一日が送れたみたいだな!」
「なんでお前そんなに不機嫌なの?」
自主開催のお礼パーティをしていた魔界の公爵は。
「チョコ送ってきたやつのなかにあいつがいた」
「あいつ?」
「尼ゾネス」
新しい単語が爆誕している。それはシスターバードックのことなんだろうが……
「え、シスターもチョコくれてたの? すごい歩み寄りじゃね?」
「違うんだよ。送られた中に明らかに毒物みたいなのがひとつあったんだ。危険な感じがしたからそのまま捨てたんだが、発言から察するにあいつだ」
……毒入りチョコ贈られるほど疎まれてるのかお前。
「基本的には贈り物だし、シスターはそこまでするとは思えないけど……」
「オレもその正当性は説いた。そうしたら『気持ちを贈る日だから、素直な気持ちを込めて送りましたわ』とかほざきやがった」
そうだねー感謝を贈るとは規定されてないねー
オレと忍は理解した。
「だから、怨嗟には怨嗟をもって返したら」
「乱闘という名の大変なショーが開催されたみたいだよ」
とこれはアスタロトさん。
なぜダンタリオンはシスターバードックに勝てないのだろう。
負けもしていないが、勝っているところを見たことがない。
シスターが強いのか、ダンタリオンが弱いのか。
……いや、魔界の公爵が弱いってことはないだろうから……
うん、考えるのやめよう。
「でもお礼のパーティとかよく来ましたね」
「アレだ。犯人は現場に戻る、という法則」
その後どうなったのか見物に来たんだな。あの人、敵認定すると容赦ないよな。
「今度から検閲入れてやる!」
とさんざんなホワイトデーを送ったらしいダンタリオンは置いておいて。
思い出はプライスレス。
いつも通りだといえばそうなのだけれど。
オレはけっこう楽しい時間を過ごさせてもらったからそれでいい。
でも、その毒入りチョコが忍や司さんの手に渡らなくてよかったな。
そんなことも思いつつ。
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