3.魔界公爵のお楽しみ
「っ痛ぁ!」
ついに転んだオレを見て笑っている。もとい嘲笑っている。腹立つ。というかオレなんだかんだ言いながら今まで一回も転んでなかったよ。白上兄妹(+忍)すげーよ、素人で遊びながら素人一回も転ばせてないよ。
こいつは躊躇なく転ばせてきたが。
「お前も転べ! 転びやがれ」
「っ! こら! しがみつくな! みっともないだろう!」
転んだついでにリンクの上から思いっきり巻き込んでやる腹積もりだ。すでに足元は安定しているので、あとは子泣きジジイのごとくしがみついてバランスを崩してやるだけでいい。
しかしさすがに一筋縄ではいかない。さすが悪魔だ。
「公爵だー」
「この状態で負ぶられても大丈夫そうかな」
一周してきた女子二人が加勢してくれた。いつにないテンションでダンタリオンの後ろから飛びついている。
……明らかに甘えではない。これは加勢だ。
証拠は「いつもなら絶対取らない行動」という一点のみである。
「危なっ! こら!二人とも離れろ! 三人でそれはないだろう!」
「俺も加勢すべきですか」
「お前が加勢したら一発で倒れるのは目に見えている。それやったらお前がアウトだ」
私服でも強化状態にはあるらしい。たぶん、有事の際用なのだろうけれど。
三人にしがみつかれた状態で、司さんが押したらもうふつうにこいつ倒れる。
「じゃあ公爵、もう少し遊んであげてください。二人とも楽しそうなので」
司さん、オレは?
楽しいという意味でカウント外なのは間違っていない。
「もー二人はまとめて負ぶってやるから降りなさい!」
「なんでいつもと違う口調なんだよ。はーいっていうこと聞きそうだからそれやめろよ」
「まとめて遊んでくれるって」
「秋葉の気も済んだみたいだし、降りよう」
素直にいうことを聞いた。
「いや、全然済んでないけど? とりあえず平常心には戻った」
「仕方ないな。女子二人はお兄さんが遊んでやるか」
「司、さっきバックで秋葉くん引っ張ってたよね。 私それうまくできないから教えて」
「私も」
気が済んだら済んだでスルーされているダンタリオン。お兄さんとかいう言葉を使ったせいで本物のお兄さんに「そういえば」みたいな感じで意識が向いた。
ついでにそんな単語使うから本物のお兄さんは、そっちに面倒見させるより自分が見る、みたいな感じになってダンタリオンをスルーしている。
「お前ら……」
「とりあえず女子二人のターゲッティングはもうなさそうだな。オレもなんかちょっと滑れそうだし、休んでから地道に楽しむわ」
壁際に帰っていくオレ。なんか体力的にものすごく消耗した気がするから一度休みたい。
「そうか。じゃあ場外ベンチからオレの華麗なスケーティングでも見てろ」
「いや、そもそもなんでお前ここにいんの? スケートとかして楽しいの?」
「知り合いの神魔が作ったリンクだから招待されたんだよ。スケート自体はまぁ魔界にはない遊び方だから楽しくないわけじゃない」
そうだな。お前普段立体的に移動してるもんな。敢えて二次元に滑るって悪魔からすると斬新なのかもしれないな。
よくよく見ると、人間型の神魔も客に混じっている。レンタル靴のサイズに限度があるから、違和感のないヒトだけ遊べる施設なんだろう。
そしてダンタリオンは華麗にスケートリンクの上で滑り始めた。
フィギュアスケーターもまっさおなパフォーマンスで。
「………………」
逆に恥ずかしいと思わんのか。
周囲の視線をめちゃくちゃ集めているが、派手好きな悪魔としては全然気にならないことだろう。というかむしろ見せるためのパフォーマンスだなあれ。
「公爵が奇怪な行動をとっている」
「日本人としてはな」
「動画撮っておこう」
周りがそれが魔界の大使であることに気付いてキャーキャー言い始めたが、毎日のように顔を突き合わせているオレたちにとっては滑稽な光景でしかなかったことは言うまでもない。
そして、女子二人によって、のちの再生回数1日云万回という動画がメディアに記録されることとなる。
「随分とご満悦だね」
「えぇ。本人だけは」
のちに魔界の大使館でそれを見たアスタロトさんの感想は、その一言だけであった。
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