初詣(後編)みんなでおみくじ引いてみた

「気付いたか? あの大通りの巨大な鳥居。実は裏参道なの」

「……あれだけきれいででかい通りが裏とか表どうなってんの」

「表は裏側だな」


日本語の微妙さったらない。表だと思っていた幅が40メートルくらいありそうな広くてきれいな階段は裏参道だという。


「どっちにしてもこっちが近いからいいんだけど」

「お前さっき散々失礼だなんだ言ってただろ。表から参れよ」

「秋葉、ほらお猿」


狛犬……ではなく確かに社殿の両脇には猿が陣取っている。改めてみると不思議な光景だ。


「何沈黙してるんだよ。お稲荷さんだって白狐だろうが」

「そういえばそうだ……!」

「眷属信仰だね。さすがに猿を分霊で連れ帰るという話は聞かないけど」


分霊。多分、各地のお稲荷さんは白い狐のイメージがあるから今の話からするとお稲荷さん=眷属の白狐、みたいな扱いなんだろう。



そうなるとお稲荷さんて何。

みたいな疑問に辿り着くわけだが、なんとなくオレの中の知識がずっと何か間違えていたのだろうことは察したので深追いはすまい。


「大黒様の眷属は白兎って聞いてるけど、狛兎ってみたことないね」

「かわいいだけだよね。門番って言うよりモフモフしたい感じがする」

「因幡の白兎か……助けてもらった話だろうけど眷属とは少し違うんじゃ?」


とりあえず、狛犬っぽい動物が色々いることはわかった。

参拝を済ませて……いつもは絶対引かないおみくじをみんなで引いてみた。


「……日本人てこういうの、昔から好きなんだね」

「?」


他にも神魔も人間もこぞって引いてるその自分の「神託」ともいうべき紙片を見ながらアスタロトさん。


「私、中吉。この真ん中感が割と好き」

「そういう問題じゃないだろ」

「アスタロトさん、大吉なの? すごいね」


どういう神託なのだろう。魔界の公爵が大吉を引いている。


「オレ吉。順番よくわからないんだけど、ふつうだよな?」

「……………」


黙りこくっているダンタリオン。覗いてやる。


「お前、末吉なの? 司さんは?」

「吉」


そして森さんも中吉。これは……


「一番下なのお前なのか」


思わず笑いながらオレ。こればかりは天啓であり、運であり、縁でありどうしようもない結果だ。


「下とか言うな! オレはそんなことは気にしていない」

「公爵が気にしているのは、自分は末で、アスタロトさんが大吉であることだけなのでは」

「……! 誰も負けたとか思ってないんだからな!」


そうか。負けたと思っているのか。


「凶じゃないだけいいと思ったらいいんじゃないのかい?」


とりあえずポジティブシンキングを勧めているアスタロトさん。余計ダンタリオンが悔しそうですが。


「そういえばさっき昔からこういうのが好きって言ってたのは?」


森さんが聞いた。

アスタロトさんがそういえば日本人は、って言ってたな。オレたちもアスタロトさんの方を見た。


「ん、日本のゲームアプリでよくガチャってあるだろう? 海外産のアプリはほとんどそういう概念がないから」

「そうなの!?」


衝撃の新事実だ。オレはゲームはあまりやらないが、CMでもそういうものが必ず推されているので特典ガチャ100連無料!なんてよく聞いている。……それが当たり前だと思っていた。


「海外産はアプリの中でCM動画を見せるやり方がほとんどかな」

「……それだけで稼げるんですか」

「そう言う意味ではギャンブル的要素を入れる日本人のやり方は心理をついてる。よね、ダンタリオン?」

「そーだな。もう一回もう一回って心理とか、いちいち広告見るの面倒とかそういう問題もクリアするからな」


もはや楽しくもなさそうな顔をしながらダンタリオン。新年早々無理やり頬を両方から引っ張ってやろうか。

……オレには無理でも女子二人なら頼めばやってくれるかもしれん。


「でもおみくじとガシャは違……わないですね。二度引いていいかどうかって問題だけで」


否定しかけて共通点の方がはるかに多いことに気付いてしまった。考えようによっては、おみくじはくじであり一回限定のガチャである。


「有難い神託だろ。育てても戦力になるわけじゃないからせいぜい心当たりのあるところ気をつけて一年過ごせ」


正論だけども。自分はもう終わってるような言い方やめろ。


「お前何かゲームやってんの?」

「やってなくてもそれくらい知ってんの」

「そうだね、一木くんの方がきっと詳しい」


そんなことを言っていると噂をすれば影。聞き覚えのある声が人波の向こうから聞こえてきた。


  「あー! 凶って何!? もう一回引く!」

  「おみくじってそんな何回も引いていいものなん?」


せっかくの謹賀新年、迎春招福。

聞かなかったことにして、オレたちはそれぞれのおみくじを見せあいながら、和気あいあいと長い階段を降り始めた。

冒頭には内容にちなんだ和歌があるのも日本人らしい風流さだと自国の文化を褒め合いつつ。


「せっかくだから例のフランス大使、浅草寺あたりに連れ出してやったらどうだ?」

「なにそれ、どういう風の吹き回し? 明日大雪でも来るの?」

「公爵、浅草寺は凶が出る確率が異様に高いの知ってて言ってるでしょ」


よほどダンタリオンは「末吉」が悔しかったらしい。

エシェルには自分より下の凶を引かせることを思って憂さ晴らしにでもなるのか。


呆れるオレとは対照的に、忍はそれからしばらく。

おみくじの仕込まれた縁起物の今年の干支の置物などをどこからともなく調達しては土産として魔界の大使館に持ち込むのだった。



……それが慰めなのか、面白がってのことなのかは、定かではない。

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