「どんなことをしようとな」

 星桜からの質問にすぐ返答が出来ない弥幸。お互い目を合わせ、見つめ続ける。


 無言の空気に翔月と凛も口を開けない。だが、それが数分と続くと我慢の限界が近づき、最初に我慢できなくなったのは凛だった。


「ね、ねぇ。星桜はもしかして、赤鬼と一緒に戦いたいの?」

「うん、戦いたい。私も、赤鬼君みたいに強くなって、少しでも役に立ちたいの」


 意を決めたような表情に、凛は何も言えず口を結ぶ。「危険だよ」「辛くなる」「命の保証はない」など。止めたいと気持ちが溢れ、頭の中に心配するような単語が浮かぶ。だが、何も言えない。


「どうするんだ、赤鬼」


 翔月からの問いかけに、弥幸は横目だけを動かし見る。そして、当たり前のように口を開き、この場を凍らした。


「安心しなよ、君を離す気はないから」

「「「ん?」」」


 ☆


 今回も弥幸に家に集まり、翔月、星桜、凛、弥幸、逢花が円になり話している。


 なんの事情も知らない逢花は、翔月から屋上の時の話を聞き相槌を打っていた。腕を組み、「うーん」と天井を仰ぐ。


「あーなるほど。利害が一致しているのなら、これからは私達と共に行動するのがいいと思うよ。星桜さんを一人にするのは危険だし、力に慣れるまでは弥幸お兄ちゃんに守ってもらったほうがいいと思う」


 お茶を飲みながら、逢花は現状一番安心な方法を提示する。

 凛と翔月は、星桜の体質について詳しくわからないため、話を聞くだけで何も言わない。

 弥幸は自分に関係ないというように丸テーブルに突っ伏し、腕で顔を隠していた。寝息が聞こえ、星桜が「赤鬼君?」と名前を呼ぶが、返答はない。


「弥幸お兄ちゃん、寝てるの?」

「寝てる」

「おはよう。どこまで説明していて、どこまで説明していいか教えてほしいなぁって」

「もう、なに話していいよ。今更隠しても、今後めんどくさいことが待っているだけだし」


 腕に顔を隠しながら言う。弥幸の態度に慣れている逢花は頷き、笑顔で星桜達の方へと顔を向けた。


「精神の核というものを星桜さんは持っているの。それは、私達妖傀を相手にする人達からすれば、喉から手が出るほど欲しいものなのよ」

「精神の核って、実際何ができるの?」

「精神の核自体は特に何かしてくれるわけじゃないよ。精神の核は、持っている人の精神力を莫大にするの。戦闘技術や多彩な技、作戦や知識とか。戦闘一つでも様々な技能が必要なのはわかっていると思う。でも、精神力が無ければ技術があっても技を繰り出せないし、知識があってもやりたい事が出来ない。こう考えると、なにより精神力が重要なのはわかるでしょ?」

「た、確かに…………」

「精神力さえあれば、戦闘は楽になるし、他の人とも差をつける事が出来るの」

「え、差をつけてどうするの?」

「さぁ、優越感にでも浸りたいんじゃない? 弥幸お兄ちゃんはそんなこと気にした事ないし、私も特に差を付けたいとか考えた事はないから、よくわかんない」


 肩をすくめ、やれやれと言うように説明を終らせる。まだ納得していない部分もあり、三人は頭を悩ませる。


「まぁ、差をつけるとか、他の人達の動きとか。まったく興味なさそうだもんね、赤鬼」

「それはそう。今も、私達なんて気にしないで寝ているもんね……」


 星桜の言う通り、弥幸は腕で顔を隠して寝続けていた。そんな弥幸の頭を、逢花は笑みを浮かべながら撫でる。


「まぁ、そこは気にしなくていいと思うよ。星桜さんが一番安全な方法を考え、実行すれば特に問題ないわけだし」

「その、安全な方法が赤鬼の隣にいて、共に行動するということなのか?」

「うん、私はそれが一番安全だと思うよ。男女なのが少し気がかりだと思うけど、そこはほら。弥幸お兄ちゃんだから、安心でしょ?」


 笑顔で星桜に問いかける逢花。はっきりと言い切られ、彼女は頷くしかない。苦笑を浮かべ、何か言いたげに手を組みもじもじとしている。

 翔月は星桜の不自然な動きに眉を顰め、彼女にしか聞こえないような声で問いかけた。


「どうした? やっぱり、不安があるのか?」

「……不安がないと言えばないよ。だって、赤鬼君は強いし、他人を見捨てるようなことは多分しないと思うし。でも、その。普段の言動が……ね。これからずっと一緒って、私は一日、何度あの毒舌を聞かないといけないんだろうって考えちゃって…………」

「あぁ……、それは確かにある意味不安だな。安全は確保されているけど、安心は確保されていない状況という事か」

「うん」


 二人がため息を吐くと、弥幸がやっと顔を上げ欠伸をこぼし、伸びをしながら起きた。涙を拭きながら星桜の方を向き、掠れた声で話し出した。


「ずっと一緒にいるわけないじゃん。それは僕にとっても罰ゲームだよ。夜の妖傀退治の時のみ、一緒にいてくれるだけでいい。私生活には踏み込んでほしくないし、踏み込まないから安心して。君に構っている時間があるのなら寝る時間に使いたいし」


 今の言葉に納得はするも、腑に落ちず頷くことができない星桜と翔月。凜も呆れ何も言えず頭を抱え、逢花はいつものことなため笑顔のまま「ねっ!!」と三人に同意を求めた。


「それじゃ、今後は妖傀退治の時だけ、よろしくね」

「なんか。色々引っかかるけど。まぁ、よろしくね、赤鬼くん!!」


 弥幸が遠回しに、退治以外はよろしくしないよと言う。彼の言葉に苦笑を浮かべるが、星桜は気を取り直し手を差し出した。

 弥幸は差し出された手に一瞬戸惑い、顔を手を交互に見る。数回瞬きすると、戸惑いがちに手を差し出した。

 ゆっくりな動きだったため、じれったいというように、近づかれた手を星桜は強引に繋ぎ「はい、握手!」と笑顔を向けた。


「君って、ほんとうに馬鹿だね」

「何でよ!!」


 怒った拍子に緩んだ手を払い、無理やり離させる。払われた手を悲しげに見降ろした星桜は、口をへの字にした。


「…………星桜」

「っ、へ? は、はい」


 いきなり初めて名前を呼ばれ、咄嗟に返事をする。他の二人もさすがに驚き、三人を見下ろしている弥幸を見上げた。


 困惑している三人の反応を気にせず、襖に手を添え、弥幸は真剣な表情で星桜の伝えた。


「君のことは、出来る限り守るよ。僕が、命を懸けて。どんなことをしようとな――……」


 決意の込められた、迷いのない言葉。星桜からの返答を待たずに、弥幸は部屋を出て行ってしまった。

 残された四人は、顔を見合わせキョトンとする。そして、もう一度襖を見ると、星桜は顔を赤面させ、勢いよくその場にうずくまった。


「~~~~~~~~~もう!! こういう時だけかっこいいの、本当によくない!!」

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