第15話 手を引かれて

 アイリーンは廊下からふと、マデラインとの待ち合わせ場所の噴水を見てみた。マデラインはすでに到着していて、一人で噴水に座っていた。また靴紐を直しているようで、かがんだ姿勢になっている。ほどけにくい結び方を教えてあげようかしら…、などと考えていると、突然。


 グイッと腕を引かれて、右側にあった空き部屋に引き込まれ、閉じ込められてしまった。


 何事かと、腕を引いた張本人のほうを振り返る。


 「クローヴィス様!?」

 「乱暴してすまない。アイリーン嬢、話があるんだ。」


 「もしかして、ずっと見ていたのですか…?」

 「そうだよ。僕の聞きたいことが分かるね?」

 「はい…。」


 マデラインの部屋へ侵入するところを、クローヴィスに見られてしまった。理由を説明すれば許してくれるかもしれない、でもどう説明しろというのか。夢で見たことだけを根拠に国の危機を訴えたところで、頭がおかしいか嘘をついていると思われて当然である。アイリーンは青ざめた。


 すると、クローヴィスはアイリーンの両手を優しく握った。


 「リーナ、僕は君を信じている。悪さをしようとしてしたことではないんだね?」

 「クローヴィス様…。」

 「ここ最近、君の様子がおかしいと思って、今日は後をつけていたんだ。マデライン嬢の部屋へ侵入した理由を話してくれないか?」

 「…話しても、信じてもらえないでしょうから…。」

 「リーナ、僕を信じてくれ。親友だろう?僕が君を疑ったことが一度でもあるかい?何を話されても、僕は君を信じるから。」


 あふれそうな涙を必死で抑えるアイリーンの頭をクローヴィスがそっと撫でる。信じても良いのだろうか。話しても良いのだろうか。


 本当はすべてを話して、クローヴィスの知恵を借りたい。しかし、忙しいクローヴィスの負担にならないだろうか。ぐるぐると考えが巡る。


 「本当に…信じてくれますか?クローヴィス様。」

 「もちろんだよ。何でも話してごらん。」


 クローヴィスの優しい声に背中を押されて、アイリーンは夢で見たこと、その後思い至った予感についてすべて話した。マデラインがイーゴン王国の手先であること、ヨハンスがすでにマデラインに攻略されてしまっていること、このままではアイリーンは国外追放され、エルバート王国はイーゴン王国の都合の良い国へと変わり、やがて滅ぼされてしまうこと…など、「ゲーム」という言葉は出さずに伝えてみた。予知夢のようなものということにしたのである。


 「これですべてです。信じられますか?こんなこと。私も最初に夢を見たときには、ただの悪夢だと思いました。」

 「うん。確かに信じがたいが、イーゴン王国の性質を考えれば、可能性としてあり得る。マデライン嬢も他の令嬢令息と交流を持たないところがどうも怪しいとは思っていたんだ。」

 「クローヴィス様、それじゃあ…」

 「信じるよ、リーナ。むしろ、国の危機を教えてくれてありがとう。そして、国のために動いてくれてありがとう。やはり君は、…そう、次期王妃にふさわしい。」


 信じてくれた。それだけでアイリーンの胸の中で安堵感が、晴れた青空のように広がった。


 「リーナ。ここからは僕も協力するよ。マデラインがスパイである証拠が必要なんだろう?一緒に探そう。」

 「クローヴィス様、でもお忙しいんじゃ…。」

 「ルイスでいいよ、昔みたいに。それから、僕に対して遠慮する必要もない。これは国の一大事だし、君の名誉にも関わることだ。放ってはおけないよ。」

 「…分かったわ、ルイス。ありがとう。本当に助かる。」


 こうして、クローヴィスという強力な仲間が加わった。

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