第10話 アイテムゲット

 学園の廊下で、マデラインが前から歩いてくる。こちらに気づいていないのか、反対方面を向きながら彼女は通り過ぎる。ふとすれ違うとき、マデラインの耳に見慣れないイヤリングが光った—。


 目が覚めたアイリーンは、あることを思い出した。マデラインが敵国の兵士であるという証拠の正体—それは、イヤリングである。夢の中では形状までははっきりとわからなかったが、赤い小さなイヤリングにイーゴンの国章が彫ってあるものだ。


 策略を使うことの多いイーゴン王国では、国章の入ったアクセサリーを所持することで仲間であることを証明し、また王国への忠誠を示してもいる。しかし、潜入先で見つかれば敵である証拠となってしまう。そのため、マデラインはイヤリングをどこかに隠しているのだった。


 「まずはイヤリング探しね…。確か近くに所持していないと裏切りとみなされるそうだから、学園か寮のどこかに隠してあるはずだわ。」


 なお、ゲームではヒロイン・マデラインがイヤリングを隠すというイベントを通過しなければ、ヨハンスとの出会いイベントを起こすことができないようになっている。隠す場所はプレイヤーの判断で決まるため、人それぞれということになるが、学園の敷地内にしか隠せない仕様になっている。


 「つくづく、この世界がゲームの中だなんて信じられないけど…。とにかくやるしかないわ。」


 場所は特定できないが、とりあえず学園内を調べてみる価値はありそうだ。お茶会の件で落ち込んでいたアイリーンだったが、思わぬヒントに気を取り直した。


 「必ずイヤリングを見つけ出して、断罪イベントで突き出してやるわ!」


 こうして、アイリーンのイヤリング探しが始まった。


 …と言いたいところだったが、具体的に何をして良いのか分からないうちに、一週間が経ってしまった。


 「とりあえず学園中を虫眼鏡でこっそり探してみたけど、怪しいものは見つからなかったわ。」


 共同浴場の浴槽に浸かりながら、アイリーンは思い悩んだ。歩き回った足に、熱い湯が沁みる。そんなことを考えながら、シャワーで体を流すマデラインを誰にもバレないように見つめてみた。


 「イーゴンの戦士…そうわかってから見てみると、確かに引き締まった体ね。私も負けないようにしなくちゃ。」


 なんて考えている間に、マデラインは浴槽にも浸からず出て行ってしまった。急いでいるのだろうか。


 アイリーンは友人をごまかして先に浴場を出た。タオルで体を隠しながら扉を開けたが、脱衣所にマデラインの姿はなかった。


 「やっぱり急いでるんだ。仲間と連絡でも取るのかしら?」


 訝しみながらも寝巻きを着ていると、向かいのカゴにふと光るものを発見した。


 「まさか…イヤリング!?」


 アイリーンはすぐに確認したが、赤いそれはイヤリングではなかった。ネックレスである。赤い石に金色の金属線が横に二本引かれ、下の線は中央が水玉状に細工されている。


 誰かの忘れ物だろう。誰のだったかしら、とアイリーンは思い巡らせたが、それがマデラインのものであることに気づいた。


 「そういえば、毎日身につけているわ。イヤリングではないけど、これはチャンス!」

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