五・一五事件

「失礼いたします!突然の無礼をどうかお許しください!」

「どうした?」

 いつも以上に慌てた秘書くんが僕の執務室に入ってくる。

 あと、君はいつも突然大変です!って言いながら入ってくるし、今更だよ。というか毎回。言えよ。

「海軍軍人が決起いたしました!」

「は?」

「すでに犬養首相は銃弾を受け、重症。その他多数の施設にも攻撃しております!」

「何!?」

 僕は手を強く握り、立ち上がる。

 こうしてはいられない!

「おい!近衛師団を用意しろ!」

「は?な、何をするつもりで?」

「何をする!?馬鹿なことを言うな!今すぐに鎮圧するに決まっておろう!近衛師団を私自ら率いて反乱軍どもを鎮圧してやろう!」

「な!お持ちください!」

「なぜだ!奴ら反乱軍は国民が選び、そして私が認めたこの国のトップと殺したのだ!これを許してなるものか!今、一番はやく動けるのはこの私と私を守る近衛師団だ!」

「で、ですが!」

「何だ!君も私に反抗するのか!貴様!反乱軍のものか!」

「い、いえ!」

「では、早く近衛師団に準備させろ!一分以内だ!急げ!」

「はっ!」

 秘書くんが執務室から出ていく。

 ……僕のせいだ。

 僕が動きすぎたせいで、皇道派の中で意見が固まってしまったのだ!

 政府より天皇が国を治めるべきだと。

 くそ!実際に五・一五事件が起きた日は超えたから起きることはないと楽観的に考えてしまった……!

 だが、だが!皇道派の行動を容認することなどできやしない!それは絶対に認められない。

 僕一人では軍部を抑えられないし、この日本を絶対王政のような中世のような政治体系にするわけにはいかないのだ。


 ■■■■■


 天皇陛下たる僕が直々に近衛師団を率いて反乱軍を鎮圧、逮捕した。

 その後、犬養首相の死亡が報告され、深夜に御前会議が開かれた。

 そこで首相の後任として鈴木喜三郎が臨時で就任することになり、海軍軍人のクーデターは失敗に終わったのだった。

 そしてそのまま裁判のもと、五・一五事件を起こした海軍軍人の死刑が確定した。

 これらはすべて天皇である僕が手動で行ったため、僕の世界とは違い海軍軍人を英雄視する臣民はおらず、死刑を回避する請願が来ることはなく、彼らは処刑された。

 天皇が彼らを国賊と断じ、処刑したことは臣民のみならず多くの軍人にも衝撃を与えた。

 これに連動し、軍部において過激派の取り締まりも開始。

 本格的に天皇のもとで皇道派や統制派が処罰され、軍部の暴走は抑え込まれ、大日本帝国は健全な民主主義を守ることに成功したのだった。

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