第20話 親睦


「このグループに入ってもいいですか…入らせていただきますね!アハハ」


声を聞いただけで分かる。今田吉樹だ。

今日のこのゲームの司会者であり、昨日オレに強烈なインパクトの印象を植え付けた張本人。このグループのメンバーに了承されていないのにもかかわらず、勝手にテリトリー内にずかずかと入りこむ。

何はともあれ、彼と同行している神宮寺先輩も大概たいがいだ。


「吉樹君!どうやら男子はこれでピッタリみたいだね!お互い前のグループと被っている人はいないかい?」


「いないです!先輩もいないようですね!いやぁこのグループに入れてラッキーでした!あははははっ!」


「はっはっは!記念に写真でも撮ってしまおうか。吉樹君…授業中は携帯の使用禁止…ふふっ今は授業中ではないし、校則違反ではない!」


「言われてみればそうですね……いいでしょう!写真撮りましょうか!先輩とのツーショット写真イェーイ!!」


……何してるんだこいつらは


「いやぁ~!神宮寺先輩を途中でお見かけして、誘わずにはいられないと思いましてね!なんとかラストゲームをクリアできてよかったですよぉ! それに陸人君も同じグループにいますし……テンション爆上がりです! あははははは!」


今田と神宮寺先輩コンビか。奇妙な組み合わせだが何故だろう。違和感が一切感じられない。例えるならそう……うん。何も思いつかん。ただの変人と変人だ。




今田たち変人コンビが加入し、間もなくしてこのグループ残り一名の女子の定員が埋まる。オレは偶然その女子生徒と目が合ってしまい、その子は一旦女性陣のところから離れ、こちらに向かってくる。


「先ほどは本当にすみませんでした…私一年四組の若野菜々花わかのななかといいます」


このグループに加入する前にお互いに衝突してしまった相手だ。

学年とクラスは会った時に分かってはいたが、名前の方は後から思い出した。


「さっき十分謝ってくれたろ。気にするな。オレは二組の佐渡陸人。お互い一年だ。ため口でいいぞ」


「…えっ、一年生だったんですか!?じゃなかった…。体格良いから、てっきり上級生かと思ってたよ」


よろしくね、と言って菜々花は再び女子たちのほうへ去っていく。



……まさか「あれ」だったとはな。



「あれ」とはまさしく「あれ」のことだ。


菜々花とぶつかったときはグループに早く加入したい気持ちが急いて特に気にしてはいなかったがひじ下にぶつかった柔らかいものは、やはり菜々花の大きな胸だったのだと分かった。「あれ」の大きさに魅了…いやいや何を考えているんだ、オレは。


…良からぬことを考えている場合ではない。集中力が乱れる


変に異性を意識してしまい、少し気持ちが入り乱れたのだろうか。

うっすら自分の顔が赤くなっていくのを感じる。


「なになに…陸人君。どうしたん?そんな顔赤くしてぇ〜もしかしてあの子のこと気になるの?目線があの子に集中しているよ」


目線はこのグループ全体に向けられているはずなのだが、今田の言い分は二分の一正解ということにしておこう。


「いやぁ…まぁ」


慣れない異性についての考えごとをしているせいで、自分の思考能力がにぶっていることに気が付く。


「あれれ!?ほんとだったんだ~意外!そうだよねぇ~機械みたいな陸人君も一応男だもんね。それにあの子、菜々花ちゃんっていうんでしょ。美玖先輩よりではないけど一年生であれだけの巨乳って……やばすぎでしょっ!顔は目鼻立ち整ってて色白だし、かなりかわいいじゃん!優しそうな二重の目に、茶髪でさらさらのセミロング!あの子は絶対保健委員だ!」


最後のは全く理解できなかったが…今朝、怜央も保健委員に強く興味を示していたな。保健委員とはそんなに男が好きになるものなのだろうか。


「さて、これを使う日が来るとはね!……その名も今田レーダー(エロ)!」


「…両手で髪を摘んで逆立ているだけじゃないですか」


「…ふふっ黙って見てなされ。僕が女の子のバストを正確に測りきれなかったことは一度もない」


本当かどうかは分からないが、どうでもいいことだな


今田は両手でつまんだ髪を菜々花に向けて突き出し、ビビビッと擬音ぎおんを口に出しながらすぐさまデータ解析が完了。


「ビビッ…見えたっ!うひょー!菜々花ちゃんのバストはGだ!アハハすごいすごい!」


「先輩鼻血出てますよ…それに女子たちからすごいにらまれてます」


オレはポケットからティッシュを取り出して、失礼ながらも今田の鼻に無理やり突っ込み、女子たちに軽く頭を下げ、いったん距離を取った。まったく…変人な上に変態なのは呆れるが、その気持ちはわからなくもないと思ってしまっている自分も阿呆あほうだ。


そして同じ変態レーダーを持つものが共鳴きょうめいしたのか、オレの背後から突如とつじょ、神宮寺先輩が現れる。


気配が一切感じられなかったんだが……


「うんうん!もしあの子が彼女になれば彼氏は鼻が高いだろうね……陸人君これはチャンスだ!さっき菜々花ちゃんとぶつかったんでしょ?なら相手も君のこと意識しているはずさ!」


「いや…恋愛とか全然…」


「つべこべ言わずアタックしに行きなさぁーい!恋はいつも突然やってくるものなのだ!さぁ少女漫画のような恋愛をおたのしみあれ! アハアハアハハハ!」


今田と神宮寺先輩に背中を押され、前に体を突き刺すようにして吹っ飛ばされる。

遊びにしては少し力を入れすぎだろ、と思いながらも難なく着地は成功するが、それを見た女子たちからは苦笑いされる。


「この年でそんな幼稚ようちなことして遊んでいるの?」みたいな顔でこちらを見てくるではないか。後ろを振り返って見てみれば、オレが女子に苦笑いされているところを見て、笑いこける二人の姿が目に入る。こいつらの笑いの種にされたわけだと、すぐさま気づいたオレは少し腹が立ち、無理やり彼らを拘束こうそくして女子たちの前で転ばせる。


「うわぁ…痛いなぁ~!ねぇそこの美人たち!手当てをしてくれないかい?あと曲がってしまった僕のネクタイを直してほしい!」


「僕もー転んだ直後に体を強打してしまったー!おっと君たちは、きっと保健委員の女子たちだよね?

当然怪我人である僕たちの手当てしてくれるよね?あと僕、生徒会の仕事で肩っちゃったから肩揉みしてほしいなぁー?あはは!!」


わざとらしく二人は寝っ転びながら、女子たちの前で醜態しゅうたいさらす。

彼らには、恥というものがないんだろうか。オレが軽く足を引っかけただけで、わざと派手に転んでいくし、むしろ喜んでいるようにも感じた。小梅先輩ほどではないにしろ、彼らにもドMという似た共通点があるのかもしれない。


寝っ転がっている二人をさし置いて、オレはほかの二人の男子生徒のもとへ行くことに。女子の方は彼らのことを気にも留めず、少し離れた位置に移動して楽しく会話しているようだ。


「やぁ、にぎやかな二人に囲まれて大変だったね。陸人君であってるかい?僕は三年の星俊介ほししゅんすけだ。よろしく!」


「よろしくお願いします。星先輩」


「ところで君、ギターに興味はあるかい?」


ギターか…銀二の部屋に置いてあって一度は手にしたことはあるが、特段興味はない。だが最近、読書以外の娯楽ごらくを見つけたいと考えつつあるのだが


「ないですけど……」


「あぁいや!僕こう見えてもギター部の部長でね。部員が少なくてさ…この場を借りて勧誘しているんだ」


「…そうだったんですね」


「あっそこそこ!このグループの女子に二年の新田保奈美にったほなみっていう副部長さんもいるんだ。よかったら見学だけでも来てほしいな」


新田先輩も星先輩と同様、華恋や菜々花と確か…菜々花と同じクラスの加藤美優かとうみゆだったな。彼女たちにも勧誘活動をしている最中だった。

その横でまだ寝転がったままのみじめな今田と神宮寺先輩は、徐々に女子陣営側に接近しては彼女たちの注意を引きながら談笑しあっている様子。


「気が向いたら行きたいと思います」


そう言って、星先輩と先ほどまで話していた男子生徒にも話しかける。


島村孝至しまむらたかと…で合ってるよな。よろしく」


孝至は下をうつむきながら、オレに目を合わせようともせず、軽くうなづく。


「……合ってるよ。先輩たちとかクラスの人と仲良くやってて随分ずいぶんと楽しそうじゃないか」


声には一切覇気はきが感じられず、嫌味でも言われたかのように聞き取れた。

孝至はオレと同じクラスで、一人孤立していて、友達を作っているそぶりがない印象というか、様子や言動からしてあまり人とかかわることが好きではない生徒だと見受けられる。


「端からはそう見えるか…実際楽しいと感じてはいるが、何考えているのかわからないやつばかりで苦労している」


「……ッチ」


軽く舌打ちをされた。

孝至にとって何か悪いことでも言ってしまったのだろうか。考えてはみても、どれも憶測おくそくばかりで確証かくしょうたることは思いつかない。


それはそうだ。この場で初めて話した仲だし、孝至にまつわる情報は不足している。しかしオレに対して敵対心だけは抱いていると思ってよさそうだ。


「……俺だって友人が」


孝至の発言の途中でゲーム終了の合図が鳴り響く。

オレは彼と別れ、まだ伏したままでいる今田と神宮寺先輩を起き上がらせる。


「えええ!もう終わり!?あ~まだ女子とまともに話してないのにぃ~!」


同じようにして神宮寺先輩も悔しいそぶりを見せながらもようやく立ち上がる。

今田は起き上がろうとしなかったため、仕方なく美玖先輩に助けを仰ぐと、前に三回転して見事なアクロバット起床を見せつけた。


「…申し訳ないですけど吉樹くんのことはまかせますね。陸人くん」


このまま自由解散のため美玖先輩は華恋たち同じグループの人たちと一緒に帰っていく。ステージ上を見ると生徒会メンバーや教職員たちも後片付けをして、引き上げているところだった。


「今田先輩は仕事やらなくていいんですか?」


「ラストゲーム前までに美久先輩と一緒に仕事を全部終わらせたからね!」


「そうですか」


影山たちのことを目で探しては見たものの、この人数だ。

そうそう見つけられる気がしないため、途中まで今田と神宮寺先輩と一緒に帰る羽目になり、自分のクラスへと戻ってきた。






______






昼飯の時間になったため、影山たちと一緒に食堂へと向かう。


「いやぁ腹減ったなぁ。何食おうかな」


「食堂めちゃくちゃ混んでるから購買行こうぜ」


「でも、席は空いて……」


「怜央!どっちが先に彼女作れるか俺らと勝負しようぜ!」


武士、怜央、オレの順で話していると柏木が話に入り込んできた。

柏木に続けて永野、生天目の姿も見受けられた。

勝負を仕掛けられた怜央は露骨に嫌な顔をして


「…うわ、やっぱお前らイケメンは好かん!」




購買もなかなかに混んでいた。

結局購買で昼食を買うことになり、楽しみにしていた食堂でのランチはなくなってしまった。

待ち時間にオレらは周りに迷惑をかけない程度(実際かなり迷惑かけていた)にふざけあったり、交流ゲームの感想を言い合ったりしていた。


「おい、陸人。二回目のゲームで話したことは忘れてくれ。お前にも何か事情があるのかもしれないし、何より俺の第二のライバルと認めてやる。覚悟しておけ」


右の人差し指をオレの眉間前に向けて、ライバル宣言。まさか違う方向で目をつけられることになるとは思いもしなかった。そんなことよりも永野がオレのことについて言及してこないことに一先ず安心した。


各々昼飯を買い終えると怜央が


「なぁ!みんなで屋上に上がって飯食おうぜ!」


「おっいいね!俺アニメとかドラマで屋上で飯食ってるシーン見て、憧れてたんだよなぁ」


いまいち生天目たちの憧れについて理解できないまま屋上に到着。


「なぁ室内でもいいんじゃないか。結構風強いぞ?」


「分かってねぇな!陸人。ダチと一緒に屋上で飯を食べることに価値があるんだ」


怜央の言い分も半ば理解できない。屋上で昼飯を食べることがそんなに特別なものなのだろうか。


「あぁ〜!風が気持ちいいなぁ!」


「ははっ、田舎でもなく都会でもない景色だな!」


影山と永野が前に出て、そう言いあう。

オレたちが一番乗りだったらしく、周りには誰もいなかった。あたり気にせず、みんなは大声で叫んだり、たわいもない話を繰り広げる。


数分後賑やかに話していた彼らは、同じ何かを感じ取ったように黙り込む。


目をつむれば、そのまままぶたが重くなって眠ってしまいそうなほど、落ち着く空気と新たな学校生活が始まる期待と喜び、ここにいる彼ら一人一人違った境遇を持ち、違った感性を持つ。考えていることは皆千差万別せんさばんべつではあるが、この時間はきっと共有認識している。


…静寂に包まれる


少し肌寒い風と日の温かさが、心地よい。

ここに来るまであれだけバカ騒ぎしていたのに、急に静まり返るとは何ともまぁ面白おかしい奴らだ。


「なんだよぉ陸人っ!急に微笑ほほえんで気持ち悪いぞぉ~!」


「いや、微笑んでないぞ。噓言うな」


怜央は照れ笑いしながら、オレを捕まえて抱き着こうとしてくるが、たやすくよけきる。だが怜央に続いて、みんなしてオレを捕まえようと追いかけてくる。自分以外のみんなが鬼として急遽きゅうきょ鬼ごっこが始まった。


全く、活発なやつらばかりだな。


「おい、昼飯早く食べるぞ」


追いかけられながらも昼休みの時間を気にして、そう言ったものの、誰の耳にも届かない。


いさぎよく捕まれよ!陸人ー!」


「俺が絶対捕まえてやるよ。なんてたってライバルなんだからな!」


怜央を筆頭にして永野たちが捕まえようとする。


結局、昼飯は昼休み休憩終わりの時間ギリギリに急いで食べなければならない羽目になってしまった。




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