第7話 馬車

 ヴィルヘルムによって断罪され極刑を言い渡されたキャサリンは自身の過酷な運命を受け入れなければならないことに絶望していた。さっきまでいた場所に味方はいなかった。未来の義理の両親になるはずだった国王陛下も、なにかにつけて気配りしてくれた宰相ハインリッヒもあそこにいなかった。せめてどちらかがいてくれたら、あのような暴走がなかったはずだった。


 婚約破棄したうえで国家反逆罪! ヴィルヘルムの勝手極まりない振る舞いは怒りを通り越して悲しくもなった。そんなに害だというのなら追放してくれたほうがずっとましだった。せめて母国のトリニティ王国に。そうしたら両親が眠る教会を参拝し、あとは修道院で静かに暮らすという選択肢だってあったはずだ。それなのに・・・早々とあの世に行けというの!


 拘束されたキャサリンが連行されたのは自室や監獄ではなくなんと囚人護送用の馬車だった。どうやら彼女を早く始末したいホルスト一味によるもののようだ。しかし、その時誤算があったようだ。正規の法手続きによらない処刑であるため、深夜に馬車を動かす人員がいなかった。極刑の場合、厳格な規則があり安息日などは執行不可、死刑執行は正午ごろなどである。その日のように国家的慶事である建国記念祭の前後は正規の官吏なら絶対やらないはずだった。


 「ちょっとまずいぞ! とりあえず誰か近くに住んでいる御者と役人を連れてこい! 殺すといって脅しても構わんぞ。それと、刑場にいって施設の施錠を壊してこい!」


 ホルスト一派は王太子婚約者を極刑の名の下に殺害しようとしている大胆な事をしようとしている割にはお粗末な対応であった。計画には穴が数多く開いていたといえる。





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 馬車に閉じ込められたキャサリンが見たのは暗闇だけだった。でも、心の中はずっと闇に覆われていた。この国に来てお妃教育以外で気分が晴れる事はなかった。だからお妃教育に熱心に取り組んでいたが、さらにフラマン王国の人々の心と乖離する一因になった。要は悪循環だった。


 そんな中でも心を支えてくれたのが国王陛下夫妻だったが、半年前から体調を崩し二人とも寝所から出れなくなるほど重症になった。しかも最初から心を通わせることがなかったヴィルヘルムは「真実の愛」とやらを追い求めて女たちと逢瀬を重ねていると聞かされ心が砕かれていた。


 そのときキャサリンは心の中に誰が自分を愛してくれる存在がいるのを思い出した。それは数年前に他界した両親の葬儀の時だ。

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