第16話 予選 最恐VS最強 新超全力シリーズ発動


 蓮見の用意が終わるとほぼ同時に閃光弾が作り上げた白色の世界が元の色を取り戻す。


 蓮見の後方には紫色の魔法陣から出現した合計四十本の毒矢が静止浮遊している。

 合図さえあれば全て一斉射出が可能。

 そんな毒矢のヴェイン部分にはある物アイテムが数種類取りつけられている。

 それは蓮見が密かに練習し手の感覚だけで取りつけが可能な物。

 とは言え少しエリカに頼んで特注兼サイズと形状が一般の物とは違うのだが性能は一般の物より少し良いぐらいである。それらの表面には「輝」「音」「爆」の文字のどれか一つがそれぞれに書かれている。


「なぜだ‥‥‥‥矢を攻撃に混ぜてたら勝てたのにしなかった?」


「悪いが俺様は頭がいいんだ。里見相手にそれをして何度返り討ちにあったことやら‥‥‥‥。つまりルフランさんもあるんですよね? 俺がさっき毒矢で攻撃した時に反応するカウンタースキルが」


「なるほど。見抜いていたのか」


 蓮見が鼻で笑い、ドヤ顔で言う。


「流石の俺でも三ヶ月以上毎日同じ目にあえばね……そりゃーわかるようになるんですよ!」


「…………」


 学習能力に欠けるとドヤ顔で言い切られても逆に反応に困る。

 事実ルフランが言葉を失った。

 そんなルフランのHPゲージは半分を少し下回っている。

 これなら今の蓮見でも充分に逆転が狙える。

 だが、それはしない。

 あくまで狙うはKillヒット。

 最初からHPゲージを削る事に集中してもし削り切れなかったりでもしたらそれこそ目も当てられなくなるからだ。


「一応聞いておこうか。お前は里美が相手になった時、勝つ手段を持っているのか?」


「当然。本当はその時まで取っておく予定だったんですが今回特別にそれをお見せしましょう♪」


「ほお、それは楽しみだ」


 ルフランの覚醒が効果を失うまで十秒前後。

 だがそれを待ってくれるほどルフランは優しくない。

 蓮見の神災モードを象徴する水色のオーラに時間制限はないが水色のオーラと白色のオーラが衝突した時、勝敗の女神がどちらに微笑むのか試す価値はある。

 どの道ここで通用しないようならこの先超全力シリーズ『名も亡き世界』は美紀たちに通用しないだろうから。

 MPポーションを飲み準備万全の蓮見と同じくMPポーションを飲み準備万全のルフランが同時に動いた。


「やっぱり隠し持ってるのか!?」


「今回もなにかあるんだな!?」


「もう止めろぉぉぉぉぉぉーーーー!」


「ルフランまで失ったら俺達の希望がぁあああああああ」


 愉快な観客席の声をバックに蓮見が毒矢を引き連れて急降下を始める。

 お互いの距離が時間の経過と共に縮まる。


「へへっ。正面から来るってことはそれだけ腕に自信がある証拠。だが俺の狙いは。弱者ゆえの勝利の執念が生んだこの一撃は発動すれば必中間違いなしの究極の一撃。もう俺様にはいぼく敗北の四も……二文字はないぜ!」


 危うくおバカちゃん丸出しになるところだった蓮見はギリギリのところで耐えて言い直すことに成功。

 と、同時に毒矢が蓮見を追い抜き一斉にルフランへと襲い掛かる。


「いくぜ! これが俺の超全力シリーズ『』だぁ!」


「甘い、スキル『エクスカリバー』!」


 蓮見の一撃に対してルフランが聖剣に力(MP)を与え渾身の一撃を放った。

 剣の中で光(粒子化したMP)を圧縮した攻撃は毒矢もろとも蓮見を光の熱で焼き払うと思われた。

 だが負けず嫌いはただ負ける事を良しとしなかった。


「スキル『火炎』!」


 全身砲弾となって突撃する蓮見は口から吐き出した炎を身に纏い自身を炎を纏った全身砲弾としてぶつける。


「いててててててててッ―――あぁぁぁぁ」


 我慢しても痛い物は痛いが何とか耐える。

 ここまで来れば後はど根性で頑張るしかない。

 その間に毒矢はルフランを狙い撃ちしたかのように思われたが、エクスカリバーの余波を躱し散開。

 そして――蓮見の指パッチンを合図に表面に書かれた「輝」「音」「爆」のアイテムが発動。エリカ特性アイテムのため遠隔操作が可能となっている。所有者が予め設定した合図を受けると自動的にアイテムが発動する仕組みとなっている。


 まず「輝」――閃光弾。

 それにより一つでも会場全体を照らす眩しい光がまとめて十個光を放つ。


 次に「音」――音爆弾。

 目の前が何も見えない光の世界を唯一ものともせず突き進む存在――音。

 それは一つでも会場全体に音が聞こえる物がまとめて十個爆音を放つ。


 最後に「爆」――手榴弾。

 目の前が何も見えない光の世界と鼓膜が破れたと錯覚するぐらいに大きな音の世界の中で強く存在感を示す存在――業火、爆風、オレンジ色の光と爆発音。

 光と音は二つの世界をさらにアシスト。

 そこに毒矢が散開していたために不規則な位置から発生した爆風に乗って襲い掛かる業火はルフランだけでなく世界の主たる蓮見まで焼き尽くす勢いで燃え広がった。


 この三つが発動することでルフランを完全無力化する事を狙った蓮見。

 その狙いは見事的中。

 目と耳が同時に機能低下することで人間の機能は一時的に大きく減少する。

 そこに爆発によるダメージを受ければ脳はソレを危険だと判断し条件反射で身構える。だけどソレは【異次元の神災者】の異名を持つ蓮見の前ではやってはいけないこと。なぜなら――。


 動かない的ほど狙いやすい的はないから。


 この言葉が意味するように毒矢に取りつけられたアイテムが効力を発揮しただけで毒矢の制御は蓮見が握っている。なによりこの毒矢は蓮見の命令がなければ自動追尾機能も有していることからある意味蓮見以上に優秀な矢とも言える。

 そんな優秀な矢は超全力シリーズ『名も亡き世界』を誤算で巻き沿いを喰らって苦しんでいる蓮見に変わり蓮見がやろうとしていたことを遂行するため自立的に動いていた。


「ウォォォォォッ」


 何とか耐えようと頑張るも四方八方から襲いかかる光と音が入り混じった世界ではルフランの直感は上手く機能しない。


 ――グサッ!


 一本。


 ――グサッ!


 また一本。


 ――グサッ!


 さらに一本。


 と、次々と刺さっていく矢は全部で四十本。

 ルフランはなすすべなくHPゲージを全損し敗北。

 経験だけでKillヒットを全て躱せた。

 その事実だけでも流石だと言えよう。

 それでこそ最強の名を持つにふさわしい。


 そんな男を倒した男は「あああああああ!!! 目と耳がぁあああああああ!!!」と情けない声を会場全体に木霊させる。。。

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