バーテンの頼み

カークがギャングの男を引き連れて店を出てから少し経った後、ロバートはバーテンに酒の料金を支払って店を後にした。

僕もついて行こうとしたが、直後バーテンが引き留めた。

「おい坊や、噴き出したとはいえ酒を頼んだんだ。料金は払ってもらうよ」

至極当然の要求だった、僕は噴き出したとは言え酒を頼んだんだ。

ただ彼も言ったようにすべて口から飛び出したのに金を払わなくてはならないってのも何となくだが納得がいかないものがあったが、今引き連れられていったギャングの次にカークが僕を連れていくなんてことになるのは御免だったので、おとなしくバーテンに料金を支払いロバートを追って外に出た。

彼に追いついて開口一番、店内で起きたことへの不満が噴出した。

「なぁ!僕のことを気に入らないのかもしれないがあそこで煙草をふかして眺めているだなんて、そんな酷いことをすることなかったんじゃないか?」

彼は面倒くさそうに僕の方へ振り向く。

「あのカークって保安官の話を聞いてたろ?お前があのギャングの男に声を掛けて少し経ったときにはあいつは銃持って様子を見てたんだ。そこでお前の安全は保障されていたようなもんだろ?それで俺が頑張る理由がないんだよ」

ロバートは答えた。なるほど確かに彼から見たら僕の、いや店の安全は保障されていたのかもしれない。

だけど僕からしたらそんな事情は知る由もなかったし、とにかく恐怖でいっぱいだったんだ。そのくらいの事情は汲んでもらいたいものだった。

彼はポケットから煙草を取り出しそれに火をつけた。相変わらず心地の悪い咳を漏らしながらも彼は煙草を吸いだした。

「それにだ、その気になればお前の事なんていつでも救えたさ」

簡単にそう答えたが僕にはそうは思えなかった。

「馬鹿な!貴方は煙草を片手にしてたじゃないか、その状態で僕を救う?ご自慢の銃の腕で?」

正直、彼ならそれができたのかもしれないし僕も心の中ではそれを確信してはいたがそれをすんなりと認めるのはなぜか悔しい気分になったのだ。

そういうとロバートは少し笑ってコインを1枚ポケットから取り出した。

「ほら、よく見とけよ」

そういうと彼はそのコインを放り投げた。その直後煙草で埋まっていない方の手で銃を素早く引き抜き一発の弾丸を放った。

「カキン!」という小気味のいい音とともに宙に浮いていたコインは遠くに飛んで行った。

「これで分かったか?お前の事はいつでも助けてやれてたさ。見殺しにするほど憎いわけじゃないから安心しな」

咳をしながら薄く笑った目の前の男に、今更ながら到底敵わないだろうなとそんなことを僕は思った。

その後は彼は宿に向かうわけでもなくふらふらと町を練り歩いていた。

僕はといえばギャングとの一件で心身ともにドッと疲れてしまいそのまま宿に向かった。カウンターの男が何かを言っていたような気がしたがそんなもの気にならない。

適当に相槌を打って部屋に向かい、ベットの上に寝転んだ。泥沼のような眠気が襲ってきて僕が意識を手放すまでほんの一瞬の出来事だった。

その日僕は夢を見た、僕は家路について両親に顔を合わせて。こっぴどく怒られるかと思ったが両親は暖かく僕を迎えてくれて、金や馬を勝手に持って行ったことを咎めようとしなかった。母は暖かい料理をふるまい父は僕に怪我がなかったか何度も確認し、弟は僕に旅で見てきたものを話してくれとせがんできた。温かい家庭だ、この一時がどれほど素晴らしいものか、心が満たされていくのを感じた。

が、その直後現実は僕を引き戻した。目を覚ますと借りた部屋の寂しい天井が目に映った。温かい料理も、優しい両親もかわいい弟もすべて幻想だったのだ。

普通に考えればわかる話だ、大金を持ち逃げされた両親があんなに優しいわけないし、弟だってあんな素直に話を聞いてくれるわけがないだろう。

目が覚めたばかりでまだ重い体を引きずりベットから出た僕はロバートの姿がないのに気が付いた。

もしかしたら彼は昨日の夜に帰ってきていないのかもしれない。眠りの底に落ちていた僕がドアの音に気が付かなかった可能性もあるが、彼が返ってきた覚えは当然無い。まさか、あの後彼は町に戻って夜通しギャンブルを続けていたのか、いやもしかしたら、僕を置き去りにしてこの町を出て行ったのか?

まだ眠気の残っていた心身が飛び上がった。置いて行かれるなんて冗談じゃない!まだ良い小説のネタも見つけられていないのに!

階段を駆け下りカウンターの男に声をかけた。

「なぁ、僕のツレを見なかったか?ほらあの白い顔で咳をしていたヤツなんだけど」

そういうとカウンターの男は読んでいた新聞からチラリと視線を僕に移し答えた。

「君のツレならつい5分くらい前に出て行ったよ、何でも酒場に行くと言っていた」

こんな朝っぱらから酒をあおりに行ったのか、それともポーカーでも遊びに行ったのか、どちらにせよ彼はまだこの町にいるということだいい知らせだ。

カウンターの男に一言感謝の言葉をかけ、僕は酒場に駆けていった。

宿から酒場までは走っていけばほんの1分程度で着くような距離で焦るようなことは一つもないがもしかしたら置いて行かれるんじゃないかと頭の片隅でそう考えていた僕は居てもたってもいられず全力疾走だった。

酒場にたどり着くやいなや勢いよく扉を開けた。

酒場にはほとんど人影は見えない。置いてある柱時計の針は9時を示している。

こんな朝なのだから酒場に人がいないのは当然かもしれない。

しかし誰も座っていないテーブル群の中に二人の男が座っているテーブルがあった。

そこにはバーテンの男といつものように煙草をふかしているロバートがポーカーで遊んでいるようだった。とんだ拍子抜けだ、額から嵐にあたったのかという位の汗を垂れ流しいまだに呼吸が乱れているくらい焦って駆け付けた僕が馬鹿みたいだ。

バーテンとロバートが同時にこちらに視線を移し、ロバートが「朝の運動か?ご苦労だな」と呑気な声で僕に話しかけてきた。人の気も知らないで何が朝の運動だ!このまま怒りに身を任せ彼の頭をひっぱたいてやろうかと思ったが、彼にはおそらく敵わないであろうからどうにか怒りを鎮めた。

ポーカーはどうやらロバートが勝ったようでバーテンが悲痛なうなり声を上げた。

「ああ!畜生、また俺の負けだ。おいおい旦那あんた強すぎないか?」

「あんたがツイてないだけさ、いや昨日の事件で犠牲者が殴られていたヤツ以外誰も出なかっただろ?もし撃たれてたら掃除も面倒だっただろうし、銃弾で壁に穴が開いてたかもしれなかったろ?そう考えたらアンタは運を昨日使っちまったのさ」

その誰かという言葉が癇に障った。ロバートはなんて事のない世間話を続けた。

「それにしてもいい町だな、広くはないが活気にあふれている」

「ああそうだろう?いい町さ、図書館もあれば大きくはないが駅があって鉄道も通ってる。それに大きな川が近くを流れてるから水源だってあるんだ、それに最高の酒場もな」

「最高?ギャングが入り浸ってるのにか?」

そう聞かれるとバーテンは苦笑いを浮かべた。

「まぁ、それだけが良くないところかもな。だがそれもいつかは終わるだろうさ。止まない雨はないって言うだろ?」

ずいぶんと乱暴な強がりだと僕は思った。いつかなんて来るんだろうか?バーテンの男が続ける。

「ところで、あんた達は一体この町になんの用なんだ?ギャンブル遊びならこの町より良い賭場があるぞ?」

そう、彼の目的はギャンブルじゃない。最初に出会った酒場でそのことはわかっていたが、彼の事を少しも知らないのならギャンブルが目的だと思うのも無理のない話だ。

「悪いが目的はギャンブルじゃないんだ、人を探している」

ロバートが素直に答えた。「人?いったい誰だ?名前は?」

聞かれたロバートは彼のポケットから1枚の折りたたまれた羊皮紙を取り出しバーテンに差し出した。そこには男の顔が描かれている。

「この男だ、どうだ?見覚えがあったりしないか?」

少なくとも僕は見たことのない男だった。一体この男は誰なんだ?

その羊皮紙を手に取りバーテンはまじまじと見つめそして答えた。

「ああ、この男か。確か数日前にここで酒を飲んでいたよ。店仕舞いの直前で誰もいない中で転がり込んできたよ。すでに酔っぱらってやたらと話しかけてきたなぁ。面倒な客だったよ。」

聞くや否やロバートの目の色が変わった。いつも冷静なその表情が一瞬であるものの悪魔のように変わった。

「本当か?どこに行くとか、どこに向かったとか何か分からないか?」

いつもより早口でロバートはバーテンに問いただした。

バーテンは少し考えた後、答えた。

「・・・ああ、どこに行くか聞いたよ。教えてやってもいいが条件がある」

「条件だと?」

ロバートが方眉を上げる。

「昨日の夜、あんたここを出た後そこの坊やにコインを撃ち抜く技を見せていたな?たまたま窓の外から見えたんだ。あんな銃の腕をしてるやつは見たことない。

そこでだ、ギャングのリーダーのジョージ・ウォルトンを捕まえるか消してしまってほしい」

「そんなものあの保安官、カークがどうにかしてくれるだろう?なんで俺に頼むんだ?」

明らかに面倒だという表情でロバートは答えた。

「たしかにカークが来てから手も付けられないようなあのギャングどもが少しずつだが捕まっていった。だがすぐにまた新しい手下を増やして奴らの頭数は一向に減る様子はない。それにリーダーのウォルトンはなかなかの銃の腕だそうだ。いくらカークでも被害こうむりかねないから未だ手を出せずにいるんだろう」

保安官ですら手を出せない銃の腕とはいかなるものなのか。僕はと言えばその手下にすら歯が立ちそうになかったのに、もはや頭領のウォルトンの腕は想像できないしましてや僕なんか一瞬で撃ち殺さてしまうのだろう。

「だからあんたに頼みたい、どうにかしてジョージ・ウォルトンを止めてほしいんだ。正直奴らがこの町で大きな顔するのはうんざりだ。俺は長いことこの町で商売をしているがあいつらがやってきてから緩やかにだが住民は減る一方だ。頼む」

バーテンの頼みはそんな内容だった。ロバートからしたら相当面倒な頼みごとだろう。こんなことをしていたら彼が探している男との距離がより離れるのは請け合いだ。

だが、羊皮紙の男の行先を知っているのは先程彼が話したことが正しいのなら、このバーテンだけだ。つまりどう頑張ってもこの依頼を受ける以外の選択肢は絶望的に無いということだ。正に渋々という表現以外ないだろう態度でロバートはバーテンにYESと答えた。

僕とロバートは酒場を出た。先ほどまでロバートは面倒ごとを押し付けられたという表情を隠そうともしなかったが、今はいつも通りの張り付いたような白い顔に戻っている。

「ここからどうしよう。ウォルトンをどうにかしろって言われてもどこにいるかも分かっていないのにどうしたら・・・」

僕は自分でも思うほど情けない声で弱音を吐いた。

「確かにどこにいるかも知らないが、情報を持ってる奴なら知ってるさ」

ロバートはそう言うが僕には全く心当たりがない。

「ギャングを追ってるやつがこの町にいるだろ?保安官様だ。さぁ、署にでも出向くとしようか」

なんでこんな簡単なことを僕は思いつかなかったのだろう。署にいけばカークがいるじゃないか!僕たち二人は署に向かって歩き出した。わずかでもいいから情報を求めて。

酒場からほんの数分の場所に署はあった。たたずまいはと言えば立派とは言えはしないがそれでもこの町の治安を守るには十分だろう。

中に入ると数人の保安官、そして奥の机に昨日僕を助けてくれたこの町の希望、カークが座っていた。

改めて彼の姿を見ると意外と華奢な体格に思えた。身長こそ高いものの体格は細身で言っては悪いがとても無法者たちと渡り歩いてきたとは思えない。しかし彼がこの町にやって来てからギャングを捕まえ町の平和を守ってきたのは確かなのだろうから人は見た目によらないという事なのだろう。

「あんたがカークだな?聞きたいことがあるんだ。座ってもいいかい?」

ロバートは署に入るなり真っ直ぐにカークの座る席に歩み寄りそしてカークが彼の質問に答える前に容赦なく目の前の椅子に腰かけた。

なんというか、人に物を頼むにしてはとても図々しい態度だ。ましてや目の前の男は酒場によくいる酔っぱらって陽気になった者でも旧知の仲でも無い保安官だ。厄介なことを言われるのではないかと僕は冷や汗をかいた。

「すでに座ってるじゃないか。とんでもない無礼者だな。まぁいいさ何が聞きたい?」

カークは嫌味こそ言ったもののどうやらこちらの話は聞いてくれるようだ。

するとロバートはまさに単刀直入に質問に入った。

「ジョージ・ウォルトンについて聞きたい。その野郎はどこにいるんだ?」

ロバートの質問に対しカークは「奴の居場所はまだ探ってる所だ」

するとロバートは間髪入れず言い放った。

「1年も前からここで保安官をやってるのにまだ居場所が分からないのか?あんたは有能な保安官だと聞いたがどうやらそうではないようだな」

おいおい不味いぞ、いくら何でもロバートは言いすぎだ。このままじゃあ何も教えてもらえずここを去ることになってしまうぞ。

「すいません、ツレが態度が悪くて。あまり人と交流を持たなかったので、このような態度なのです。本人に悪気はないので許してはもらえませんか?」

流石にこのままじゃあ叩き出されるのは目に見えたのでロバートには悪いが彼を貶す形でカークの気を静めることにした。

それを聞いたカークは少しため息をついて僕に語り掛けた。

「まぁ、いいだろう。気難しい奴はたくさん見てきた。それでだ、ジョージの件だが奴は手下に基本的に仕事をさせなかなか本人が町には顔を出さない。だから情報がないんだ。こんな答えで満足か?」

カークはやれやれといった態度で僕たちに答えた。そこにロバートが聞き返した。

「本当に何もか?多少なりとも何か情報を掴んでるんじゃないか?」

この追及にカークはさっきよりも大きなため息をついた後答えた。

「いいか、あんたが何ものかは知らないが奴は危険な男なんだ。そんな男の情報を見ず知らずの流れ者のあんた達に教えるとでも?信用のない奴に教える義理は無いね。さぁ、帰ってくれ」

そういうとカークは面倒くさい虫でも払うように手を払い僕たちに出ていくよう促した。

こうなっては仕方ない、軽く会釈をしたのち僕たちは署を出た。

「さて、どうしたもんかな。まさか鹿なんの収穫もないとはな」

ロバートが皮肉たっぷりにさっきの僕のフォローをなじった。

「仕方がないだろ?いくら何でもあの態度はまずかったよ。下手したら撃たれてたかも」

「仮にそうだとして、俺があいつに撃たれるほど鈍間だとでも?」

いつもの涼しい顔でこの男は僕に食って掛かる。ああ言えばこう言うとはこの男のための言葉なのかもしれない。

「まぁ、しかし困ったことには変わらないな。あの男は何かを知ってるようだがそれを調べるのにどうするか」

ロバートのこの一言に僕は違和感を覚えた。

「ちょっと待ってくれよ、なんでカークが何かを知ってるって思うんだい?」

「簡単なことだ、あいつは見ず知らずの俺たちに情報を話せないと言ったんだ。裏を返せば何か隠してるって事さ」

初めて会った時も思ったことだが相変わらず鋭い男だ。これだけの洞察力だからギャンブルも強いんだろうか。

しかしどれだけ洞察力が優れていても人の心の中身を完全に見通すことは出来ない訳で情報が何もないことには変わらず、僕たち二人はしばしの間その場に立ち尽くした。だがこの時僕はあることをひらめいた。そうだ、確かバーテンがこう言ってたはずだ。

「ロバート、確かバーテンが図書館がこの町にあるって言ってたよね?もしかしたらだけど過去の新聞があそこには纏められているかもしれない。もしそうだとしたらウォルトンギャングの話やカークの事が書かれているかもしれないんじゃないか?」

それを聞いたロバートの表情は一瞬ではあるものの明るく輝いた。

「なるほど、そうかもな。初めてお前を連れてきてよかったと感じたよ」

相変わらず余計な皮肉を漏らした。いつか素直な意見が聞ける日が来るのだろうか。

図書館は町の外れにある建物で、歩いて行くには少し遠いいが馬で行くには少し近いところだった。今から宿につないだ馬に乗るのも面倒だという事で僕たちは歩いて行くことにした。その間僕はロバートにいくつかの何でもない質問をした、例えばどこの出身なのかとか、その早撃ちはどこで覚えたのかとかそんな他愛もないことだったがどの質問もすべてロバートはのらりくらりと答えることを避けるのであった。

そんな時間が少し続いた後、図書館にたどり着いた。町の外れにあるにしては随分と立派な建物でなんとなくだが期待が持てそうだった。

図書館に入るなり、管理人であろう人物が何かを言ってきたが僕は新聞を探すという事に夢中で彼の話は右から左だった。

管理人がひとしきり話を終えると早速僕たちは新聞を探し出した。少し探すと意外と早くそれは見つかった。この町で発行された新聞の束だ。僕は他の場所を探していたロバートを呼びその束をお互い適当に取りそれぞれこの町での出来事を調べ始めた。片っ端から記事を読み漁ったが、中身と言えば誰かの畑が荒らされただの深夜に見知らぬ男が二人いただの、ギャングの男が馬泥棒をしただので、ウォルトンに繋がる記事はなかなか見つからなかった。

だが、ここで僕はついにウォルトンについて記載されている記事を見つけた。その記事をロバートの元へ持っていき彼の座る机に記事を広げた。

内容はこうだった、酒場でギャングと牧場で働く男が殴り合いの喧嘩になったそうだそこにカークが駆け付けその喧騒を止めに入ろうとしたときジョージ・ウォルトンが現れたらしい。どうやらウォルトンは仲間を迎えに来たらしいが、目撃者多数によりカークがそのギャングと牧場の男を引っ張って行ってその件は一応の解決になったらしい。それに対し町の人々は何かウォルトンがギャングを引き連れ何かしらの報復や嫌がらせがあるのではないかと恐れていたらしいが結局は何も目立った行動は無かったといった内容だった

さらに調べるとこの一件以外にもジョージ・ウォルトンが町に来たという記事があったがどれもこれもとてもギャングのボスとしては何というか大事にはなってないというか仲間の様子を見ていたり、ちょっとした喧騒に参加していた程度のものしかなく正直これだ!と思うような情報は何も書いていなかった。

「どうやらいい情報は書いてないみたいだよロバート。他をあたろう」

僕はロバートに違う筋から情報を手に入れようと提案したが彼は意外な言葉を口にした。

「いや、もう少し調べよう。少しずつだがカークが何を隠しているか分かってきそうだ」

一体彼には何が見えているのだろうか。彼が見ていた記事は僕と同じ記事と、なぜかこの町以外での保安官が襲撃された事件が書かれたいくつかの記事でとてもジョージ・ウォルトンにたどり着くヒントもしくはカークが隠している何かがわかるとは思えなかった。

「本当に何か分かりそうなのかい?僕にはそうは思えないけど?」

そう言うとロバートはいつもの気味の悪い咳をしながら薄く笑った。

「確かにわかりにくいかもしれないな。だがしっかりと読み解くと点と点が結びつきしっかりと線になっているもんだ」

そう言うと彼は自信の考えを周りの人に聞こえないよう小さな声で語りだした。

その内容を聞いて僕は愕然とした。だが、彼の考えは今そろってる情報から推測するとかなり信憑性のあるものだった。そして彼は曜日を確認するとこう言った。

「俺の考えが正しければジョージ・ウォルトンは明日この町にやってくる。それを待ち伏せることとしよう。さぁ、そうと決まれば新聞を片付けて宿に戻るぞ」

僕はうなずき彼と共に散らばった新聞紙を片付けだした。なんてことはない、日付通り並べていたその途中だった。突然ある1枚の新聞紙をロバートが食い入るように読みだした。それを読んだ彼は何とも言いようの難しい笑みを浮かべた。

確かに表情は笑っているようだが、その眼は恐ろしい光を放っていた。

一体何の記事かと思いその内容を覗こうとしたが彼はすぐさまその記事を新聞の束にしまい込んでしまいなんの記事だったのかわからなくなってしまった。

彼は一体何を見てのか。結局分からず、何とも心地の悪いまま残りの新聞の束を纏め僕たちは図書館を後にし、宿に戻った。


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