第13話
「よかったな」と後ろから聞こえてきた小さい声に、またふんわりと笑って頷く。
「可愛いねえ。“灰音ちゃん”はこれから大変だ」
「テメェその呼び方すんな!!」
大良が茶化すと目を吊り上げる灰音ちゃんにピッタリとくっついた。するとすぐに怒りも鎮火して、私の頭をガシガシと撫でる。
この場にいるクラスメイトは15人中10人。内一人を除いて知り合いになることができたが……こちらへ歩いてくる少年は、その最後の一人だ。
「……お、
うわあ……と感嘆の声が漏れる。白く綺麗な肌に映える赤く薄い唇。形のいいアーモンドアイを縁取るバサバサの睫毛がゆっくりと瞬きをした。ふわふわの髪は時々寝癖がついていて、女子の胸キュンポイントでもある。線の細い美少年──彼は作中人気No. 1の無自覚天然イケメンだ。
「……俺のこと、知ってるの?」
コテンと首を傾げる仕草ですら、女子顔負けに可愛い。この世界の女の子は基本的に美少女ばかりだが、それでも彼に太刀打ちできるかどうか。作中でも彼のビジュアルは評価されていた。
私はぐうっと胸をおさえる。
「……そりゃイケメンですからね」
千景は不思議そうに数回瞬きをした。キョトンとした顔も可愛いのはズルい。
「俺、イケメンなの?」
「鏡見てきてください」
千景が「むう」と謎の可愛い声を出して私の心臓を揺さぶる。危うく膝から崩れ落ちそうになった。
そんなこちらの様子になんて気付かず、灰音ちゃんに張り付く私に手を伸ばす。彼の少し冷たい手のひらが頬にぴたっと触れて、スリ……と小刻みに撫でられると──「ひぇ」と言葉にならない声が震えて落ちた。
「白雪さん、よろしくね」
表情が豊かとは言えない千景の、緩い笑みが視界いっぱいに広がって顔に熱が集まっていく。
「誰がテメェとよろしくすっか!!離せボケ!!」
灰音ちゃんが千景の手首を掴んで乱暴に放り投げた。今日はずっと怒ってるなあ。
「俺は白雪さんに言ったんだけど……」
「ウルセェ」
眉を下げた千景にまたキュンとしつつ、不機嫌な灰音ちゃんの脇腹に抱きつくとギュッと力を込めた。
「灰音ちゃん!」
「……なんだ」
千景に掴みかかりそうになっていた身体を引き止めるようにすると、少し落ち着いたらしい。前のめりだったのが元の位置に戻る。
「すぐ怒鳴っちゃだめっ!」
「……わーったよ」
フンッと鼻を鳴らして腕を組んだ彼を見て私はニンマリ。勝った。
「え、チョロ」
信じられない、と言わんばかりの表情と誰かが軽率に漏らした声に灰音ちゃんが反応して、また怒鳴り散らしていたのには呆れたけれど。
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