運の行方

@J2130

第1話 伯父さんまでも‥

「もしもし、起きてっか?」


 休日の朝からかかってきた電話は、彼女でもなく悪友でもないようだ。

 昨日は部署の昇進祝いの会が開かれ、僕はかなり飲まされた。

 そんな朝に電話が鳴っている。


 だれだよ、まったく、まだ十時、あ…まあ十時ならしかたないかな…。でもつらい…、いや全然つらくない、二日酔いもしなくなったんだよな…最近。昨日だっていくら飲んでも飲んでも…。


 僕は携帯電話を探しあて、表示されている発信者番号に記憶がないことを確かめたが、そのまま素直にでることにした。間違い電話じゃないだろう、今の自分にそんなことがあるはずはない…絶対。

「はい、もしもし…」

 当然名のらない、いくらツイているっていってもね、知らない相手かもしれないし。


「おう!かずとし、元気か!」

 かなり年配の人の声がした。かずとし、一寿って言っている…。

「あ…はい、え? 誰でしたっけ…」

 電話の向こうで笑い声がした。明るい、豪快な声が聞こえた。

「おい、俺だよ、巣鴨のアキラおじさんだよ、忘れたか?」

 と言ったあと、電話の相手はまた笑った。

「あ…」

 僕はすぐに思いだした。巣鴨に住んでいる母方の伯父さんだ…。

「お久しぶりです、あれ?」

 と言ったあと僕は一瞬背筋が寒くなった。


 あれ…、伯父さんて、あれ、おかしいぞ…、昨年確か…、あれ?

「伯父さん…生きて、いやいや、じゃなくてお元気ですか!ハハ」

 明るくそう言っておいて、記憶をとにかくたどった。

「おう、去年病気で入院していたけれどな、元気だぜ。でよ、こんどパソコン買おうと思ってよ…、お前、仕事システム系だったよな…」


 伯父さんは話し続けていたが、僕は寝起きの頭をフル回転させ、とにかく、とにかく記憶をたどっていった。

 そうだよ、去年礼服を着たのは、友人の結婚式で2回と、伯父さんのお通夜だよ…。


 これは絶対に確かだよ。そうそう、伯父さんにはかなりお世話になったし、昔から豪快な人で不動産屋をやっていて、お小遣いももらったし、就職の相談もしたし、亡くなって僕は悲しくてとにかく泣いたんだよ…。それで、あまりに泣くんで、

「あの人がご長男さん…?」

 って参列者に誤解されたんだよな…。そうだよ、確かだ…。


「あ…、そうなんだ、パソコン…。で、パソコンで何したいんですか…」

 誰かが騙しているのかな? そうだとしたら悪質だな。そうだ、そうだよ、アレ訊こう。

「やっぱりインターネットですかね?伯父さん、そうだ、アレできますよ、まあね、実際に見てから買う派でしたけどね、叔父さんは…」


 これでわかるだろう、本当の伯父さんなら。

「おうおう、そうなんだよ、パソコンで馬券って買えるんだってな…、それよ、それ!」

 また笑い声がした。底抜けの明るい笑い声が…。

「さすがによくわかるな一寿はよ…。ハハ、そう、だからパソコン買ってさ、そのなんて言うんだ、ねっと…っていうの、繋げてくれよ、な…!」


 本当に伯父さんだよ…。ああ…どうなっているんだ。


「でもよ、今すぐってわけにはいかなくて、もうちょっとしたら一回顔見せにこいよ。まあな、買っておいてくれてもいいぜ、金はあとで払うから。ただな、まだちょっと体が全快じゃねえんだよな…。まあ全快したらよ、ひまだろうしな、家でねっとっていうのやって、そのうちかずとし、いい店連れていってやるからよ。な!とりあえず今日はお前が元気かと思ってよ…。お前のかーちゃんも心配してんだぜ、結婚もしないし、電話もよこさないしって。たまには実家に電話してやれよ!ハハ、それじゃあまたな…」


 伯父さんは一方的に話して電話を切った。僕は去年の手帳を探しだし、引っ張りだしてカレンダーを見た。確か秋口だったはずだ…、でもなんとなく予想はついた。いくつかの記述があり、その中にこんなものがある。僕の筆跡で…


「アキラさん退院、車、病院、PM13:00」


 僕は伯父さんの退院のために病院へ車で迎えにいったらしい。

というかそうなんだろうな…。いや、おそらくそっちのほうが“正しい記憶”なんだろう。でもさ、やっぱりぐちゃぐちゃな気分…。ついに亡くなった人まで生き返ってしまったよ。


 これはツイているなんてもんじゃない…

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