クラス召喚されたのに俺だけ勇者じゃないってマジですか?

友上 錯汰

第1話

 ――なるほどこれは恐ろしい。


 未曽有の大地震の最中、俺はそんなことをぼんやりと考えていた。

 縦なんだか横なんだか、とにかく揺れに揺れて平衡感覚はとうに失われて、避難訓練に倣って机の下に隠れようと、それが倒れないように押さえつけているので精一杯で、ちらりと視界の端に映ったものの中にはすでに倒れて立て直しが不可能なものもある。身を守る盾を失ったクラスメイトは両の手で頭を押さえて蹲ることしかできないでいた。


 幸いなことに教室は物が少ない。備え付けのロッカーは壁と一体化していて倒れることがない。多少中の物がこぼれたところで大けがにつながるようなものが入ってることもない。

 割れた窓ガラスと、いつまでも収まらない揺れだけが懸念事項であった。


 日本で地震といえば2011年の出来事が印象深いが、日本では大なり小なり地震の被害に遭遇する。さて今回のはどれほどの被害を生むのだろうか。この街は海に面していないので津波の被害はあまり想定されない。震源が海底であれば海沿いの街はご愁傷様だが、とにかく水害の心配はしなくていい。

 この揺れを耐えて、校内放送の指示に従えば万事解決のはずだ。難しいことは大人が考えるだろうし、たかが高校二年生が勝手な行動をするべきではない。


 地揺れの音に悲鳴が共鳴する。ふと目に入った壁面に、亀裂が走っているのを確認した。

 いつからこの校舎の耐震性能を信頼していたのだろうか。

 四階建ての校舎が、縦だか横だかに大きく揺れて、形を歪ませているのだからこうなる可能性は最初からあった。けれども、なんとなく、心の中では自分は大きな怪我もなく生き残って、普通に帰宅できるものだと思い込んでいた。

 まさか、自分の命がここまで危うい状態だったなんて。床から昇るように走る亀裂はいずれ天井に到達して――いや、天井からもいくつもの亀裂が迎えに来た。

 見上げる天井からはパラパラと小さな破片が降ってきている。


 その光景を見て、そのうちこの校舎も倒壊するのだろうか。机の天板程度では建物の瓦礫なんて防ぎようがないだろう。


 成長していく亀裂を眺めていると、身体に響くような鈍く低い音がした。悲鳴をかき消す大きな音と衝撃を受けて、俺は意識を手放した。

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