第1話 入学。そして出合い

季節は春。

暖かい日が差す一日であり、町では学校の入学式の時期である。

町では小学生から高校生まで、たくさんの人があらたなスタート地点へ踏み込もうとしていた。

「くぅ…!やっと終わったぁ!」

今年高校生となった彼の名は“江原えはら 正幸まさゆき”。

黒い髪を長く伸ばし、髪留めで後ろにまとめている

目つきが鋭い普通の少年。

身長はあまり高くないのだが、背筋を常に伸ばしているため高く見える。

入学式を終え自分が生活する教室で、固まった体をほぐすように長く伸ばした。

「お前ら、入学式が終わったからってあんまりだらだらするなよ」

クラスの担任が、ゆるくなった空気の生徒達に喝を入れた。

「今日はもう終わりだが、明日からは普通に授業があるからな、ちゃんと準備しとけよ?」

「は〜い」

生徒達の気の緩んだ声が教室中から響いた。

「じゃあ今日はこれまで!また明日!」

先生の号令と共に生徒達が一斉に立ち上がり、騒ぎながら荷物を持って帰ろうとした。

正幸もそそくさと支度を済ませ、教室から出ようとした。

「あっ!待て江原」

担任に声を掛けられ、正幸は振り返った。

「ちょっと頼みがあるんだ。お前の前の席の“佐藤さとう しずか”なんだが…今日欠席だったろう」

「はぁ…」

「それでな、静の家がお前の家の隣だそうだからプリントを届けてやってくれ」

正幸はあからさまに嫌な顔を見せた。

「嫌な顔すんな!ほれ!よろしく」

半ば無理矢理プリントを渡され、正幸は呆然と立ち尽くしていた。


「なんで俺が…」

学校の正門前で、ぶつぶつと文句を言いながら下を向いて歩いていると、人にぶつかった。

「あっ、すいません」

咄嗟に謝罪をし、ぶつかった相手の顔を見た。

ややつやのある黒い髪をポーニーテールにし、綺麗な黒を大きく見せてる目。

すらりと伸びた長い足に、筋肉が引き締まっている女性はすごくガタイがよかった。

自分よりも大きな背丈に正幸は少し驚いた。

だが、すぐに別の物に目がいった。

それは彼女が手にしてる、プラカードのような物だ。

四角いプラカードは、ふちの模様が白く塗られており、その他の部分はほとんど真っ黒で、白い文字でなにか書かれている。

「こっちこそ悪かったな。それよりもお前うちの部活に入らないか!」

彼女はプラカードに書かれた文字と同じ事を話しながら、正幸にプラカードを見せつけた。

さらに、もう一つ同じようなプラカードを見せてきた。

それには、『はい』『いいえ』の二つの言葉が書かれていた。

「えっ…なに?」

あまりの奇行っぷりに、正幸は言葉に詰まった。

「はぁぁぁ!?お前そこは、『はい』か!『いいえ』で答えろよ!!」

突然彼女は叫んだ。

話に付いていけない正幸は、黙る事しか出来なかった。

「あっ!もしかしてお前フラッシュファンタジー派か?なら仕方ねぇな。でもなぁ…知らなくても分かると思うんだが…」

何かに気づいた彼女は、何かを一人で語り始めた。

「よし…もう一度聞くぜ!お前うちの部活に入らないか!」

すると再び、さっきと同じプラカードを見せてきた。

「……いいえ」

良い返事を期待していたのか、彼女は思わぬ返事を聞いて固まった。

「もう行っていいか?」

「……はっ!いけねぇ、一瞬記憶が飛んじまった。もう一度言ってくれ!」

再び返事を待つように、耳を傾けた。

「いいえ!」

今度ははっきりと伝わるように、大きな声で言った。

「……はっ!いけねぇ、一瞬記憶が飛んじまった。もう一度言ってくれ!」

その時、正幸は確信した。

(関わったら駄目な奴だ…)

正幸はにげだした。














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