インターネット・ホーネット〜毒針彼女はVRMMOで恋したい〜

お花畑ラブ子

第1話


 高校生、円上愛男えんじょうらぶおは自室のパソコンの前で頭を抱えていた。

 お古のパソコンを友人に改造をしてもらいゲームが快適にできる…はずだった。彼のパソコンの画面にはいくつもの蜂の画像。はち、ハチ、蜂。デフォルメされたその蜂達は画面上を這い回っていた。

 愛男は、マウスやキーボードを必死に動かすが、反応はなく、蜂達はどんどん増えていった。


「くそ!!」


 エロいサイトにアクセスしたことがあった。うん。ずいぶん前。昨日の夜くらい。でも、結局怖気付いて、すぐに画面は閉じた。


 目の前のパソコンは、ブンブンと激しい羽音を鳴らしていた。彼自身パソコンに詳しいわけではない。せいぜい検索とタイピングができるだけで、学校で習う以上のことはできない。

 途方にくれた愛男らぶおはふと、思い出す。


「そうだよ、あいつに聞けばいいじゃん」


 パソコンに詳しい数少ない友人に連絡を取る。


「やぁ、天井くん。こんな真昼間にどうしたんだい」


「天井じゃんない円上だ。悪い、片恋かたこい。お前こそ、こんな真昼間に寝てたのか」


「ふぁ、いや、2轍目なだけさ」


 気怠げに喋る友人にことのあらましを説明する。片恋かたこいと出会ったのは、春先のことである。とあるゲームイベントで意気投合し、よく遊ぶようになったのだ。『デッド・ワン』上位ランカーの凄腕スナイパーと聞き尊敬した。しかし、実際は重度のゲーヲタのだらしない奴ということがわかった。見ての通り、毎度のこと名前を間違えてくる。


「ふむ。ハチが飛び回っている?馬鹿なのかい?君の家には殺虫剤もないのかい。君も男なら、叩き潰すなりなんなりすればいいじゃないか」


「実際にいるわけじゃないんだ。その。画面の中にいてだな。とにかくどうすればいい?」


「現代版一休さんのつもりかい。おい、ハチを出してみよって。僕はなんでも屋じゃないんだよ。忙しいんだ。僕は」


「どうせゲームをしていたんだろ」


「馬鹿者!それ以外にすることなどなかろう」


「…はぁ。せっかく夏休みなんだから、どっか出かけようぜ」


「バカをいえ、外は灼熱地獄。確実に人類を滅ぼしてきている。それに外でゲームをすると、画面が明るすぎて、頭がクラクラするんだ。ごめんだね」


 こいつは外に出ても意地でもゲームをするつもりらしい。


「スマホなら、画面を見せてくれればいいだろ」

「あ、それもそうか」


 画面の表示を切り替える。


「っておい!服はどうした。服は!!」


「あ?服?このくそ暑いのに服など着てられるか」


 画面に映し出されたのはあられもない少女の姿。ごついヘッドフォンをつけて、少しずらし気味な丸いメガネ。二重のクリクリとした瞳は、パソコンの画面を写している。眼の下には濃いクマこそあったが、口はにヘラと笑っている。


「ほれ、セクシーサービスなのだよ。頑丈くん」


「お前は、もう少し、恥じらいを持ってくれ」


「隠しているじゃないか。髪で」


 うっふんっとポーズをとる。


「ちょ、ばっ、見えるだろ」


「はは、君は本当にからかいがいがあるね。な、むっつりくん。指の隙間から見ようとしてるのはわかってるぞ」


「…いや。せの、み、みてねぇよ」


 長い髪によって隠さなければならない部分は神の悪戯か。ギリギリ見えない。興奮しそうになるが背景のゴミ屋敷具合にげんなりした。


「おい、夏場にそれはやばくないか」


「…そろそろ片付けなければな。こないだ黒き同胞がいたし。家族を作る前にご退去願おう」


「…それ、ゴキブリだよな」


 片恋は、凄くいやな顔になったが、だったら片付けろと言う話だ。

 ボリボリと髪をかくと、ボサボサとした髪が揺れる。ちょ、見える!

 おれの視線に気づいたからか胸を抑えながら彼女は棒読みで言うのだった。


「キャーエンジョウクンのエッチー」

 ケラケラと恥じらいなく笑う彼女にため息をついた。


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