憶測



 私が最初に聞いた怪談。いや実際にあった事件。マンションに住んでいた夫婦はこの二人だった。少なくともあの504号室で起こった不倫を発端とする事件は実際にあった。では残りの二つは?

 ここに記されていなくとも、何かしらの関係があることは間違いない。あの場所を訪れなければいけない理由がより深くなっていく。

 だが、まだ足りない気がする。理由、原因、発端。まだ謎が多すぎる。

 それに此処にいたのは慎吾だったのだろうか。さっき見掛けたのは慎吾だったのだろうか。

 慎吾の手帳に書いてあったことが事実ならば、悟の父親は誰なのだろうか。

だが、慎吾は誰の子であろうが育てようとしていた。この二つのベッドはあの二人を育てようとしていたと想定できる。おそらく、どのような真実に辿り着いたのかは分からないが壊れてしまったのだろう。少なくとも現状、悟が赤ん坊であることはない。あの報告書でもそう報告されている。

 手帳の中には写真が一枚挟まっていた。

 後ろに立つ二人の顔は塗り潰されている。前に映るは男と女と小学生程度の子供が一人。女の腹は大きく、妊娠していることが見て取れる。

 これが慎吾と美智子なのだろう。であれば、子どもは悟で、背後の二人は茂と佳子か。

 驚くべき、美男美女一家だ。茂も佳子もそれなりの年齢であるはずなのに十は歳若く見える。

 つまりこの写真から推測するに、この時期に茂も佳子も殺されていることはほぼ確定している。慎吾が親二人を殺した可能性は高い。だが、一人ではなかったのだろう。家の中に残る無数の足跡がそう物語っている。であれば吊し上げたのは慎吾。下半身を断ち切って吊し上げる。実の親に対してそれほど残忍な殺し方ができるだろうか。もしかすると、まさかだとは思う。このような考察をしたくはなかったが、可能性の一つとして提示する。

 悟の父親は、茂だったのではないだろうか。

 それも茂の妻である佳子も一緒になって、美智子に茂の子を孕ませた可能性がある。この手帳に記されたことから読み取れるに、茂、佳子、美智子の三人は慎吾に対して何かしらを隠している。慎吾だけが蚊帳の外なのだ。

 不倫関係の大学生を殺害してから既に慎吾は正気を失いつつあった。その時点で全てを明かされる。それは慎吾にとって耐え難い事実だった。

 だとしても、美智子に茂の子をそこまでして孕ませる理由は分からない。何らかの計画性を持って、意図的に美智子を孕ませた理由とは一体何なのだろうか。

 東野宮家。

 この写真は、この家の前ではない。表札には東野宮と書かれている。東野宮佳子と東野宮美智子の関係に何があったのだろうか。

 やはり東野宮家、訪れるしかないようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る