ジゴクから生まれしモノ

ゆゆの

504号室の怪

そのマンションは六階建で、その当時は全室埋まっていたそうです。

 人気のない通りに面したマンションビルだったそうですが、駅からも程近く、

近くに商店街もあるので若い家族に人気の物件だったとか。

実際、空室が出来てもすぐに入室があったので、常に空室はない状態が続いていました。

大家さんとしては当然有り難い話で、住むのも家族連れしかいないので、

マナーも良く、子どもの騒音等はあるけれど家族連れだからこそ特に

クレームなど入ることもなかったそうです。そんなある日、

五階のゴーマルヨンゴー室の家族連れが引っ越したそうです。それ自体はよくあることで、

その家族は新しい命を授かったということもあって実家近くの一軒家に引っ越しました。

仲の良かった住民の皆さんもその引っ越しを祝ったそうです。ただその後に、

そのゴーマルヨンゴー室に引っ越してきたのが女性独り身の方でした。

それ自体が非常に珍しいことで、住民の皆さんの間で少し騒然となったそうです。

住民の方々は当然のようにその女性のことが気になって、

すれ違いざまなどによく横目で見ていたそうです。ただそれだけで済めば良かったのですが、

それは少しづつエスカレートしていきました。

誰かがその女性の外出時間を気にし始めたことがきっかけだったそうです。

その外出時間は一般的な会社員の出勤時間からは程遠く、

深夜に出掛けては昼間に帰ってくることが多かったそうです。

その時間は、小学生ほどの子どもまでであればもちろん就寝している時間で、

家族連れの中でも小学生高学年ほどが最高年齢だったので、

隣に住む家族は少し迷惑に思ったそうです。大家さんに苦情を出したそうですが、

大家さんも注意はしますが少し大目に見てくださいと言った曖昧な返事をしたそうです。

大家さんも物分かりの良い方で住民の深い事情を探ることをしたくなかったそうです。

ただそれが住民の反感を買ったそうで、住民の監視行為が本格的になりました。

最初は深夜、出て行く女性をじっと窓から見ているだけだったそうですが、

廊下を身体で防ぐ行為や部屋の扉前を汚水で汚したりするようになったそうです。

その女性も気が強い方で、その程度の嫌がらせに屈することはなくいつもより大きな音を立てて出て行くようになりました。

でもそれが逆効果で監視行為や嫌がらせは激しさを増しました。

とうとうマンションの外まで続くストーカー行為にまで発展しました。

それも昼間までも続くストーカー行為。

それからそれが決定的な出来事になりました。扉の前に鼠の死骸が置かれるようになりました。

流石に大家さんも見逃せなくなったのか、警察へ通報するため女性に相談しようと部屋を訪れたのですが、

既に時は遅かったようで部屋に女性の姿はなく、家具などもいつの間にか運び出されていたそうです。奇妙な染みだけを残して。



「それは怖い話なの?」

 Aの言葉に対して私はもう一度趣旨を説明しました。これはうろ覚えの怖い話であること。どんな媒体で探しても見つかることが出来なくなったからこの怖い話の結末を知らないかということ。二人はこの話を知らないかということ。

「なるほどね? ……ずっと気になってたんだけどそれって本当に女の人の話?」

 私が覚えているのは女性だと答える。

「似たような話なら思い出してたんだけど……男の人が引っ越してくる話なんだよね」

「……俺もマンションの話なら知ってるけどちょっと違うかな」


 AとB。二人は思い思いの話を重ねた。

 Aの話はこうだった。家族連れが多いマンションであることには変わりなく、ただ引っ越してきたのは男性だった。

 その男性は外見が良く、更に気立ても良かったらしい。大学生ということもあって部屋にいることが多く、子どもと仲良くなり、その流れでその母親との不倫関係もあったとのこと。勿論、他家族になにかあればすぐ噂が回るようなマンションなのでバレないはずもなく、すぐに不倫関係が夫にもバレることになった。その後のことは事が起こった数日後に他の住人が気が付くことになった。その住人は不倫していた住人の部屋であるゴーマルヨンゴー室の下に住んでいた住人で、上の部屋から水漏れしていることに気が付いてゴーマルヨンゴー室を訪れたらしい。呼び掛けても出てこず、でも室内の明かりは付いていて廊下に面している小さな窓は鉄格子のはまった向こう側が開いていた。怪しく思った住人は大家さんを呼んでその部屋に入った。すると、目に飛び込んできたのは一つの死体だった。当然警察を呼んだ二人だったが、損傷が激しくその死体が誰のものか分からず、辛うじて女性のものであったことだけ分かったらしい。なぜか犯人も見つからず、その部屋に住んでいた一家も全員が行方不明に。不倫関係だったとされる大学生もその後見つからなかったらしい。


「それで終わり?」

「ああ、これで終わりだよ」

 私もどこかその話に結末と言えるものがなく少しもやっとしたものを抱えていました。

「その、私の話なんだけど……怖いっていうか……」

 Bはどこかその話をどう見てもためらっていました。

「ちゃんと聞くから話して」

「そのマンション、知ってるかも」


 Bの話も家族連ればかりが住んでいるマンションであるところは同じでした。

 引っ越してくる住人は家族連ればかりで、単身者お断りのマンション。ただ、違うのは事件性のある話題が一つもないこと。それだけだと一見平和のようで良いし、住民の子どもはみんな仲良く遊んでいて、朝の学校への送迎の様子などを見ている限り仲が悪いように見える夫婦もいないということだった。Bもその様子を実際に見たことがあるらしく、確かなことだった。でも、そのマンションは奇妙だということ。それはなぜか? Bは誰から聞いた話かまでは忘れたとのことだったが、住民同士の仲が良すぎることだった。どの部屋にも大体三十歳前後の男女夫婦と小学生の子どもが一人住んでいる。ただ、どの家族も他の家族すらも家族のように、いやそれ以上に扱っているように見えるとのこと。夫婦と夫婦の妻同士が一か月程度入れ替わっていたり、夫も入れ替わっていることもある。もちろん、子どもが入れ替わっていることもあるそうだ。別々の夫婦の男女二人が公園で子どもが遊んでいるところを見ている姿は、密着していてどう見ても不倫関係にしか見えない。しかしそのマンションからは悪い噂が聞こえてくることはないし、住人達がぎくしゃくしているところなども誰も目撃したわけではない。


「……変なカルトにでもはまってんじゃねえの」

「まさか、マンションの住民全員が?」

「そのマンションの住民が作り上げたカルトなんじゃねえか」

 無い話ではないと私は思いました。

「……そこにいってみればなにかわかるんじゃないか」

 Aの言葉にBは少し怖がっていましたが、好奇心が勝ったのか三人で行くことになりました。

 もう深夜帯でしたが先ほどの話の通りまだ住民が住んでいるならばその方が好都合ということですぐに向かうことになりました。

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