第38話 Sランク冒険者vs魔王

「ま、魔王……。なぜここに……?」


 皇帝がぽつりと呟いた。


「私が貴様らをここに呼び出したのだよ。ようこそ、我が常夜城へ」


 帝都から一瞬で魔王の城へ転移させられた。

 その事実を皇帝たちは受け入れることができなかった。


(もしやはるか昔に失われたという転移魔法か……? そんな馬鹿な……)


 魔王は皇帝たちのそんな様子を気にすることなく、この場にいる人間たちを見下す。

 それから、がっかりした様子で口を開いた。


「帝国騎士団にSランク冒険者……か。結局、自分から出向く気はなかったんだな。皇帝よ」


「余の身にもしものことがあってはならぬのだ! 余は皇帝なのだから!」


 皇帝が叫びながら反論する。


「それは言い訳だろう? 貴様に問う。皇帝とはなんだ?」


 試すような口ぶりで問う魔王。

 皇帝は考えることなくすぐに口を開いた。


「誰よりも強く、おそれられることで民をまとめ上げる存在だ!」


 魔王が皇帝を鋭い目で睨む。


「誰よりも強いくせに、自分で戦うのが怖いのか? 臆病者が」


 期待外れだと魔王が小さく呟く。


 皇帝が叫ぶように命令を下した。



「余が命ずる! 魔王を討伐せよ!」



 皇帝の命を受けて、騎士団たちが一斉に剣を魔王に向ける。


「俺たちもやるぞ!」


「おう!」「ええ!」「うん!」


 Sランク冒険者のクロムたちが魔王に武器を向けた時だった。



「目障りだ。【空間切断】」



 魔王が魔法名を紡ぐ。


 刹那、騎士の頭が飛んだ。

 たったの一瞬で、五十名近くいた帝国騎士団の精鋭部隊が全滅したのだ。


「「「「「は……?」」」」」


 皇帝とSランク冒険者の四人が呆けた声を出した。

 一瞬で自分たち以外の人間が殺されたなど、考えることができなかった。


 だが、彼らは腐っても数々の死線を超えてきたSランク冒険者だ。

 本物の死の恐怖を思い出して固まってしまった皇帝とは違って、即座に動いた。


「【ステータスアップ】!」


「【斬撃波】!」


「おら!」


「【クリムゾンスフィア】!」


 神官の少女がステータス向上のバフをかけ。

 クロムがこの前の大会で使っていたのとは別の大剣で【斬撃波】を放ち。

 ラルドが毒ナイフを投げ。

 魔術師の女性が、貫通力に特化した炎の上級魔法を放つ。


 彼らの連携はすごかったが。

 それでも魔王に届くことはなかった。



「Sランク冒険者といえど、所詮はこの程度か。やはり大したことはなかったな」


 何をしたのかは分からない。

 魔王が何かをしたようには見えなかった。


 放った攻撃が魔王に届くその瞬間、

 唯一、実体のあった毒ナイフだけが音を立てて床に落ちた。



 理解が追い付かずに固まるSランク冒険者たち。


 魔王がもう一度魔法を紡ぐ。

 刹那、Sランク冒険者たちの胴体に大きな切り傷が出来上がった。


「がは……!?」


 血を吐きながら地面に膝をつくSランク冒険者たち。

 パーティーリーダーのクロムが、瞳に怒りを宿して魔王の顔を見上げる。


「く、クソ……! 大会の時に壊されてメンテ中の愛剣があれば……テメェなんて……!」


 クロムが呪詛を吐くように呟く。


 それを聞いた魔王の眉が、ピクリと動いた。



「武器が強ければ私に傷をつけられるとでも? 私がその程度に見えるか!? 私を見くびるなよ」



 魔王が怒りをあらわにしながら、新たな魔法を発動した。



蘇生リザレクション不死騎士団アンデッドナイツ



 直後、むくりと。

 首を切り飛ばされて死んだはずの騎士たちが起き上がった。

 リビングデッドが起きたのだ。


 首なしの騎士団が、ゆらりと剣を構える。

 向けられた先は、皇帝だった。



「……皇帝といえども、所詮はこの程度か。前菜程度には楽しませてくれると思ったんだがな。だが、悲しくはない。最初から期待などしていなかった」



 魔王が命ずる。

 アンデッドの騎士たちが幽鬼のように歩み出す。


「ひ、ひぃ……!? やめろ! 余は皇帝だぞ! 余に逆らえばどうなるのかわかっているのか!?」


 皇帝が叫びながら後ずさる。


 皇帝の目の前に立ったアンデッドの騎士が剣を振り上げる。

 だが、振り下ろされることはなかった。



 アンデッド騎士が剣を振り下ろすよりも先に、一斉に。

 アンデッドの騎士たちの体が爆ぜた。


 直後、魔王の前に一人の女性が姿を現した。



「待たせて悪かったわね。メインデッシュが来てやったわよ!」



 彼女は――最強吸血鬼リリスはそう言い放って、魔王を殴り飛ばした。

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