第36話 多言語マスター

 1日目にナターシャが丁寧にマッピングしていたこともあり、2日目の今日は5層目まで迷わずやってこれた。


 そういえばここに来るまでの道のり全部頭に残ってたな。これがINT1400超えの知力か。いやできる人はできるんだろうけど。


 3Dゲームのマッピングできる人とかすっげえよな。

 俺全然覚えれねえもん。

 2Dだったらなんとなく覚えれるのに、なぜか3Dになるだけでわからなくなるんだよな。


 いや、今なら覚えれるか?

 今度FPSゲームでも買って試してみるのもいいかもしれない。


 本格的にありだな。

 ゾーンと未来予知使えば大会とかでも無双できるんじゃね?


「ねえねえ! 灰咲はいざき君とナターシャちゃんって、どれくらいの頻度でダンジョンに潜るの?」

「ん? そういえば取り決めてなかったな」


 もしも週7で潜るなんてことになったらゲームなんてする暇ないもんな。


『桃井さんはなんて?』

『どれくらいの頻度でダンジョンに潜るの? って』

『そういえば取り決めてなかったわね』

『それさっき俺が言った』

『知らないわよ!?』


 ナターシャの顔色を読む能力は雑談みたいな脈絡が無い話には精度が低いのかもしれない。

 まあどっちでもいいけど。


『けれど、そうね。週4日でどうかしら?』

『多いな。間を取って週2日にしよう』

『何と何の間を取ったのよ!?』

『週4日と年2日の間だけど』

『少なすぎるわよ!! というか今年これ以上ダンジョンに潜らないつもりだったの!?』


 いやだってゲームもしないといけないし。


『だが考えてみろナターシャ。茜はお前と違ってダンジョン探索は仕事にならない』

『うっ』

『週4日もダンジョンに潜ってみろ。茜は働き口を見つけられず若年無業者の烙印を押されることになるんだぞ。それでお前の良心は痛まないのか!?』

『日本人って本当に働くの好きよね……』


 それは偏見。

 俺が思うに働きたくないと思ってる人の方が多い。

 ただ「働かない自由」と「周りに働いてないと蔑まれる劣等感」を天秤にかけると後者が強いって場合がほとんどなんじゃないかな。


 ま、俺みたいに振り切れた人もいると思うけど。


『待って。今しれっと桃井さんと一緒に探索する前提で話してたけど、そもそも契約にあの子は含まれていないわよね?』

『ナターシャが! そんなに! 薄情な人だとは思わなかった!!』

『あんたもサボる口実に利用してるだけでしょ!?』

『そんな下劣なこと、思いつきもしなかったぞ』

『目を見て話しなさい!!』


 え、やだよ。

 ナターシャと目を合わせると顔色読まれるじゃん。


「ねえねえ、決まったー?」


 ぽん、と。

 俺はひらめいた。


 先に話をまとめてしまえばいいじゃないか。


「ああ。週2回で話がまとまったよ」

『週4日になったわ』


 む。

 同じ発想に至るとは。

 さすがだな。

 だが甘い。


 茜は今コード:ソフィストを使っていない。

 つまりいくらナターシャが弁明を試みたところで意思疎通は不可能。


『ちょっと! 絶対2日って言ったでしょ!』

『うん』

『横暴! 暴君! 下衆!!』

『いいかナターシャ。日本にはこんなことわざがある。――嘘も方便ってな』


 すぐ横には、キラキラした目を向ける茜がいる。


「本当!? じゃあこれからも一緒に冒険できるね!」


 こうなるとナターシャも引き下がるしかあるまい。

 なんだかんだ茜に対して優しいからな、ナターシャは。


 多言語マスターの俺、大勝利!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る