第34話 桃井茜の【超直感】

 ダンジョン攻略二日目。

 俺はすごく大事なことに気づいた。


 とても大事なことだ。

 どれくらい大事なことかというと、日常生活におけるフーリエ変換くらい大事だ。


 フーリエ変換と言えばあれだ。

 コンピュータでアナログ値をデジタル値に変換するときに使われる数学のあれだ。

 日常生活のあちこちで使われている、多分。


 それくらい大事なことに、気づいた。


(あれ、コード:覚醒アウェイクンがあるから俺はステータスを何の気無しに確認できたけど、持ってない人にとってステータスの確認作業って地獄じゃね?)


 よーく振り返ってみてほしい。

 掲示板の民の情報提供を。


――――――――――――――――――――

196:名無しの探索者 ID:2tnFpdntq

気づいてなくても当然か

「ステータス」って声に出さないと見えねえからな

――――――――――――――――――――


 いや草。

 ステータス確認するのにいちいち「ステータス」って口にしないといけないの?


 いい年こいて、ステータス!


 笑える。


『嫌よ! そんな恥ずかしいセリフ! 天地がひっくり返っても口にできるわけないじゃない!!』


 一緒にダンジョンに潜ったナターシャに話を振ると、そんな答えが返ってきた。まあそりゃそうよな。


「灰咲くん! 何の話してるのー?」

「茜!? え? どうしてここに?」

「一緒にダンジョンに潜るためだよー!」


 え、それって昨日だけの話じゃなかったんだ。

 まあいっか。


「実はさ、ある単語を発すると面白いことが起こるって、ネットで話題になってるんだ」

「はえ!? なにそれなにそれ! 教えてー!」

「うん、これなんだけど」


 俺はスマホにステータスと入力して桃井さんに見せた。


「ステータス?」

「もっと元気な声で!」

「スッテーィタス!! わあ! なんか出た!?」


 思った以上に元気な声出た。

 よく恥ずかしげもなくそんなセリフ言えるな。


『え、嘘でしょ? そんな恥ずかしい単語を、何のためらいもなく……?』


 ナターシャが唖然とした様子で茜を見ていた。

 その気持ちはすごくよくわかる。

 純粋って恐ろしい。


「ねえねえ灰咲くん! これなに? STRとかVITとか書いてあるよ!?」

「あーそれは多分こうだな」


 STR……Strength(力)

 VIT……vitality(生命力)

 DEX……Dexterity(器用さ)

 AGI……Agility(敏捷値)

 INT……Intelligence(知力)

 CHA……Charm(魅力)


 CHAについてはCharisma(カリスマ)の説もある。攻略本も公式サイトもないから詳細は分からないけど、多分大きく外れていないはず。めいびー。


「すっごい! 灰咲くん物知りなんだね!」

「はっは、何でも聞いてくれたまえ」

「じゃあさじゃあさ! この超直感ってのは何?」

「んん?」


 いや知らんけど。


 うーん。

 人のステータスをのぞき見するのは公序良俗に逆らう気がするけど、ま、俺って別に善人じゃないしな。

 じゃあ失礼してっと、鑑定。


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【超直感】

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理屈や確率を端折って正解を導き出せる。

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 おおう。

 なんか超絶レアそうなスキル持ってる。

 これが持ってる者か。

 俺なんて最初、スキル一つもなかったよ?


「ほら、昨日、隠し部屋をなんとなくで開けたでしょ?」

「あ! うん! なんとなくこうしたらいいんだなってわかったの!」

「昨日の神代語のテストも満点だったでしょ?」

「うん! どうしてか答えがわかる気がしたの!」

「それだ……」


 まじかよ、超直感、超強いじゃん。

 俺も欲しい。

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