覚醒のAIー①

「兄ちゃん、絶対そっち離すなよ。こんなもん足の上に落とした骨が折れちまうぜ」


「分かっテイル。シェニーコソ離すなヨ」


 シェニーとフリックが大汗をかきながら運んでいるのは先日マルコスが届けてくれた支援物資の一部だ。


 素人仕事ながらも何とか倉庫が完成し、今日はようやく貴重な物資を野ざらし同然の状態から解放する為に物資を倉庫へと搬入しているのだ。


 元々村の物で、傭兵達から奪い返した物資は食料品が中心であまり大きな物や重量のある物が少なく、レッカやアッカですら運べる物も多かったのでさほど時間が掛からずに搬入を終えたのだが、問題はマルコスが持ってきた物資だった。


 物資の中身は食料や医薬品の類だけでなく、服や食器類から家財道具までと、マルコスとしては焼けてしまい数も無いだろうし、使える物も焼け焦げていたりとずっと使うには問題があるだろうと気遣って持ってきたのだ。


 だが、マルコスは村に残っている人間で力仕事が出来る者が二人しかいない事をすっかり失念していた。


 おかげで馬車から降ろして倉庫前まで運んで来た時は大の男が数人がかりで運んだような物をフリックとシェニーが二人で倉庫へと搬入する羽目になってしまった。


「やっぱマルコスのおっさんが来るまで待った方が良かったんじゃないか?」


「そうもイカナイダロ。テンキ、ワルクなるってフェアリー言ってる」


 最初は流石に二人では無理があると、帰る時にまた二週間経たずに来ると言っていたマルコス達を待とうと言う話で落ち着いていたのだが、フェアリーが二日後には大雨が降る可能性が高いと言い出した。


 軽い雨なら大丈夫なようにとマルコスが置いて行った馬車隊の予備のテントを張ってここ最近はその中に物資を入れていたのだが、フェアリーの予想では風も伴う可能性があるとの事で、テントでは防ぎ切れないとも言うので、仕方なく搬入作業を行うことになってしまい、今に至る。


 おかげ取り敢えずは自分達で無理なく運べる範囲内だけでも搬入する予定だったのが崩れてしまい、怪力自慢のシェニーとパイロットスーツの身体拡張機能をフル稼働させたフリックの二人が冬の気配感じる気温の中で汗水垂らしているのだった。


 今もようやく衣類がぎっしりと詰まった箪笥を何とか倉庫に搬入し終えたところで、外を見ればまだまだ大物の荷物が残っている。


「お疲れ様です。お二人共、少し休んでください」


 軽い荷物を粗方運び終えたせいでお役御免となってしまい、家の方へと戻ったばかりのレッカが、アッカと共にいい匂いのする焼き菓子とお茶を持ってやって来た。


「お、うまそうだな。いつの間にこんな物仕込んでたんだよ」


「私じゃないですよ。アルマ姐さんが作ってくれてたんです」


 このところ、怪我が治り精神状態も少しずつ安定してきたアルマは、台所仕事やアッカの面倒、それにリーナの介護を担当するようになっていた。


 とは言え心の傷が早々言える訳もなく、フリックとは真面に顔を合わせられない状態は続いており、同様にマルコス達が来た時も家の外出る事すら出来ない。


 本人もこのままでは不味いとは思っているようで、何度かシェニー立会いの下でフリックと顔を合わせようとしたのだが、失敗に終わってしまっている。


 一応フェアリーのデータベースにあった精神医学の資料を使って治療も行ってはいるが、効果はまだあまり出ていない。


 ただ、フリック自身を嫌っているわけではないので、森に出かける時などにはお弁当を作って持たせたりと直接会う以外では出来る範囲内でフリックをサポートしてはくれているので、フリックは今はそれでいいと感じていた。


 フリックも軍人ですら精神を崩壊させたものを何人も見てきたのだから、一般人である彼女が体験した事を考えれば、現状出来る事をやってくれているだけでも十分ありがたいと感じているからだ。


 今日の焼き菓子も少し甘めに作られており、疲れた体に染みわたる味だった。


 おかげで重労働で疲労感と空腹に苛まれていた二人の胃袋にあっという間に焼き菓子は消えていった。


「しかしマルコスのおっさん、色々と持ってきてくれんのはありがてえけどもうちょいこっちの事も考えて欲しいもんだぜ」


 レッカから受け取ったタオルで汗を拭いながら思わずシェニーがボヤいてしまう。


 自分と違って生身のシェニーは自分よりも疲れているのだろうから仕方がないと思いつつ、フリックは焼き菓子の最後の一つをアッカと半分ずつ分け合い、二人仲良く頬張る。


「物が無いよりはいいですよ。最初は色々とどうなるかと思ってましたけど、皆さんのお陰で何とか村を復興させられそうで、私本当にうれしいんです」


 ふいに弾ける様なレッカの笑顔を見てしまったフリックは顔を真っ赤にしてしまい、当然シェニーがそれを見過ごすわけもなく、フリックに肩を抱いて揶揄い始める。


「おうおう、兄ちゃん顔を真っ赤にしてどしたんだよ。アッカの笑顔が可愛すぎて初心な僕ちゃんには耐えられませんってかー」


 図星のフリックの顔がより赤くなるのと同時に、揶揄われていないレッカまで顔を真っ赤にさせていつもの煙を出し始める。


「全く二人揃ってかわいいやつらだよ。ほら兄ちゃん、さっさと正気に戻れよ。この辺の片づけ終わったら次はお前さんの家の修理の続きやらないといけないんだからな。いや、正確に言うといずれは二人の愛の巣ってか」


 笑いながらシェニーに尻を蹴られたフリックは誰のせいでこんなに心拍数上がったんだと恨めしそうにしながらも渋々作業に戻った。


 一方のレッカは愛の巣発言で限界を迎え、フリーズを起こしてアッカのおもちゃにされるのだった。

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