五章 生活再建計画ー③

 木々に止まり羽を休めていた鳥達が、半ば狂乱状態で大きな声で鳴きながら一斉に飛び立った。


 原因は、緑あふれる美しい森に似つかわしくないモーター音と共に木が倒れる音が森中に木霊したからだ。


「流石は木の伐採道具からヒントを得て作られたチェーンナイフ。上手く木を切れていますね」


 モーター音の発信源はエアレーザーが持つ、小さな歯が付いたチェーンを高速回転させて敵の強固な装甲を切り裂く近接戦用武器、チェーンナイフだ。


 最初フリックはエアレーザーで木を手当たり次第に雑草の様に引っこ抜こうとしたのだが、フェアリーに止められた。


「森中を穴だらけにする気ですか。それに木にも木材として利用するのに向き不向きがあるのですからなんでも良いという訳ではありませんよ」


 結局全てフェアリーの指示の元作業する事になり、チェーンナイフで一本一本、フェアリーが選んだ木材に適した木を丁寧に伐採する事になった。


 やっている事は大きな体のエアレーザーからすれば、草抜きが草刈りに変わっただけなのだが。


 そもそも木材自体は以前木こりの村人達が伐採したものを使えばいいだけなのでそれを運べば今日の作業は完了だとフリックは思い、早々に終わらせてレッカ達には悪いが少し休息を取る気でいた。


 しかしその考えは甘く、フリックの休息を取りたいという願望が叶うことは無かった。


 何故なら今後の事を考えフェアリーがフリックに木を伐採するように命令、もとい提案してきたからだ。


「建築資材に用いるには伐採したての木は適さず、乾燥させなければいけません。しかしそれには時間がかかります。いずれ焼け落ちた家を建て直すことを考えれば大量に必要になるので今から伐採して乾燥させておいて困ることはないでしょう」


 村再建に使わなくても商品として売ることも可能なので、主産業である農業の立て直しまでの資金源にも出来る為、一石二鳥だと言われたフリックは拒否する事が出来ず、増えた仕事に辟易しながらも巨体を操ってせっせと切っていく。


  途中、余りにも単純作業が続くせいで集中力を切らし、うっかり切る木を間違えリスや鳥が巣を作っている木を切りかけてフェアリーに注意されつつも、夕焼け空になる頃までフリックの作業は続いた。


 そうやってフリックが異星人との戦闘用ロボットであるエアレーザーで木こりに勤しんでいる間、レッカとシェニーも自分達の仕事である倉庫の焼け跡の片づけに勤しんでいた。


 元々中に入れていた物は傭兵達に全て奪われ、空の状態で火を付けられたので焼け跡から必要な物を探す、という面倒な作業はしなくて済んだのだが、燃え残った木材などの廃材が大量にあるのでそれを片づけないと倉庫を建てるどころの騒ぎではないのだ。


 快晴の空の下とはいえ、秋らしく少し肌寒い空気の中シェニーは額に汗を浮かべながら、レッカでは持てそうにない重い廃材を持っては予めフリック達とも示し合せておいた廃材置き場に運んでいく。


 レッカも自分に持てる範囲内で一緒に廃材を運んでいるのだが、如何せん二人だけではなかなか作業が進まない。


「こりゃ今日一日でどうこうできるもんじゃねえな」


「人手が無いですからしょうがないですよ」


 かといって、療養中の二人とアッカに手伝わせる訳にもいかないので、二人はいっそのことフリックが操る鋼鉄の巨人が全部やってくれないかと思い、ときどきボヤキながらも作業に励むのだった。


 そうやって3人が倉庫再建を始めてから早数日、筋肉痛は治れど疲労感が抜けないフリックは今日も巨大な木こりを操って作業を続けていた。


 今日はある程度森での作業が終わればレッカ達を手伝う予定になっており、フリックがそろそろ村へ帰る頃合いかと思い始めた時、コックピットに警告のアラームが鳴り響いた。


 エアレーザーのレーダーが村に近づく移動物体を捕捉したのだ。


 程なくカメラアイの最大望遠で捉えることが出来る距離に移動物体が入り、フリックがモニターに映し出された映像で確認すると、4台の馬車が村に向かって進んでいた。


 最大望遠のせいで少し荒い映像を目を凝らしてフリックが見ると、少し豪華な造りの馬車を先頭に3台の荷馬車が追随しており、大量に荷物を積んでいる一台と空の馬車が2台という編成である事が確認できた。


「軍曹、どうやらレッカが言っていた行商人が来たようです。あの速度ではまだ村に到着するまで余裕がありそうですし歓迎の準備をしましょう」


 両手いっぱいに抱えていた木材を地面に降ろしたエアレーザーは村へと全速力で走る。


 村に到着すると、エアレーザーが大慌てで走ってくるのを見て、何かあったのかと驚いたレッカとシェニーが作業の手を止めて待っていた。


「フェアリーさん、フリックさん、何かあったんですか? もしかして傭兵達が戻ってきたんじゃ」


 再びトラウマが蘇って青い顔をするレッカをシェニーが抱きしめて落ち着かせる。


「落ち着けってレッカ。ちゃんと話も聞かずに早とちりしてんじゃねえ」


 モニター越しにレッカの様子を見たフリックは言葉が分からずとも状況を理解し、フェアリーに説明をする様に促す。


「驚かせてすみませんレッカ。行商人の方の馬車がこちらに向かっているのを見つけたので戻ってきたのです。危険はありませんよ」


 フェアリーから事情を聴かされたレッカは少し落ち着きを取り戻し、血色が少し良くなる。


「それでどうすんだ? このままその巨人に旗でも持たせて歓迎するのか」


 恩人の忘れ形見を怯えさせた巨人に少し嫌味を込めてこれからの対応を聞いてくる。


「いえ、極力エアレーザーを人目に晒さない方が良いので光学迷彩で隠します」


 エアレーザーの透明になる機能を知らないシェニーは聞いたことの無い言葉に首を傾げる。


「フェアリー、俺はどうすればいい? コックピットで待機か?」


「何を言っているんですか。アナタはさっさと降りて着替えてください」


 着替える、という意味がよく分からずに頭が疑問符だらけになったが、フェアリーに急かされたフリックは渋々エアレーザーから降りた。


 降りたと同時に光学迷彩機能で姿を隠したエアレーザーにシェニーは驚き大はしゃぎするが、対照的にまるで強制的にエアレーザーから追い出された様な気がしたフリックは、また何か面倒なことをさせられそうな予感を感じて気分が沈むのだった。

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