四章 襲撃者再びー③

 二人の証言によると普段自分達が狩りや収穫を行う場所よりさらに森の奥に行くと天然の洞窟があり、そこに手を加えて傭兵団はアジトにしているらしい。


 村から攫った女性達も奴隷商に売り飛ばすまでの間、自分達の慰み者にする為にそこで幽閉しているという。


「軍曹、どう対応いたしますか?」


 深い場所とはいえ、森に今だ敵集団がいるというのはもうしばらくはこの村で過ごさなければならない現状を鑑みれば問題だ。


 それに何より村人が捕らえられ、人権を無視された扱いをされているというのならば捨ておく訳にはいかない。


「決まっている。傭兵団とやらのアジトを急襲して人質救出作戦を行う」


「了解しました。詳細な位置情報を得る為にドローンでの偵察を開始します」


 フェアリーがエアレーザーを操作すると肩の装甲上部がスライドして開き、格納されていた偵察用の小型ドローンが3機、森の奥を目指して発進する。


 必要な情報を全て手に入れ、これ以上は彼らに用は無いと判断したフリックは、二人を縛ったまま放置して一旦姉妹の元へと帰る。


「まだ生きている人がいるんですね!私もうだめかと思っていました……」


 侵入者から得た情報とこれから救出作戦を行うことを伝えると、レッカは肩を震わせ涙ながらに喜んだ。


 襲撃の際に連れ去られるのは見たが、自分ではどうしようも無いとただただ生きていることを祈るしか出来ない事をずっと気にしていたようだ。


 小さな村で村人も少ないので、村人同士が家族も同然という中で育った彼女にとって、攫われた女性たちは姉のような存在だった。


 ただでさえ両親を失ったばかりで心細かったのだ。


 再び彼女たちと再会できると言うのなら嬉しくない訳がない。


「私と軍曹は今晩敵アジトを急襲し、攫われた女性達を救出します。そこでレッカ達には救出した女性たちのために家の準備をお願いします」


 レッカ達の家は村長宅なだけあって、村の中では一番大きな家なので寝床の用意さえすれば救出した女性たちを十分に保護できるだろう。


 それにこう言っておけば、今にも自分もついて行くと言い出しかねない雰囲気を出していたレッカを危険に晒さなくて済むとフェアリーが判断したのだ。


 役目を貰ったレッカは自分も役立てるのだとはりきり、妹を連れ立って準備をする為に家に走っていった。


「さて軍曹、どのような作戦をお考えですか?」


 本人たちも忘れがちだが、一応フェアリーはパイロットをサポートするために作られたAIなので、作戦行動についての基本的な部分はパイロット自身が考える必要がある。


 訓練学校を首席で卒業したフリックが即座に考えた作戦は、人数差と装備差を考慮した闇夜に紛れての急襲作戦だった。


「無難で教本通りの作戦、素晴らしいですね。ですが敵戦力に不確定要素も多いですし、今後のことも考えてこういう作戦は如何でしょうか」


 あまり自分が立てた作戦にケチを付けられるのは気分の良いものではないが、そこは優秀な軍人であるフリックは、素直に自分の作戦より的確だと判断し、フェアリーがアイデアを加えた作戦を起用した。


 日が沈み、周囲が完全に闇に包まれた深夜、フリックとフェアリーは作戦を開始しする。


 完全装備のフリックは縛った捕虜を連れて森の中を、野盗たちのアジトを目指して進む。


 フリックのヘルメットには暗視ゴーグルと同じ機能が付いてるので闇夜の中を平然と歩いてるが、捕虜の二人はそうもいかず、途中何度も転んで傷だらけになっていく。


 お陰でゆっくりとしか進めず、ドローンからの位置情報を頼りにアジトに到着した頃には深夜になっていた。


 少し離れた茂みから観察すると、アジト唯一の入り口は篝火で照らされている上に見張りも立っていた。


 フリックの立てた闇夜に紛れての急襲は作戦としてはやはり詰めが甘いことが分かり、何とも言えないくやしさがあるが、ぐっと呑み込んで作戦を開始した。


「おい!こいつらは貴様らの仲間だろう!返してほしくば貴様らの頭目を連れてこい!」


 突如現れたおかしな格好をした男に戸惑いつつも、見張りの男は縛られたまま地面に転がされた二人が昼間から姿の見えない下っ端だと確認すると慌てて洞窟の中へと走った。


「お頭!大変です!変な格好した野郎がこないだ入った新入り縛って連れてきやがったんです!」


 折角酒を飲んで楽しい気分になっていたのを駆け込んできた部下に邪魔された、お頭と呼ばれた男は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ああん!何を訳の分からん事を言ってやがんだ!寝ぼけてねえできっちり仕事しやがれ!」


 部下に怒声を浴びせながらも、珍しく慌てている部下に違和感を持ったお頭は仕方なく重い腰を上げて様子を見に行こうとする。


「俺も行こう。血風団に喧嘩を売ってきた阿呆の顔を見て見たくなった」


 お頭と酒を酌み交わしていた用心棒の魔法使いも立ち上がる。


「どうせだったら派手に迎えてやりましょうかね。オメーら!さっさと起きてついてこい!」


 こないだの戦争で運悪く負けた側についてしまったせいで大損した上に多くの部を失い、今は野盗に身をやつしているとはいえ、自分も含めてそれなりの実力者を有している傭兵団として有名な自分達に喧嘩を売った事を後悔させてやる気で部下を皆呼び出す。


「軍曹、ハチの巣を突いた様に全員出てきましたよ。作戦のいくつかのステップを省略できるのでありがたいですね」


「下手したら全員俺が相手をする羽目になるんだ。素直に喜べないな」


 ぞろぞろと洞窟から出てきた野盗たちの数は20人程。


 武装はしているとはいえ、手にしているのは斧や剣ばかりで、フリックからしたら武装差でごり押せば十分に相手を出来る戦力差だ。


 ここでいきなり銃を抜いてもいいのだが、今回は人質を救出作戦なのでフェアリーの作戦通りに行動する。


 縛った侵入者を足蹴にすると、フェアリーがそれに合わせていつもの女性ボイスではなく、適当に合成したドスの効いた声でしゃべりだす。


「我はこの地を収める守護神様の使いだ!守護神様は貴様らの狼藉に大変お怒りだ!天罰を食らいたくなければザッケ村から奪った物を返上してこの地から去れ!」


 野盗たちはポカンとマヌケ面を一瞬晒した後、盛大に笑い出した。


「おいおい、誰だよ道化師になんて呼んできたのはよう」


 一頻り笑った野盗たちは急に真面目な顔になり、フリックを睨みつける。


「さあて道化師さん。何が目的かは知らねえがうちの下っ端を可愛がってくれたお礼はしねえとなあ」


 お頭が剣を抜くと、部下たちも一斉に武器を構える。


 何を言っているのかは分からないが、笑われた後に急に武器を向けられたフリックはこの作戦に不安を覚え始める。


「……この作戦、本当に大丈夫か?」


「問題ありません軍曹。彼らの反応は概ね私の想定通りです。このまま次のステップを開始します」


 不安そうな主を他所にフェアリーは作戦を淡々と進めていく。

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