二章 燃え盛る村の姉妹ー②

「この地域も戦争状態なのか……」


 空中から撮影した人工物と思しき建築物の集合地に到着したフリックは言葉を失う。


 軍人である彼は悲惨な戦場をいくつも見てきたとはいえ、人々が生きた証が無残にも破壊されている風景は、何度見ても慣れるものでは無い。


 家と思われる木製の建築物の多くが、火が放たれたのか焼け崩れており、何軒かは形を保ってはいるが燃えたせいか屋根や壁の一部が壊れてしまっている。


 さらに地面には人型の生命体の遺体が無造作に転がっており、何体かの遺体を機体のカメラで遠距離から解析したフェアリーが、死因はウィルスや災害によるものではなく原始的な武器によって受けた傷が原因だと告げる。


 皮肉な事に遺体から得た情報により生命体はフリックと同じ人類種だと断定された為、この土地でフリックが長期に渡って生存できることは証明された。


「フェアリー、生体反応はあるか?」


「火事後のせいで探知に障害が出ています。機能を調整しますので少々時間がかかりそうです」


「分かった。俺は降りて生存者がいないか調べる」


 これ以上カメラ越しに見たところで埒があかないと判断したフリックは、エアレーザーを跪かせるとコックピットを開け放つ。


 ハッチについている非常時用のワイヤーを使いフリックは士官学校卒業以来、数年ぶりの地上へと足を付けた。


 宇宙船やコロニーの床とは違う、凸凹とした大地は久しぶりに歩くと少し違和感を感じ、なんとなく地面を蹴って土の感触を確かめる。


「軍曹、土いじりは退役後の楽しみに取っておいて頂けませんか」


 機体から降りてもヘルメットの通信機能を使ってまでフェアリーが嫌味を言ってくる。


 呼吸に問題が無いとはいえ、念の為に防弾性のあるヘルメットを被ったままなのが思わぬ仇となってしまった。


「軍曹、この惑星の文明について解析できそうなものも探していただけると幸いです」


 気を取り直してフリックはフェアリーからのお使いをする為に、久しぶりの人工ではない本物の重力に足取りが重いながらも辛うじて形を保っている家屋に入っていく。


 家の中を調べると、火事のせいで分かりにくいが何かを探したような荒らされ方をしており、家具の中に納まっていたであろう衣服や日用品の類が床に散らばっている。


 とりあえずその中から焦げたり破れてはいるが文字のようなものが書かれている本らしきものを手に取り、ヘルメットについているカメラでフェアリーにそれを読み込ませる。


「解析完了まで60%。同じような物をもっと探してください」


 人使いの荒いAIに溜息を吐きつつ、生存者と解析に使えそうな物を焼け跡から探す。


 捜索を続けるうちにフリックは最も死者が多い中央部の広場に行きついた。


 地面には食事を入れていたと思われる容器や食べかけの料理が転がっており、集団での食事中に何者かに襲われたことを示していた。


 一人ずつ生死を確認していくが、すでに冷え切った体ばかりで生存者を確認することが出来ない。


 軍人になって以来死という存在は身近に溢れ、何度も味方の死に目を見てきたフリックでも大量の遺体の生死確認をすると心が疲弊してくる。


 一旦エアレーザーに戻って休憩を挟もうかと思った時、フェアリーが今日初めての吉報を届けてくれた。


「軍曹、2時の方向の折り重なった遺体の下から微弱ですが生命反応を感知しました。至急救助願います」


 指示された方向を見ると、不自然に折り重なった遺体の下から小さな手が助けを求める様に伸びていた。


 急いで駆け寄ったフリックはパイロットスーツの身体能力拡張機能を発動させ、重なりあった遺体を軽々と移動させると、意識のない二人の少女を発見した。


 土で汚れてしまってはいるが、同じ髪の色と、顔の造りが似ているので恐らく姉妹だろう。


 フリックが声を掛けてみるが返事はなく、二人ともぐったりとしたままだ。


「フェアリー!彼女達のメディカルチェック急げ!」


 フェアリーはヘルメットのカメラを通して瞬時に姉妹の健康状態をチェックした。


「落ち着いて下さい軍曹。軽度の外傷及び打撲傷はありますが命に別状はありません。ただ体温が低下していますのでサバイバルシートの使用を推奨します」


 フェアリーからの指示に従ってフリックは一旦エアレーザーに戻り、搭載されていたサバイバルキットからワンタッチで建てることの出来るテントとシートを下ろす。


 未だ火が燻り、いつ倒壊してもおかしくない建物だらけの場所にテントを張るわけにはいかないので、安全の為に村から少し離れた場所にキャンプを設営し、発見した二人をテントの中に寝かせてシートをかける。


「ようやく生存者を見つけられたか......」


 他にも生存者がいるのではと淡い期待を抱くフリックに、機能調整を終えて付近のスキャンを完了させたフェアリーから生存者はもう居ないと残酷な現実が伝えられた。


 ならばせめてこれからの為にと、フリックは言語解析に役立ちそうな資料と生活に使える物を探してはキャンプに運ぶ事にした。


 食料の類いはほとんど無かったが、本に調理器具、簡易の武器に使えそうな物はある程度揃えることができた。


 サバイバル生活において一番必要な水も水質を調べた結果、無事だった井戸の水が飲料として十分使えることが分かったのが今日二つ目の吉報だろう。


 一々小型のろ過装置で飲料水を作るのは手間だからだ。


 フェアリーの方も言語の解析が完了し、パイロットスーツの腕についているデバイスからホログラフィックで文章を表示させてコミュニケーションをとる方法を発案した。


「後は彼女たちの意識が戻るのを待つしかないか……」


 汚れた手足や顔を拭いてやり、傷の手当をしている間も姉妹の意識は戻らなかった。


 状態も落ち着き、テントの中で今は規則的な寝息を立てる姉妹の意識が早く戻ることに期待しながら、フリックは夜に備えて火を起こし始めた。

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