第16話:兄弟喧嘩1

 隣で歩く金髪イケメンの顔を見ることが出来ません。


 あっ、別に気恥ずかしい〜とか、目を合わせたらとろけちゃう〜、みたいな可愛い理由ではありません。じゃ、なぜかって?


 去れと啖呵を切った相手に、『じゃあ、案内して下さい!』とか言われたら、どう思いますかって話です。


 あぁ、いたたまれない……。


 こんなことなら、気絶でもしておいた方が良かったのかも。


「……お前、よく変わり者って言われないか」


 はうぅぅ、これは言い返せないぞぉ……。


「ま、まぁ、たまに……」


 ここ最近、言われることが増えましたけど……。


「放置されていた花壇を勝手に手入れするとはな。侍女の仕事ではないだろうに」

「じ、実は私、侍女になったばっかりでして。今日は仕事も無かったので、つい……」


 あ、来るぞぉ、来るぞぉ!

 可哀想な人を見る目が……って、あれ?


 金髪イケメンが、何故か微笑んでコチラを見ているんですが……。予想に反した反応に、思わずドキッとしてしまうじゃないですか。


 それに、な、なんだ? ま、眩しいぞ⁉

 これは、イケメン特有の現象なのかぁ⁉


「母も草花の面倒を見るのが好きだったんだ」


 ……、か。それに、あの花壇の荒れよう。ちょっと頭を働かせれば察しがつく。


「あの、勝手に花壇をイジってしまって、すみませんでした。やっぱり嫌でしたよね……」

「なぜ、そう思うんだ?」

「お母様との思い出の場所、なんですよね?」

「……まったく、抜けているのか、鋭いのか」


 それは褒め言葉として受け取って良いのかな?


「本当に不思議な人だよ。君は」


 そう言って彼が微笑んだ顔は、流石に破壊力が違った。


※※※


 しばらく二人して無言のままで歩いていると、すれ違った侍女の一人が私を呼び止めた。


「あら? エナさん?」

「あ! シアさん!」


 声を掛けてくれたのは、こちらに気付いたシアさんだった。と、言うか、ここで知り合いの侍女さんってシアさんしかいないし……。

 でも、良かった! これで、この意味不明な状況から解放される。


 そう思っていたら、シアさんが私の後ろに居た金髪を見て、急に頭を下げた。


「えッ、シアさん!? どうしたの?」

「それはこっちのセリフです。……なぜ、ザイル王子とご一緒なんですか?」


 …………ああ、そう、王子。ん? 王子?


 って、まぁ、正直な話、ちょっと気付いてはいたんです。


 侍女の格好の私に、妙に偉そうな態度だったり、たとえ一画とはいえ、花壇への立ち入りを禁止出来たりとか。


 それなりに偉い人だと思っていたけど、そっか王子かぁ。


 ……王子って、居る所にはいるんだなぁ。そんなにいっぱいいるの? いるかぁ、王宮だもんねぇ。


 やや現実逃避気味にそんなことを考えていたら、金髪イケメン王子に昇格したザイルがこちらを見つめていた。

 

「もう、大丈夫そうだな」

「あ、えぇ、はい……」


 彼が少し寂しげに見えたのは、イケメンオーラに当てられ続けたからだろうか?


「では、私はこれで失礼する」

「あ、ありがとうございました……」


 そう言って、ザイルが去ろうとした時だった。


「ああ、いたいた。まったく、迷惑かけさせんなよ、バカメイド……」


 悪態をつきながら、もう一人の厄介な人物がこの場に登場した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る