第3話:生贄の少女3

 お世話になった? ゴミ捨て場に別れを告げて出来るだけ人気のない場所を進むことにした。


 なにしろ、私の服装は奇抜すぎるワンピースだ。こんなんじゃ、誰に見られても捕まってしまう!


 流石に国の中枢だけあって、兵士や侍女さん達がいっぱいいらっしゃる。


 侍女さんの服どっかで手に入れられないかなぁと、考えていたのが功を奏したのか、洗濯小屋のような場所でちょうどお誂え向きにメイド服を手に入れることが出来た。


 それにしても、私の元の服なんかより、よっぽど良い布地を使っていらっしゃる。

 着心地が良すぎる……


 さて、服も手に入れられたし、あとは簡単!

 侍女さんのフリをして王宮を抜け出せば……


「あなた、こんな所で何してるの?!」


 ハイ! ごめんなさい! 調子に乗っていました。許してください!


「あ、あの……」

「ん? ひょっとして、新人さん?」


 そ、そうです! そうです!

 私、王宮ここに来たのも初めてなもので。


「あの、あ、はい」

「そう、仕方がないわねぇ。じゃぁ、付いていらっしゃいな」


 えっと、お断りすることは……


「早くしなさい!!」

「は、はい!!」


 却下ですね。


※※※


 侍女さんの案内で、王宮の奥へ奥へとどんどん連れてこられてしまう。


 私の行きたいのは出口なのに……


「あなた、仕事は?」

「え、えぇと。そ、掃除を……」

「掃除? もう粗方終わっていると思うんだけど」


 うわ! いきなり墓穴を掘ってしまった!

 だって、他に適当な仕事が思い当たらなかったんだから仕方ないじゃないですか。


「ああ、でも確かはまだだったわね」


 あの場所?

 なんか、すっごく嫌な予感がするんですけど!?


「あの、それって地下室でしょうか?」

「地下室? あそこは私達の担当じゃないわ」


 ああ、良かった!

 って、なんで私は仕事そうじする気になってんだろう。


「まぁ、地下室の方がある意味マシかもしれないけど……」

「え?」


 そ、それってどういう意味でしょうか?


「着いたわ。ここよ」


 侍女さんに案内された先、そこはとてつもなく広いのに随分と質素な一室だった。


「あ、あの、この場所は?」

「あなた、本当に何も知らないのね」


 はい。すみません……


「ここは第一王子のお部屋よ」


 お、王子⁉ えぇ!! そんな重要な方のお部屋に、気安く部外者を案内しちゃダメですって!!


 あれ? でも、ちょっと可怪しくないですか?


「ここが最後なんですか?」

「ええ、そうよ」


 う〜ん、王子の部屋って重要な場所のハズですよね? その部屋が一番最後って……


 まぁ、そう言う事もあるのかな。王宮の習慣なんて、私が気にしても仕方がない。


「早く済ませてしまいなさいね。でないと、鉢合わせする事になるわよ」

「分かりました」


 侍女さんは私に掃除用具の場所を教えると、足早にこの部屋から去っていった。


 さてと! じゃ早速、逃げ出しますか!

 と、思ったんだけど……


 チラッと見た感じ、この部屋あまり掃除されてるように見えないんだよなぁ。薄暗いから目立たないのかもしれないけど、少し埃が溜まったところもちらほらあるし……


 あぁん、もう! 気になって仕方がない!

 あの司祭へんたいも、まさか私が王宮内で普通に働いてるなんて思わないだろう。それに、そもそも出口がどっちか分かりません……


 えぇい! もう、こうなればヤケだ!

 気が済むまでやってやるわ!


※※※


「はぁ、スッキリした!」


 そうして見回した部屋は、チリ一つ落ちていないほどピッカピカだ!


 やり切ってやったぞ、私。


 なんだかんだと、あっという間に時間は過ぎているんだけど……


 それにしても、あちこち掃除していて気付いたけど、この部屋、ろくに掃除されていなかった様だ。


 えっと、王子様のお部屋、だよね?


 あ! ひょっとして、もの凄く神経質で部屋のものが少しでも動いていると怒るタイプとかだろうか。


 しまった! 掃除に夢中であちこち物を移動させまくってしまった!


 こ、こうなれば、出くわす前に退散させて頂こう。


「誰だ! 俺の部屋に居るのは⁉」


 あ、はい。手遅れでした。


※※※


 あ、怪しい者では有りません! 多分……


 と、取りあえず、頭は下げておこう。


「……何だ、侍女か。珍しいなこの部屋に来るなんて」


 え? どういうことでしょうか?

 ここは王子様の部屋って聞いてましたけど、侍女が来るのが珍しいって?


「……随分と綺麗にしたんだな」


 そうですとも! さあさあ、もっと褒めてくれても良いんですよ? 王子様


「ご苦労だったな。下がって良いぞ」


 へぇ。王子様って、自分の部屋を掃除してもらうのが当然って感じじゃないんだぁ。ちゃんと労をねぎらってくれるなんて意外だった。


 さって、下がって良いって言われたし、今度こそおいとまさせて頂こう。


 そう思って、ふと王子の姿が目に入って私の動きは止まった。


「あ、その髪……」

「はぁ?」


 し、しまったァァァ!

 ついつい声に出てしまったァァァ!!


「フン、珍しいだろ?」


 そう私に見せびらかすようにする王子の髪は、綺麗な白髪だった。

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