4 佐戸金山

佐戸金山は観光地化されていて、料金を払えば坑道に入ることが出来る。

坑道内に入っていった僕たちを出迎えたのは、金山で働く人たちだった。

とても時代がかった服装をして、大変そうに働いている。

ちょっと現代では考えられないような、ツチとタガネを用いて岩を掘り進めている。

って、いやそんな馬鹿な。


「いや~、よく出来てるでしょ。この等身大人形達」

「あ、うん。一瞬本物かと思ったよ。すごく凝ってるんだね」


僕は感心しながら坑道内を見学していった。


坑道を掘る人形。

地中を測量している人形。

坑道内が落盤しないよう木材で補強の為の大工仕事をしている人形。

同じく木材で階段や梯子を作っている人形。

坑内に新鮮な空気を送り込むための装置を動かす人形。

湧いてくる地下水をくみ上げる人形。

坑内の休憩所で「仕事がきつい」とかボヤいている人形まである。


様々な説明書と人形を見ながら僕たちは一通りコース内を見て回り、外に出た。

堪能した~。


金山跡から相川の町の方に歩きながらマナミさんと会話する。


「私は小学校の遠足も、中学の遠足も、高校の遠足もここだったからさすがに新鮮な驚きは無いけど、昔の人たちは大変だったんだなあってここに来るとつくづく思うよ」


「かなり劣悪な環境で働かされていたんだね」


「そう。だから江戸時代の坑内で働いていた人たちは短命だったらしいよ。空気も薄いし、湧き水は湧いてくるし、落盤事故だってあったろうね。日々の仕事を無事に終えても、肺炎を患って亡くなったり」


「そうなんだ。坑内の説明書だと命を落とした労働者の代わりは江戸から供給されてたんだってね。江戸に流れ着いた浮浪者の無宿人、今でいうホームレス達を江戸の治安対策と佐渡金山の労働力確保の為に大量に佐戸まで送ったとか」


「そうそう。けれど送られてきた人たちも過酷な仕事でどんどん命を落としちゃう。カネちゃん。佐戸金山はちょっとした心霊スポットかもしれないよ?さっきの人形にも本物が混じってたりして・・・」


物騒な事を言うマナミさんと相川の海近くまで降りてきた僕は左手に巨大な近代的建造物が建っていることに気が付いた。


「マナミさん。あの建物は?」


「ああ、アレは浮遊選鉱場の跡地だよ」


「物凄い大きな工場みたいだけど」


「工場だよ。あの建物でも金が出来る過程の一部が行われてたんだって」


僕は今まで佐渡金山と言うと、江戸時代のイメージが強かったが、

ここに来て、それを改める必要があると痛感した。

坑内の説明書にも書かれていたが、明治以降も西洋の技術を吸収して採掘は続き、むしろ金の生産高は伸びたという。


「母さんも子供のころあの工場で働いてたらしいよ。何でもベルトコンベアーから凄い勢いで流れてくる鉱石をえり分ける仕事をしてたとか」


「えっ。弥栄さんが?」


そんな最近までここでは金が製造されてていたのか。

いや、ひょっとして今も作られてる?


「マナミさん。佐戸の金山って今でも採掘が続いているの?」


「残念!佐戸の金山は今年、平成元年の三月、資源がとうとう枯渇して四百年近い歴史に幕が降りてしまいました」


「そうなんだ」


何だか良くも悪くも絶妙なタイミングで僕はこの島に来たようだ。


マナミさんはふと真剣な表情になるとこんなことを言った。


「この島はね、四百年近く佐戸金山を中心とした一大工業都市だったんだ。でもね、それもとうとう今年でオシマイ。これからは新しい方向性を考えなきゃいけないんだ。この島も、私たちの住む寒戸関も」


それは僕というよりマナミさんが自分自身に言い聞かせているかの様に思えた。

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