小田原征伐 後編

第二十二話 動き出す関東諸勢

「突っ込めェェェ!」


斬り伏せた武者どもが地に伏し、なおも防戦を続ける。


上杉・前田連合軍は、当初の圧倒的な進軍から一転、徳川と氏照の援軍を前に守りに出ざるを得なかった。


「ええい騒がしい!!一息に斬り伏せよ!」


そんな中、上杉景勝は懸命に陣頭指揮を執った。真田と直江兼続が軍を離れたことで空いた穴が想像以上だったからだ。


正直物量で勝っていたからこそ、彼らの出る幕はなかったわけだが、こうも均衡してしまうと奇策が欲しくもなる。


「伝令!真田昌幸より、『ただちに街道封鎖を解き、おびき出すべし』とのこと!」


「ええい真田ごときいなくとも、この場は持ちこたえて見せよう!殿、ここは拙者が兵1500を率いて側面より攻撃いたしましょう。さすれば光明が見えてくるものかと!」


唐突にやってきた真田の策。この我に指図するとはいかに精強な上杉とて納得はできまい。これには家臣の言い分も一理ある。


しかし。


「しかし、だ。」


「目前の徳川・北条勢といい、先に対峙した北条氏邦ら鉢形衆といい、ことごとく予想外だ......」


本来ならば、圧倒的な力を見せつけ、民衆に恐怖を抱かせるほどの征伐のはずなのだが。



敵方は主戦力を小田原に割いたはずではなかったのか。


なぜここまで、勝機のないはずだった戦いを続けているのか。


...真田はもしや見越していたのか!


こうなるとわかっていたために、あのような強行軍で、軍律を犯してまで離脱したとでも言うのか!?


「やはり話は通じる。真田の狙いは間違いなく徳川!徳川との因縁を上田城にて晴らそうと言うのだな。そうか、読めたぞ!」


「全軍、正面の徳川軍は構わず、東側の北条勢を襲撃する!徳川には道を開けてやれ!」


「...ハハッ!」


「あともう一つ、後方の前田殿、依田殿にも勧告せよ!『狙いは敵の心臓部なり!』」





「殿!深く入りすぎております。ここは箕輪城に入城し、敵の退却を促しては?」


「...ああ、それもそう、か。」


一方の北条氏邦は、敵の後方、与田勢に圧力をかけるため、北上していた。

ちょうど、箕輪城を奪還し、尚も敵を蹴散らしていた。


ここが潮時、かもしれない。


「鉢形衆よ、ここまでよくぞついてきてくれた。これで徳川殿の本領帰還はなされよう。さすれば、戦況は大きく変わる。」


時は満ちた。あとは河越に居られるあの御仁に任せれば安心だ。


地黄八幡、北条綱成に。


すでに亡くなられたはずの御方が、世に隠れながらも牙を研ぎ続けていたのだ。


さらには、中世らしさの残る、かの河越城を、圧倒的な大要塞へと変貌させるにまで至った。


いよいよ始まるのだ。


「一大決戦が刻々と今、近づいてきておる!」


見届けようではないか。その戦いを。








「......伝令、関東諸勢、ついに動き出した模様!佐竹を中心としたおよそ一万八千の兵が猛烈に侵攻中!」








「待たれよ!関東管領、徳川殿。」


出陣前、正木は家康にひとつ尋ねた。

「貴殿は関東管領として我々に誠意を見せていただいた。関東武士たる我にとって、まさに誇りでござる。......されど。」


を奉じるかどうか、これだけは確認しておきたい。」


家康は兜を深くかぶり直し、振り返ることもなくこう言い捨てた。


「...古き世のことは、古きままでよかろう。足利なぞ、もはや滅んだも同然ではあるまいか?」


「し、しかし!関東管領とは関東府の公方様をお支えすることが筋では!?」


「もはや関東という括りは、ない。これからは天下の儀を話し合いましょうぞ。正木殿。」


それ以上、正木は話を継ぐことが出来なかった。


一言間違えば、里見が滅ぶ。

そう思ったのだ。




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