第50話 考察

 私の見立ては凍死だった。

この所見はまず間違いない。


「ここを見てください」

「これは……」

「センター長もお分かりでしょう。一酸化炭素中毒ではまずこうはなりません」

「しかし、状況的には間違いなく……」


 だれっだって、あの状況を見れば凍死なんて疑わないだろう。


「状況は一酸化炭素中毒の自殺に見せかけたかったんでしょうね」

「ではこのご遺体は……」

「他殺です」


 私はセンター長の前で断言した。

解剖を終えると、私はご遺体を綺麗に縫合する。


 ご遺体を綺麗にご遺族に返すのも、解剖医の務めであると私は思う。

解剖室を出ると、私は室内の一酸化炭素濃度の計算をする。


「やっぱり、おかしい……」


 その結果からもおかしな点は出てきた。

それを私はセンター長に報告をする。


「一酸化炭素濃度の計算が終わりました」

「今度は何がわかったんですか?」

「あの部屋は一度、開けられています」

「は?」

「私、計算してみたんです」


 部屋の広さ、練炭を炊いていた時間。

それを計算した結果、あの広さの部屋ではもっと高濃度な一酸化炭素濃度になるはずだ。

部屋を完全に密閉していたのならなおさらである。


「この一酸化炭素濃度は低すぎるんです」


 そこから考えられる可能性は一つ。

誰かが、一度あの部屋を開けたということだ。


 一酸化炭素濃度は通常、入ってすぐに測られる。

つまり、測った時に下がったのではなく、最初から低かったのである。


 これらの状況を全て総合して考えた結果。


「このご遺体は他殺です。間違いありません。これ、鑑定書です」


 私は作成した鑑定書をセンター長の前には置いた。


「こんなに早く鑑定書を作ってしまうとは。ぜひ、うちに欲しいですね。今回だけなのが悔やまれる」


 センター長は先ほどからの態度を一変していた。


「あなたのような優秀な医師を持っている王立病院が羨ましいですね」

「また、必要になったら呼んでください。院長に言ってもらえたら、私の耳には入るので」

「わかりました。また、機会があればお願いします」

「はい、では、あとはよろしくお願いします」


 医師として介入できるのはここまでだ。

ここからは捜査機関の仕事である。

これだけ、他殺という証拠を出したのだから、きちんと動いてくれるだろう。


「あ、最後に。犯人は凍死の遺体を一酸化炭素中毒に偽装しています。これは、凍死の遺体の特徴が一酸化炭素中毒の遺体と酷似するという知識がある者です。医療関係者かもしれませんね」


 凍死と一酸化炭素中毒の遺体が酷似することなど、一般的に知られていることではない。

少なからず、医療知識がある者の犯行であることが予想される。


「わかりました。私の方から伝えておきます」

「ありがとうございます。では、また何かあれば」


 そう言って、私は死因究明センターを後にした。

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