第6話 それはヤキモチ?


 俺は天音と一緒に学校へ向かっていた。


 だけど、さっき学級委員長の月野さんに迫られた現場を見られてしまったので、天音の反応はどこか冷たい。


「なぁ、機嫌直してくれよ」

「別に悪くしてないって。私、普段はいつもこうでしょ」

「まぁ……、そうだけどさ……」


 天音のそっけない態度は昔からだ。

 別に怒っているわけではないのだが、感情を感じさせない口調で話すので初対面の人からは誤解されやすい。


 俺は天音のことを知っているので気にしてないが、でも今の喋り方はどこか冷たいというかよそよそしい。


 すると天音が前を見たまま、つぶやくように訊ねてきた。


「春彦はさぁ。……その、やっぱり胸が大きい方がいいわけ?」

「そんなことはないけど」

「……そう」


 天音だって気にするほど小さいというわけではないのだが、やっぱり女子としては比べてしまうのだろう。


「あの……さ。確かにさっきは驚いて……その、アレだったけど。俺が見ているのは天音だけだからな」


 今の言葉はフォローをしている部分もあるが、それ以上に天音のことが好きだという意味がある。


 そりゃあ、月野さんの胸の谷間をおもいっきり見てしまったことは申し訳ないけど、天音への気持ちは揺らぐことはない。

 どうしてもそのことを伝えたかった。


 しかし天音はここで予想外のことを訊ね返してくる。


「アレってなに?」

「言葉を濁してるのに何で追及するわけ?」

「気になるから」

「……いや、でもハッキリと言ったら怒るだろ」

「怒んないから、言ってよ。アレってなに?」


 くぅ……、逃れられないか。


「えっと、月野さんの胸を見てしまったこと……です……」


 すると天音は見下すような目をして「はぁ~」とため息をついた。


「やっぱり怒ってるじゃないか……」

「ふふふっ。冗談よ」


 困り果てた顔をする俺を見て、天音は微笑んだ。


「春彦が私のことを好きなのは知ってるから。まぁ、男の子は条件反射で見ちゃうよね」


 なんだよ。ちゃんとわかってくれていたのか。

 それなのに怒ったフリをするなんて、イジワルなやつだ。


 でもどうしてさっきみたいな態度を?

 もしかして、ヤキモチを焼いてくれたのか?


 それってやっぱり、俺のことが好きだからだよな……。

 そう考えると、天音には悪いが嬉しい。


「あ……あのさ。また天音からあの言葉を聞きたいな」

「あの言葉?」

「ほら、俺のことをどう思ってるかっていう……」


 俺が求めているのは『好き』の二文字だ。

 もちろん天音が俺の事を好きだというのは知っている。

 だけど、やっぱり言葉にしてもらえると幸せなのだ。


 しかし天音は人差し指で唇を抑えた。 


「んー。今はお預けかなー」

「え、なんで?」

「言って欲しかったら、たくさん機嫌を取ってよね」


 ちぇっ。そううまくはいかないか。

 まぁ、機嫌を取るというわけじゃないけど、天音を喜ばせたい気持ちはあるし、それでいいかな。


「もうすぐ学校ね。じゃあ、学校では私達が義兄弟になったことは内緒ということで。今まで通りの普通の関係で通すよ」

「わかった」


 ……と、ここである疑問が浮かんだ。


「そういえば学校だと苗字はどうなるんだ? さすがに苗字が俺と同じになると、クラスのみんなにいろいろ言われそうだけど……」


 そう。父さんと葉子さんが再婚し、天音の苗字は高峰になっている。

 だけど学校でその苗字を使えば、俺達が兄妹になったことがバレてしまうのだった。


 この疑問に天音は当然のように答える。


「空野のままよ。お母さんが事前に先生達に相談して、高校を卒業するまでは旧姓のまま呼んでもらえるようにしてくれたみたい」

「葉子さんって、そういうところは段取りいいよな」

「基本的には優秀なんだよね。……天然で周りを振り回すところを除けば……」

「はは……」


 あとは月野さんか……。

 さすがに教室で会うのは気まずいな……。


 でもそれは向こうも同じだろう。


 ほとぼりが冷めるまでは、ほどほどに距離を取った方がいいのかな……。


   ◆


 こうして俺達は学校に到着した。


 一時限目の授業は科学。

 俺達は理科室へ移動し、授業を受けることになる。


 教壇に白衣を着た中年の男の先生が立った。


「あー、今日の授業は鉄と硫黄の反応実験だ。班に分かれてそれぞれ力を合わせてやるように。それと今日から新しいメンバーで班を組んでもらうからなー」


 新しいメンバーで班別けか……。

 まさか天音や月野さんと一緒の班になることなんてないよな。


 はは……。そんな偶然、あるわけがない……。


 俺の心配をよそに、先生は班別けのリストを読み上げた。


「じゃあ班別けを発表するぞー。A班は……高峰春彦、空野天音、月野優香。以上だー」


 なんでだよ!!

 まさか先生、わかっていてワザとこんな班別けしたんじゃないだろうな!!


 こうして俺と天音、そして月野さんが同じ机に集まる。

 だけど三人の表情はぎこちない。


 アアアアーーーーーーッ!!!

 気まずい! 気まずい! 気まずいぃぃーーーッ!!!


 ほら! 月野さんなんて、さっき勘違いして俺に迫ったことを思い出してブルブル震えてるじゃないか! しかも涙目だし!!


 天音はどう立ち回っていいかわからなくて、挙動不審になっちゃってるよ!


 そりゃそうだよな!

 だって好きな相手とそれに迫った相手がすぐ目の前にいて、今まで通りに振る舞おうとしてるんだから!!

 あっ! 頭を抱えだした!!


 そしてこの状況を見ている俺も気まずさに耐えかねて、全身が痙攣しそうになってる!!


 どーすんの、これ!!

 こんなので実験なんてできねーよ!!



■――あとがき――■


いつも読んで頂き、ありがとうございます。


「面白かった」「続きが気になる」「気まずさがヤバい!」と思って頂けたら、

【☆☆☆評価】【フォロー】をして頂けると嬉しいです。


皆様の応援がモチベーションに繋がります。

よろしくお願いします。


投稿は一日二回

朝・夕の7時15分頃です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る