第2話 新しい家族


 天音と別れた夜、俺は自宅のキッチンで夕食の準備をしていた。

 と言っても、スーパーのお惣菜と冷凍食品をチンして並べるだけなんだけど。


 ふと、さっき別れた天音の事を思い出す。


 今頃なにしてるんだろうな。

 確か再婚相手の家に行くって言ってたっけ。


 俺……天音に告ったんだよなぁ……。

 そして天音も……って!!


 うわぁぁぁぁぁ!! 思い出したら恥ずかしいぃぃぃ!!

 陰キャの俺がよくあんなことを言えたよな!!


 ……まっ。こんな気持ちも今だけさ。

 だって、もう天音は遠くに行ってしまったんだから……。


 はぁ……、これって失恋なのかな。

 こんなことなら、もっと話をしておけばよかったな。


 スッキリしない気持ちを抱えていた時、リビングから声がした。 


「春彦。ちょっと話がある」


 声を掛けてきたのは、父親の高峰たかみね純一郎じゅんいちろうだった。


 今年で四十三才。細身で最近は白髪が増えてきたと嘆いている普通の会社員だ。

 たまにオヤジギャグを炸裂させるのが困るが、いい父親だと思う。


 俺は手を洗って父さんがいるリビングに向かった。


「なに、父さん?」

「ん? 落ち込んでいるように見えるが、何かあったのか?」


 父さんが気づいたのは天音の事だろう。

 やっべ。表情に出てたか。


「大丈夫だよ……」

「俺はお前の父親だ。何かあったら何でも相談してくれ」

「父さん……」


 母さんと別れて五年……。

 父さんは一人で俺の事を育ててくれた。


 きっと俺には言えない悩みも抱えているのだろう。

 父として、男として尊敬できる人だ。


 ……そう考えていた時、父さんはニタリと笑って親指を立てた。


「安心しろ! 春彦が巨乳好きなのは、ちゃぁ~んとわかっている! だがな、女は胸が全てじゃないからな。そこはしっかりと理解しろよ!」

「あのさ……。俺が今、どれだけ冷たい目でアンタを見ているか気づいてるか?」


 前言撤回。このオヤジ、言葉を選ぶということを知らんのか。

 まぁ、巨乳好きなのは否定できないが……。


「そんなことより春彦。新しい母親とか欲しくないか?」

「いや、別に……」

「そう言うなよ。本当は欲しいんだろ? わかってるぞ。父さんは何でも知っている。知っていることしか知らんけどな。うんうん」


 唐突になんだよ。

 新しい母親? 今さら?


 確かに手料理の朝ごはんとか憧れるし、何かあった時に母親にしかできない相談って言うのもあるだろう。

 でも、急に欲しいかと聞かれても困るんだよな。


「えっと……。もしかして再婚を考えているとかそんな話? それなら父さんの自由にしていいよ。俺ももう十七歳だしさ」


 すると父さんは妙なことを言い出した。


「いや、少し違う。もう再婚しちゃったんだ」

「……は?」

「もう再婚しちゃったんだ」

「マジ?」

「マジ。さらに付け加えると、今日から一緒に住むことになった」

「はぁ!?」


 え? ちょ、ちょっと待って。

 落ち着け。冷静に状況を整理しよう。


 つまり父さんは俺の知らないところで再婚していて、しかも今日から新しい母親が来るっていうのか?


 別に再婚するのを反対はしないけど、展開が飛びすぎてるだろ。


「いやいやいやいや! ちょっと待ってくれよ! いくら何でもいきなり同居なんて急展開すぎるって!!」

「さぷら~いず」

「嬉しくねぇよ!」


 なにが『さぷら~いず』だ!

 しかも、やってやりましたみたいな顔をしやがって!!


 父さんは俺を落ち着かせようと「どうどう」と言いながら、両手で抑えるようなジェスチャーをした。

 でも顔がにやけてんだよな。絶対に楽しんでるだろ。


「まぁ、安心しろ。さすがの父さんも見ず知らずの女性とお前をいきなり同居させることはしない」

「どういうことだ?」

「春彦もよく知っている人ということさ」


 その時、インターホンの音が鳴った。


「おっ、来たな!」


 たぶんやってきたのは再婚相手の女性なのだろう。

 父さんはインターホンに出ることもせず、嬉しそうに玄関に向かって走って行った。


 しばらくして、父さんは再婚相手とその娘さんを連れて戻ってくる。


 俺はそのクール系の娘さんを見て、思わず声をもらした。


「え……、天音?」

「……こ、……こんばんは。……春彦」


 そう。現れたのは幼馴染の空野天音だった。

 そういえば天音も母親が再婚して、今日は再婚相手の家に行くって言っていた。


 つまり、父さんの再婚相手は天音の母親で、……これから天音は義妹になるってことか!?


「もしかしなくてもだけど、天音の母さんの再婚相手って……」

「うん。春彦のお父さんみたい。……私もね、ついさっき初めて知ったの」

「じゃあ、転校の話とかは?」

「わ……私の……早とちり……」


 そこまで言うと、天音は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてブルブルと震え出した。


 無理もない。俺も同じ気持ちだ。

 だってついさっき、青春ドラマのような別れ方をしたばかりなんだぞ。


 気まずい! 気まずすぎる!!


 天音も同じように恥ずかしいらしく、顔が引きつっていた。


 どうしよう、どうしよう。

 もう会えないかもしれないと思ったから、あんなに熱く語って告白したのに、これからずっと一緒に生活するのか!?


 羞恥心を必死に抑えながら、天音は言う。


「ねぇ……。私……今、メンタルがとんでもなくヤバいことになってんだけど……、泣いていいかな?」

「言うな。……俺も今、恥ずかしさで心肺停止寸前なんだ……」



■――あとがき――■

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